ACE
COMBAT Zero
The Belkan
War
The fate neatly
reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward
War...
−決意−Mission12-Interval
アレ、本当に起こった事なんですよね。
……お前が現実から逃げるのか?
見るべき現実に、実感が未だもてないんですよ。
あの景色と、あの孔が、未だに重ならない。
ヴァレーに帰る余裕は無かった。
だけど……それで良かったと思う。
「なあ、大丈夫か?」
喉が熱い。胃が焼ける。クロウ隊の隊長さんがさすってくれる手が気持ち良い。
こんな状態で……ここまで飛べただけでも奇跡だだった。
「え、ええ……ぐえっ」
第三波。
滑走路脇の格納庫裏に胃の中身をありったけぶちまける。
第二波。
押さえようとした私の手を伝って滑走路からココまで転々と続いてる。
グローブはめて無かったら本当に悲惨だった。
第一波は……。
「Pちゃんは?」
「シャワールームぶち込んできた」
タラップの真下にいたPちゃんに直撃弾。
「間接キスとしては最悪ですね……」
「ついでに言うとな、お前の顔色も最悪だぞ?」
「……余裕ありますね」
「はは……後で青くなるんだろうよ」
声が乾いてる。実感が湧かない。
あの光も、もう一つの朝日も、しっかり覚えている。
そして……私の機体の後ろに、片羽のイーグルはない。
「でも……起こったん……ですよね」
代わりに連れてきてしまった追撃組の生き残り二人。
国がどうのと言ってられない状態になり……私達はしくじった。
「おーいサイファー」
「はい……?」
「あっちの連中、お前にきっちり会うまでテコでも動かないっつってるぞ」
彼……彼女達は、機体に寄りかかる形で待ってた。
女性パイロットが二人。
長身にブロンドを靡かせたのと、小柄な栗色の……アデーレさんに少し似てる。
守衛達が取り囲む。周囲の……殺気と、言うのかな。
「そんなに心配しなくてもいいのに」
口を開いたのは、長身の方だった。
「エースなら、このぐらい心配して貰って丁度いいんじゃないのかい、鬼神殿?」
もう一人は口をつぐんでそっぽを剥いている。
「ですかね……」
そう呟いた刹那、肩を掴まれて彼女の顔がぐいっと迫る。
守衛さん達唖然……そんなんじゃ私ホントに殺されちゃいますって。
「お前今、自分何てどうでも良いと思わなかったか、ん?んー?」
「あ、あ、あの、な、なんですか……?」
ていうか、この人ホントに大きいんですけどー……。
完全に覗き込まれる形になって……。
「子供、だな」
「……はい?」
「うちでな、流行ってたのさ。ガルムの猟犬、中身はどんな奴だろうってね」
酒の肴にされてたわけですか。
「満場一致で女だったんだが……大穴だったな」
そう言って、少し笑った。
何処からあんな笑顔が出るんだろう。
どこから、あんな力が出るんだろう……。
「どうして……」
「君の所行は知ってるよ。だけど……もうその頃と違うんだろ?」
そう言って、笑って言ってしまった。
デブリーフィングは形だけのものになった。
上のドタゴタも相まってそれどころでは無かったのが正しい。
通された部屋は、おそらくここでは一番の一等地だった。
中もそうだったけど、何より近くにある街を見下ろせる。
「で、何でPちゃんと相部屋なんですか」
「追い出されたっす……」
「私も正直お近づきになりたくありません」
「酷いっす」
「もっと酷いことが、あったばっかりでしょうに」
「……ええ」
もっと苦しいと思っていた。
もっと悔やむと思っていた。
……確かに苦しい。確かに悔しい。
でも、自分の中には、まだ冷静な部分が残っていて……。
核が落ちて、沢山の人がいなくなった。
妖精さんが撃って来て、そのまま居なくなった。
結局何も守れなかった。
血塗れの手は、血塗れのまま。
だけど、もう逃げられなかった。もう狂えなかった。
そして、まだ戦えるだろう自分が居る。
もう逃げられない自分が居る。まだ狂ってない自分が居る。
外は、まだ明るい。
街まで、徒歩数分ですかね。太陽はやや傾いているけど……。
「……Pちゃん」
場所は一階。ご丁寧に、フェンスが目の前。
「なんです?」
「日没までには戻って来ますんで」
「え?」
窓に足かけて、よじ登る間でもなく、さぁいざ行か……。
「何やってる!!」
と、このドスの利いた声は……。
「何で中佐がここにいるんですか?」
「近場に滑走路の空いてる基地が無かった」
あー、大きいですものねえ、E-767。
「……で、何しに来たんですか?」
「大丈夫そうで何よりだ」
「これから脱走しようって人間が、ですか?」
「そうだ。だがな」
「止めるんだったら無駄……ぶわ」
顔面なんか飛んで来た。ジャケットと、そのポケットに銃。
中佐お気に入りのビンテージ物のリボルバー。
「軍人丸出しの格好はやめとけ」
「もうちょっと大事に扱いましょうよ」
ご厚意には、甘えさせて頂きますけどね。
「所でPJ、何か臭わないか」
「い、いやー、なーんの事かなぁー?」
歩いて数分。走って一分。中世の面影を遺す、石畳と煉瓦の街。
傾きかけた太陽の光が色んな所に長い影を落としていた。
「静かだな」
無理もない。距離にしたらそれほど無い場所で、あれだから。
静かで、だけど騒がしい。道を歩けば人と擦れ違う、店の前を通りかかれば声をかけられる。
……もっとも、軍人と解るとその表情が強張ったような、哀れむようなそれに変わったが。
結局、何も変わらない。
核が落ちても、街が燃えても、結局、人はいつもの生活を繰り返してる。
あの時も、あの街では、同じように、いつものように。
実感が湧かない。もっと気が狂ったように泣けると思っていたのに。
結局、生きるのに必死だった。
子供の足音が聞こえる。まだ戦争は続いてるのに、ここは平……。
どんっ
視界が30度ぐらい回る。羽みたいに軽い自分の体。
踏み止まった時に、長い髪が手元を掠める。
石畳に、特徴的なツインテールの影が伸びる。
手には拳銃のシルエット。
そして空になった自分のポケット……。
「……嘘!?」
スられた?子供相手に?よりによって、拳銃!!
中佐のビンテージ!いやいやいやそんな問題じゃない!
「待って!」
彼のそんな情けない声を聞いたのが、私のちょっとした自慢。
「あの子」に勝てる唯一の要素。
「待ってくれ!!」
「きゃっははははははは」
甲高い笑い声。足はそんなに速く無い。
流石に髪を掴む事はできなくて、でも手を掴むのにそれは邪魔で。
思ったよりとろくて、肩を掴める距離になるのにそんなにかからなかった。
なのに、その子の紫色のブラウスが一瞬、ぶれた。
「!」
私、その時はもう何やっても許されると思ってたから。
体勢を立て直す。その子は、走りながら、踊っていた。笑っていた。
「なくなった!ぜーんぶ無くなった!」
甲高い声が耳を付く。
届くはずの手が、ことごとく空を切った。
届く、届くはずなのに。
「学校も先生も、全部なくなった!」
この子は……あの時焼かれた街の……。
まさか、この人がそうだったなんて気付いて無かった。
基地が見える緑の丘。そこが終着点。
喉が痛い。肺が痛い。心臓が痛い。足が痛い。
夕日が染みて目が痛い。
「無くなった。全部無くなった」
夕日が染みて目が痛い。
「陰口叩いてた連中も、見て見ぬふりしてた先公どもも、全部、全部、無くなった」
紫のブラウスに、ジーンズの巻きスカート。
長いツインテールの目立つ、10歳ぐらいの女の子だった。
そうだと解ってたって、この時は関係なかったし。
「お願いしたの、全部、全部焼いちゃえって、全部、全部!」
−いっそ、こんな街、全部−
ただ、狂ったように叫んでいた。
泣いてた。笑ってた。泣きながら、笑いながら、壊れていた。
「傭兵さんでしょ、ウスティオの」
何も返せない。ここで撃たれたって、何も言えない。
私達が、私が、ベルカをあそこまで追いつめたのか?
甲高い声が、途絶える。
「やっちゃってよ、燃やしちゃってよ」
嘲りを含んだ、低い声。まだ泣いてる。
「ホフヌングみたく、あの街みたく、伯父さん達みたく!」
泣きながら笑うこの子は、よく似ていた。
「大人は叩くと怒る癖に、人殺して平気なんだ」
人の視線を恐れて、絶望から逃げ出すのがやっとだった彼女に。
「嫌な事されたら、我慢しなさい、我慢しなさい、我慢しなさい!」
もう、言葉に意味は無くなっていた。ただ泣いてた。
「何が違うのさ!アタシがあいつらにやられたことと、オーシアがベルカにやったこと!」
ただのヒステリーだと言えばそれまでだったのかもしれない。
「燃やしちゃってよ、もう、あの国にはゲス野郎しか残っていなんだから」
丁度、10歳ぐらいの彼女がそうだった。
「本当に、いなかったのか?」
それとも、私が連れ帰ったのが最後の、ゲスじゃない人達か?
「本当に、ゲスな奴等しかいなかったのか?」
「いたよ。一緒になくなっちゃった♪」
絶望への一矢は、思わぬ傷を抉りだした。
「デイズ君も、ソル君も一緒にいなくなっちゃった」
静かになった。
「バルトおじさんが生きてたら、あんな事なんなかった」
静かに泣いてた。
「カワウの伯父さんは、ガルムの猟犬に殺された」
この子を、壊したのは……。
壊してしまうつもりなんて、全然無かった。
小さな顎に突き付けられた拳銃。
とっさに手を取った。奪えなかった。
せめて銃口を、この子の顎から放してやる。
「君が一番壊したいのは、私なんじゃないのか?」
でも、その手を握ったまま、どうにも出来なくなった。
「私が、そのガルムの猟犬だ」
呆けたような目に、戸惑いの色が浮かんだ。
ただ、こんな所で出会えるなんて思ってもみなかったのよ。
ガチガチ鳴ってるのは、歯の音?シリンダーの音?
「何……言ってるの……?」
「私だよ、その猟犬は」
「何で……」
「ごめんね……」
握った手を離して、ぎゅーっと。
仇にこんな事されて、良いかどうかは別として。
自由になった手で、こめかみズドンとやられるかは別として。
皮肉よね。全部どうでも良くなった頃に、一矢報いることになっていたなんて。
もう逃げない。
もう狂わない。
そう思った。
そう誓った。
だから……。
「許してくれとは言わない」
今は、しなくちゃいけない事がある。行かなくちゃいけない所がある。
「ただ、まだ時間が欲しいんだ」
銃口が心臓の前に来ていたのには気付いていた。
だけど……。
「何で、泣いてるの……?」
「何でだろうねえ……ははは……」
きっとこの子は撃てない。もし当てが外れたとしても……。
「恐いの?」
「うん……凄く」
「ソル君がね、教えてくれたの」
「……何て?」
あの人……結局ずっと泣いてたのよ。
生きようと思った。
「シリンダー押さえたら、リボルバーは撃てないの」
「ばれた?」
その矢先に殺されたくは無かった。
「……ばーか」
そう言いながら、拳銃は返して貰った。
「は……はは……あはははは……」
だだっ広い野原。日はもう沈みかけてたけど、寝転がったら気持ちよかった。
「……飛ぶの?」
「戦争、終わらせなきゃいけませんから。それに……」
「それに?」
「基地に、待ってる子達がいる」
「そう……」
どのくらいそうしていたかな。日はすっかり暮れちゃって……。
「サイファー!」
あー……Pちゃんが呼んでる。
「おい、シエロ!!」
中佐もいる……はて、何か忘れているような。
−日没までには戻って来ますんで−
……あ!
「待ってる子?」
「いや、あんなおっきくな……いだだだだだっ!中佐、腕、腕捻ってる!」
「そりゃすまんな」
抗議したら肩に担がれました。荷物ですか私ー。
Pちゃん「酷いことされなかった?」って、私をなんだと思ってんですか。
「サイファー」
名前を呼ぶ、小さな声。
その子が、去り際に言った。
「ありがとう」
その後は見てないの。ただ、中佐の肩はずぶぬれだったんじゃない?