ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

−依存−Mission11-Interval

 どうしました妖精さん。黙りこくっちゃって。
 お前こそ目の焦点が合ってねえぞ。
 ま、あんな事があったんじゃ仕方在りませんかねー。
 お前はその被害を真正面からくらったわけだしな。

「何やってんだよまったく……」
「だるいー……」
 ベッドの上に丸まってるマシュマロ……と、呼ぶには少々細長い。
 シグいわくこういうのは「きりたんぽ」と言うらしい。
 今日ばかりはホテルに悪いがシグ一家の「盗癖」に感謝した。
 素材は羽毛布団。二枚あるから汗を吸ったら取り替えるの繰り返し。
 そして中身の具材は相棒と……。
『……』
 長男がセット。結局俺は他の子供達と同じ部屋で寝るハメになった。
 要求があるなら口で言え口で。
「喉が渇いたそうです……お願いできます……?」
「ったくしょうが……」
 コンコン。
「ん?開いてるぜ」
「誰ー……?」
「サイファー、大丈夫っすか?」
 クロウ3……PJだった。手にはカップ入りの何かが二つ。
「これ、風邪に効くんすよ。ショウガ湯」
「お、気が利くな」
「ぇー……熱いのぉー……?」
 買いに行く手間が省けたってのにコイツは……。
「いや飲んで下さいよ。せっかくシンシアが作ってくれたんすから」
「シンシア?」
「あ、えーっと、その、俺の……彼女」
 なるほど。耳まで真っ赤にして……って、お前が暖まってどうすんだ。
 相棒は相変わらず布団の中。匂いにつられた長男が顔だけ出してる。
「……じゃあ、飲まないわけにいきませんか……」
 俺の居るアングルからだと奥から覗き込む相棒が見えて、キモイ。
「美味しいっすよ♪」
「お前等、せめて上半身だけでも布団から出せ」
 きりたんぽがマシュマロのに変わっただけか……
「零すなよ、一応羽毛だから」
「……美味しい」
「お?」
 長男はもう飲み上げて……視線がまだ熱さと格闘中の相棒に注がれるが……。
「……」
 譲る気配無し。
「美味しいでしょ。俺が始めてここに来たときもやっぱ風邪ひいちゃって、その時、彼女が作ってくれたんですよー」
「ふーん……」
 いや、何か様子がおかしい。
「でもその時まだ向こうには何にも言ってなくって……」
 相棒が長男と一緒に布団の奥に潜り込んでるんだが……いや、中腰?
「まだそれがきっかけだったって事はまだ話して無かったりして♪」
「おいPJ」
「なんすかピクシー?」
「それ、地雷」
「よっぽど仲むつまじいこーとーでー」
「え……」
 背後には、マントよろしく羽毛布団を広げた相棒と、その横に更に大きく広げるべくスタンバイする長男。
 ベッドの高さも追加されてそれこそ今にも覆い被さるばかりの勢いで……。
「がばーっ」
「ガバー」
「んぎゃーっ!!」
「おっと」
 そのまま毛布にとっつかまるPJ。
「んじゃ次はPちゃんが看病してもらいまーすかぁ〜?」
「ちょ、耳、耳に息ーっ!!」
 きりたんぽが子鴉を捕食中。
 逃げようとするPJを逃すまいともそもそ動くから尚更捕食してるように見える。
「相棒……それ、僻みじゃねえか?」
「うつして治す」
「あのな……」
 ま、今更っちゃ今更か。
「年の近い友達も出来て良かった良かった。じゃ、ショウガ湯のおかわり貰ってくる」
「ピクシー待って〜っ」
 とりあえず医務室にいたアデーレとシンシアはショウガ湯の好評ぶりを喜んでいた。
 PJが捕食されてる事についてはあえて触れないでおいたが……。
「もこもこ。もこもこ」
「あったかくて……気持ちいいけど……なんだかどんどん力が……抜けていくみたいっす……」
 目がうつろになっている……いや、それだけならまだいいんだが……。
 仰向けなってて、相棒がその上にのっかってて……傍目には……なあ?
「ジェ、ジェームズ……」
「あ……シンシ……」
 俯いて、肩振るわせて……。
「不潔だわーっ!」
「あーっ!待ってーっ!!」
 そのまま走り去る。追いすがろうにもきりたんぽと同化してちゃ無理だろうな。
「ぎゅう」
「ふにゃあ」
「シ〜エ〜ロ〜……」
 と、俺の横でも拳が鳴ってる。相棒とPJ、きりたんぽにくるまった状態で床に転がっている。
 つまりその顔面がアデーレの足下にあるわけで……。
「何やっとるか貴様はーっ!!」
 蹴り上げた足がクリーンヒット。布団ごと吹っ飛ぶ相棒。
 布団の中で呆然と見ているPJ……と、長男。
 俺?ああ、逃げた。とりあえずPJにも近寄らないよう子供達に忠告もかねて。

 そして廊下を曲がった先で、中尉が待っていた。
 両手に持ったココアからして、待っていたか。
「甘いのは苦手でしたか?」
「あんたが甘党とは思わなかった。」

 いやーあの時は暴れた暴れた。
 え、病人?いいのいいの。
 ほら、昔から言うでしょ、馬鹿は風邪引かない。
 ホント……今でも馬鹿よ、あの男は。

「よーし大人しくなった大人しくなった」
「あの……なんか酷くなってません」
 あれから何発ぐらいどついたっけかね。ピクも愛想尽かしてどっかいっちゃったぽいし。
『……』
 髪踏んでしまった長男の恨みがましい目だけが痛い。
 男の癖に伸ばしてるからいけないのー。
「PJ今日一日子供達に接近禁止」
「何で!?」
「うつるから」
「ひ、酷いっすー……」
 拗ねたからやって来たクロウ隊の同僚にお引き取り願いました。
 毛布にくるんでぽいっとな。
「で、体調の方どうよ?」
「……少し」
 だるいのか良くなったのか。
 ま、襲いかかる元気があるぐらいだから大丈夫なんでしょうけど。
 長男はぐっすりお休み。こっちは心配無さそうね。
「ったく、軍人なら体調管理ぐらいしっかりやんなさいよ」
「すいません……」
 ぐったり。しおらしいシエロって言うのもなんだかなあ……。
「大丈夫……ですか?」
「は?」
「……みんなは」
「ああ。そっち、うん。みんな百戦錬磨だから。帰還直後ほど酷かなかったよ。あと、シグさんは二週間ぐらい飛べそうに無いみたいだけど」
 そう言ったら、良かったって呟いて……眠りそうで眠らない。
 派手に暴れたりするからよ。
 うやむやになってたショウガ湯のおかわり取りに行こうとしたら……止められた。
「病人の割に対した握力じゃないのさ」
 その手は、少し震えている。
「私は……」
 なーんだ。
「アンタが一番凹んでんじゃない」
 あ、しょげた。
「軍人がんなこと気にしてたらやってらんないでしょーが」
「……でも……」
「アンタ、軍人やめな」
「え」
「随分派手に、えげつないことやってたんだってね」
 布団の中潜りこみやがった。ま、羽毛じゃ大した防音効果にゃならんでしょ。
「でも、アタシには何もしなかったね」
 よく覚えている。押し倒された痛みも、怯えたような顔も。
「出来なかったんでしょ。後が恐くて」
 布団はね飛ばしても、起きる元気は無し。
「壊れたんだって言い聞かせないと、出来なかったんでしょ」
 腕を掴まれたけど、コレなら逆に押さえつけられそうなぐらい弱々しい。
 ついでなので飛ばした布団を改めてかけてやったりする。
 こうなると子供の看病と殆ど変わらないね。
 ……て、横にはほんとの子供が寝てるんだった。
「ま、今はとっとと風邪治せってことで……おい」
 ぐっすり寝息立ててやがった。
 しょうがない奴。
「……まあ、生き残れよ。帰らなかったら、泣く奴がいるんだから」
 年上のはずなんだけどねえ。

 生き残れ……か。
 その間中、側にいられましたからねえ……。
 で、アデーレとはなんもなかったわけだ。
 妖精さんこそ、なーんにも無かったんですかぁー?

 あの日の陰鬱が嘘のような天気だった。
 シェーン平原には、あの日と変わらぬ緑が広がっていた。
 ……気晴らしの為のセッティングだと言うことは明らかだった。
「暇。たるい。暇。たるい」
「慈雨さーん、一応真面目に見回りましょうよー」
 同伴がこいつらじゃなけりゃなー。
「お互い一番機ダウンの余り物同士仲良くだらだら」
「しねーよ」
 暴れられりゃそれでいい生粋の空戦馬鹿と頼りない旦那はないだろうに。
 クロウ隊がまた別な所を割り当てられてるようだから、傭兵部隊全員、今日は好きなだけ飛んで来いってことだったんだろうな。
「……前方に機影確認、IFF、オーシアのものです」
「んー。交代てオーシアの?」
「方位、フトゥーロに向いてますよ?」

「浮かない顔だな、ラリー」
 一緒に帰る連中だった。以前にも思っていたことだったが……。
「お前と違ってな」
 ジョシュア・ブリストー。オーシアにいたころの知り合いだった。
 一度は、理想を語り合ったこともある。
「相棒は何処行った?」
「……今日は別行動だ」
「ほう?」
 ……その理想が、今は煩わしいと思う。だが……。
「ホフヌングの件、聞いたぞ」
「そうか」
 あんな事が繰り返される事が、良いとも思わない。
「上は強硬姿勢を崩していない。この調子で押すんだとさ」
「要件は、何だ?」
「時はきたれり、だ」
 流されていれば、それを繰り返すのはこの手だ。
「……あのな」
「もう躊躇う必要は無いだろう。何がお前を引き留める?」
 傭兵である以上、出来ることは一つと解っていても。
「手の掛かるガキがいるんだよ」
「その子供を、戦場に立たせるのか?」
「今更おろせると思うか?」
 またプッツリいかれるのは御免だ。
「だがな、ラリー。本当に、お前が必要とされているのか?」
「……どういう意味だ?」
「さあな」
 その言葉を最後にやっと帰ってくれた。
「……知ってるさ」
 何時だって、何処の戦場でだって、やることは何も変わらなかった。
 ただ、求められた力を貸すだけ。その繰り返しで良いはずが無い事も。
 本当に……その理想が、そこまでしてすべき事なのかも解らない。

 だけどよ、こんな子供をほっぽって行くわけにはいかないんだよ。
「よう相棒、まだ生きてるか?」
「……」
 ぐっすり寝てやがんの。長男が居ないところをみると、貰ったかな。
 そう思って、額に手を乗せたら……掴まれた。熱い。
「おかえりなさー……い」
「何だ。起きてたのか」
「そろそろと思って……寝過ごしましたー……」
「ったく、ガキじゃあるまいし」
「じゃあ何で撫で撫でですかぁー……」
「うるせ。とっとと寝て治せ」
「うー……」
 ったく、鬼神なんて、名ばかりだよ、ホント。

 で、その後に……ですか。
 無理も無いのかもしれません。
 でも……馬鹿な人。
 少し歯を食いしばっていただけますか?

 ピクシーの出迎えに、思わぬ同伴者が現れた。
「サイファーさんは、お兄ちゃんが独り占めしてるから」
 シグの長女だった。
「みんな言ってる。サイファーがまともな奴になったのは私達のおかげだって」
 笑顔のまま、意地を張ったような声だった。
 子供を、侮ってはいけない。忘れがちだが、大人の行動に苛立ちを覚え始める年頃がある。
「でも私達は何もしてない。側にいたのは、いつも氷雨だ」
 声だけなら、敵を睨むようだった。そして、それは他ならぬ事実だった。
「伯母さんが言ってた。今一番ツライのは妖精さんだって。だから、私がひーちゃんの代わりに側にいるの」
「では、一緒に待ちますか?」
 ……視線は、本当に私を睨んでいた。
 邪魔者扱いなんだろうか、私。
 とはいえ、私も出迎えないわけにもいかないし……。

「で、何時まで廊下で火花散らしているのかね?」
 滑走路には片羽のイーグルとフォックスハウンドが仲良くハンガーに向かっていた。
「司令……」
「……」
 遅かれ早かれと言いますが、人に指摘されるのも面白くないものです。
「おや、お呼びでない?」
「いえ、何のご用でしょうか?」
「んー……まーた動くみたいだから、ほれ」
 そう言って投げて寄越されたのは、作戦司令書だった。
「……また、戦闘?」
「そのようです……。」

 内容は、最悪だった。
 スーデントールに籠城する敵戦力の殲滅。また市街での戦いを強いられる。
 本当に壊す気でいるんだろうか、彼等は。

 何もできないまま朝が来て、その時が来てしまう。
「ガルム隊!」
 私には……何が出来ただろう。

「御武運を!」

 何か、出来なかったのだろうか。