ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission10

 何というか、壮絶な擦れ違いだったわけだ。
 壮絶というか運が悪いと言うか、ベルカが馬鹿だったというか。
 その頃には、私達も別の罠にはまってたみたいですけど。
 ……そう、何も考えずに、ただ飛んでいたから。

 結局あの作戦、本命は潰せたけど痛み分けに終わっちゃいました。
 帰ってきて、キラービーが陽動隊をことごとく殲滅していたって言うんですから……。
 私達が飛び込んだ頃には終わってたんですけどね、戦闘。
 そのままフトゥーロの基地で補給を済ませる事に。
「どうやら、勝利より意地を取ったらしい」
 残っていたのはシグさん達と、あと二、三機と……。
「あのステルスさん達がいなかったらもっとやられてたんじゃないかな」
「おいエド。味方じゃなくて敵の見つけろよ敵の」
 向こうに並んでいる、ステルス機の四機ぐらいですか。
 天気は快晴……ていうか、暑い。
 なのにベンチでぐたーっとはさせてくれなかった。
「やっぱりガキだった」
 オーシアのパイロット。がっしり系?陽気な兄ちゃんって感じの。
「ここ奪還の時に、えらいなめてくれたじゃねえか」
「……いましたっけ?」
 ただ、今は酷く疲労してたっぽいですけど。
 何にも言わずにベンチにどっかり……汗くさー。
「ったく……言ってくれるぜ」
「相当、やられちゃったみたいですね」
「残念だったな、そっちに来なくて」
「全くです」
 あんな砲撃の中来られても困ったかなとは思うけど。
「そういや、お前の相棒向こうにいたぞ」
「そうですか……」

「で、アレがお前の相棒か」
「まあ、な」
「随分やるらしいじゃないか」
「……あいつは、着かないぞ」
「言い切ったな」
「手ぇ出すなよ」
「やれやれ……そろそろ見えてきたと思ったんだがな」

 で、それから3日か四日?でしたっけ?
「……ァー?……サイファー?」
 んー……なんですかー?えーっと……PJでしたっけ、Pちゃんでいいやもう。
 人が気持ちよーくお昼寝してるというのにー。
「緊急出撃命令だ」
「!?」
 て……何でいきなり緊急出撃?ていうかここブリーフィングルームなんですかー?
 しかも周囲は淡々と何事も無かったかのようにしていますしー。
 含み笑いの声が少々聞こえるんですけどそれだけってどう言うことですかー。
「起きないお前が悪い」
 とは妖精さん。
「現在、国境付近に位置するベルカ絶対防衛戦略空域B7Rに於き、連合軍とベルカによる大規模な空戦が展開されている」
 何事も無いように、ブリーフィングが淡々と進んでいた。
 そして何事も無かったかのように進むブリーフィング。
 円卓の不可侵条約破棄、最後の要を失ったベルカにいよいよトドメを刺しに行く、か。
「知ってました?不可侵条約」
「初耳だな」
 開戦前からドンパチしてた空域に今更不可侵条約もへったくれもありませんよねえ。
 ほんと、今更というか腹黒い連合の好きそうな事と言うか。
「今作戦の成否如何でこのベルカ戦争自体に終止符を打つ機会を得ることができるであろう」
 ……くっだらない。
「諸君の健闘を祈る」
「おい相棒、何足組んでんだ」
 気がついたら足組んでふんぞり返ってました。
 どこの魔王の姿勢ですかこれ……と、フリーダさんが掌鳴らし始めたんで出撃出撃。

 二度目の円卓。
 今回は果たし状突き付けての押し掛け。
「うわー、こないだとは偉い違い」
 黒い戦闘機の影と、花火と、煙と。
「連合軍統合本部より入電、連合軍航空戦力は既にその40%を損失!」
「物量連中の4割?向こうにゃ何人エースが出てきたかな?」
「生きて帰れなかったらチャラでしょー」
 混線に混ざってシグさん達はまだまだ元気そうですけど、
「くそ!数が多すぎる!手に負えん!」
 連合のみなさんは自分から喧嘩売っておいてそりゃないんじゃないですかー。
 つっても、このまま遠目に見物してても面白くないわけで。
 躍る阿呆に見る阿呆。同じアホなら躍らにゃ損損と。
「よし、花火の中に突っ込むぞ!」
「躍らせていただきましょう」
 到着早々追われてる阿呆発見。恩着せておきますか。
 途中見覚えのあるファルコン三機いたけど気にしなーい。
「ガルム1が一機キル!すごいや、こんな規模の空戦初めてだ」
 さて、蚊柱の仲間入りですね。
「援軍が来た、何処の隊だ?」
「識別信号を確認……ガルムだ、援軍はガルム!」
 本当に入れ食い状態。適当に機銃撃ったら当たるんじゃないですかこれ?
 連合の連中なんて別に何機落ちても構いませんし。
「相棒、誤射はすんなよ誤射は」
 て……やーっぱばれてましたあ?
 あ、気を取られてたらシグさんに獲物かっぱらわれました、酷い。
「悪いな、ここ数日ご機嫌斜めなのよね、俺」
「ラグよりシグへ、ガルムと固まってたら効率が悪い、南方面の援護を提案します」
「OK、クナイ2先行け。俺は掃除しながら行って追いつくよ」
「了解〜しっかり歯ぁ食いしばってなさいな」
 シグさんに寄ってきた連中軒並み落とされてます。
「……蚊取り線香」
「聞こえてるぞゴルァッ!!」

「タウブルグの剣を抜いたヤツが紛れ込んだ、警戒しろ!」
「奴等を落として名声を得る」

「来るぞ相棒」
「ほい来た」
 ……円卓、か。地下資源。ベルカの軍事と商業の象徴。
 ここを潰したら、この辺りは当分静かになってくれるんですかね。
「確実に潰します。大物出るまで兵装温存、遊ばせてもらいましょう」
「俺達は俺達の仕事を片付けるまでだ」
 潰したら、あそこが焼かれる事ももう無くなるかな。
「さぁ次!」
 思考とは裏腹に、思いとは裏腹に、この祭りを楽しんでいる自分が居る。

 よくよく考えたら、一緒に行ったの二度っきりなんですよねえ。
 回数の問題じゃないだろ。円卓が産んだ、だからな。
 円卓の街が無ければ、どうなっていたんでしょうね。
 もっと凛々しい二つ名でもついたんじゃないのか?

 上下左右で大混戦。ついでに通信も混線してるおかげで罵声悲鳴怒号なんでも在り。
 遙か彼方のやりとりさえ真横にいるように聞こえてくる。
「妖精さん、上の蠅二匹よろしーく」
「了解」
 魚を狙うつもりで突っ込んできた連中を機銃で串刺し。
 躍らせていただきましょうと言う言葉に嘘偽り無く楽しんでいる相棒。
「一機キル、何機目でしたっけこれー?」
「俺は7機ぐらいから数えるの止めた」
「じゃあ8機目で」
「好きにしな」
 もちろん、ステップの相方は努めさせて貰うさ。
 援軍はまだまだ来る。どこもかしこもドンパチやってる。
「円卓がなんだ、俺がやってやる!」
 クロウ隊の連中、俺達の近くで稼ぐ事にしたらしい。
 何か言ってやろうかと思ったが、相棒がくっくと笑ってるのが先に聞こえて言いそびれた。
 同じガキでも対極だよな、こいつら。
「頑張ってる頑張ってる」
 しかも何か変にPJがアイツを気に入ってるみたいだから……しわ寄せ来るのは、俺なんだろうなあ。

「敵の驚異レベル低下。いいぞ、そのまま交戦を続けろ」
「少しは楽になりますかねえ」
「そうでもないみたいだ」
 逆に俺達が目立ち始めてるというか……押し掛けてこられるお陰で空が狭い。
 まあ、もう烏合の衆同然になってる分楽か。
 それを更に追撃する、見覚えのある……あまり見たくなかったシルエット。
「ラリー、聞こえるか?」
「アンタか、相変わらず良い腕だな」
「知り合いー?」
  思い出したく、なかったよ……。
「考えは決まったんだろうな?お互いつまらん安売りは終わりだ。潮は満ちた」
「まだだ。まだその時じゃない」
 そう、手のかかるガキ抱え込んでるんでな。
「ファーストネーム呼び合うような仲なんですねー?」
「お前なーっ!」
 良い年して露骨にむくれてんじゃねーよ!こっちは真面目な話してるんだ!
「ははは!どうやら邪魔をしたようだ。行くぞ」
「あ、ちょっ、ジョシュ……お前なー……」
「行かないんですかー?」
「……行かねえよ」
 目を離したら何しでかすか解りゃしない。
 真横にクロウ隊の3機が抜ける。
 真横で叫んでるわけでもないのに、調子の良い声が聞こえてきた。
「俺は平和の為に戦ってる。だから世界の空で飛ぶ!」
 ……ここまでおめでたい台詞を口に出せるほど、マシな世界とも思ってないが。
「その平和の元、世界では何万ガロンもの血が流れてるんだよ、小僧」
 いやその前になんで3番機のポジションについてるんだ。
 お前クロウ隊の3番機だろ。
「えー、迷子の子鴉のお知らせをいたしまーす。保護者の方は引き取りに来てくださーい」
「クロウよりガルムへ、そいつも番ができたんでそろそろ一人立ちってことでよろしく」
「酷っ!」
 このよた話の間に相棒は2機ほど撃ち落としていた。
 ほんと、目を離すと何するかわからねえ。

 こいつか。ああ、良く覚えてるぜ。
 きれい事で飛べると思ってるいけ好かないガキだった。
 だが、物わかりは良くてな。互いにいけ好かない割に結構うまくやってた。
 こんな事になるんなら、あの女にもさっさと唾つけておくんだったな。

「こちらシュヴァルツェ2。本当にこっちで合ってるのか?」
「ああ、間違いない」
 脱走兵の始末が俺達シュバルツェの仕事。
 提督隊なんざ何処の国にもいるもんだ。独裁国家なら尚更な。
 だが国のエースが逃亡とあっちゃ、いよいよこの国も終わりかねえ。
「おや、追っ手は君達かね」
「ライオンは檻で寝てるぜ。アンタも鳥かごに入ったらどうだ?」
 意外っちゃ、意外だったな。
 何かしでかすならバルトのジジイだと思ってたんだが、凶鳥とは予想外だ。
 おんぼろの旧型機で円卓に突っ込みやがってよ。
 まあ、戦況はこっちに優勢と聞いたんだ。いざとなりゃ……。
「あのウスティオの傭兵何て野郎だ!アイツ一人で戦況ひっくり返しやがる」
 混線かぁ?何か風向きがやばくなって来てねえかこれ?
「悪魔だ」
「そんな生やさしいものじゃない……!」
 AWACS経由のレーダーに映る戦況、ボロボロじゃねえか。
 しかもこんな日に限ってナビは嬢ちゃんじゃないと来た。ついてねえ。
「ああいうのをな……」
 今日の円卓は機嫌が悪いらしい。連合軍の声まで混ざってきやがった。
『……DemonLord……魔王?いや、"鬼神"と言うべきか』
 そして、聞き覚えのある言語。やっぱりいやがったかあのクソガキ。
「厄介な奴等がいるな、逃走機は後回しだ」
「一機、真っ直ぐ……!」
「8番、ブレイク!!」
 速度からしてこっちと同型機、つまり……!
「あーらズーたん御機嫌よー」
 腹を晒した8番が花火に化けやがった。
 百発百中。相変わらず良い腕していやがる。
 アラート、バレルしながら突っ込んでくるファルコン……と、似てるが微妙に違う。
「ほれ来た」
 当てる気の無い弾に当たるほど落ちぶれちゃいねぇぜ。
「ようハゲタカ。今日も元気に死体漁りか?」
「ヘっヘっへ。泣き虫は治したかチビ助」
「悪趣味は相変わらず、だな。シグのケツにはつくな。姉の方から取り囲め」
 連中のやり口は良く知ってる。周辺把握するのが、あの女はヘタなんだ。
「おい慈雨。俺の女になるってんなら弟共々生かして落としてやるぜ?」
 だが帰ってきたのは慈雨の色気のある笑いでも無ければガキのキンキン声でもなかった。
「残念、既にSOLDOUTしてますよ」
 優等生のような声がかえってきやがった。
 あんな女狐を嫁に取る物好きがいるたぁ驚きだ。

 ああ、良く覚えてるよ。
 あんなに夢中になって飛んだのは本当に久しぶりだったからね。
 ん?嬉しそうなのがそんなに不思議かい?
 そう言う君は……いや、何もなかったわけが無いか。

「シュネー5より1へ、管制機から入電。大物がここに逃げ込んだそうだ」
「大物?一体誰だい?」
 まあ予想は大体ついてた。それが正しいと思っていた。
「それが教えてくれないんだ。隊長が救助待ってる間に候補はうんと増えたが」
 あーあー。6回目のベイルアウトから内情はまた複雑になってるみたいだねえ。
 まあ機体強奪して脱走なんてバルトぐらいのもんだろう。
 何せ花嫁まで強奪した男だし。
 と、先行する仲良し二人はひょっとして……。
「エンケにビビアンかい、君も引っぱり出されてきたか」
「よう、エリッヒ。引っぱり出されてきたのは俺達だけじゃないぜ、なあ、天才ルーキー」
「……その呼び方はやめてくれ」
「おや、君はケラーマン教室の……」
 声の主は良く覚えていた。
「飲み会で暴れてた子じゃないか」
 沈黙。
 爆笑。
「変な事で覚えんなー!!」
「はっはっはー。地が出てるぞ若いの。先生はどうした?」
 あれ?笑い声が途絶えた?
「……こないだ、落とされました」
「そうか、すまん」
「じゃあお先行ってるぞ。オブニルは一緒に来い」
「はい!」
「さて、我々も行くか」
「目標を射程内に補足」
 こういう気持ちを誤解無く伝えるのが一番大変だね。
「シュネー1より全機」
 ただ楽しみだったのさ。
「槍を放て!」
 目一杯飛べる。そんな相手に出会えるかもしれないと言うのがさ。

「金の匂いと死の匂い。群がるお前も同じ空のハゲタカだ」
「はっ!一度目は親父、二度目はダチ。3度目は子供達、飛ぶ理由なんてそれだけで十分」
「そうそう。飛べればなんでもいーしー」
「上空と4時敵機来ま……うわっ!!」
「ほい一機キル」

 優勢と伝えられていたはずが状況はまるで逆。
 味方機なんて我々と先行するシュバルツェやエンケ達ぐらい。
 そのシュバルツェも既に3機ぐらいやられていたからね。
 一際生きの良い奴にレーダーロックしたのさ。
「敵機視認、片羽と外青、ウスティオの猟犬だ」
「相手にとって不足無し。だがそうなるとハゲタカを追いつめてるのは誰だ?」
「サムライらしい。藍鷺を落とした奴だ」
「またやっかいだねえ、と、来た来た!」

「妖精さん、全兵装解禁。迎え撃ちます」
「了解。こいつらで打ち止めであってほしいところだ」

 挨拶代わりのミサイルをすり抜け迫る二機。やっぱそう来なくては。
「3,4は5の援護。2,3は付いてこい」
「了解!」
 狙うのは一番機。こいつの周囲の連中の動きが妙にキビキビしてるんだこれが。
 その鼓舞に、私も預からせてもらおうと思ったんだけどねえ。
「くそっ!振りっ……!!」
 これだよ。また一機食ってく。後ろは取っているはずなんだけどねえ。
「私の相手はしてくれないのかい?」
 なんて思ってそっぽ向いたら死ぬほど食い下がってくる。
 笑い話のようだが、若い頃を思い出した。
 初めて戦闘機動に夢中になっていた頃?
 いやいや。
 初めて惚れた女性を夢中になって口説いていた頃だ。
 まんざらでもなくなってきた妻の顔だよ。
「シュネー1より全機」
 既に3番機が欠けている。術中にはまっている気がしなくもないが……。
「ダンスのご指名が来た。邪魔する連中は落としといてくれ」
 最後に二番機の後ろについたのだけでもと思ったら空戦起動中にバンク振って来たよ。
 こりゃあ逃げたらこっぴどい形で落とされそうだ。
 もっとも、私だって逃がす気は更々ないんだけども。
「だったら君も浮気は控えて欲しい所だ」

「こちらクロウ3、ガルム1、援護に回……」
「いりません。妖精さんも他を」
「いいのか相棒?」
「ダンスのご指名、断るのは失礼でしょう」

 ダンスって言ったのは正直ちょっと後悔してる。
 そんな色気のあるものじゃなかったからね。
 何というか、他の異性と会話してるだけで殴り倒される気持ちが少し分かるというか。
 ゲームだ。
 アイツが周辺の連中を叩き落とすまでに落とせば私の勝ち。
 私が叩き落とされればアイツの勝ち。
「下手に戦場を荒らすな、シュネー隊の邪魔になる」
 隊長担う身としては問題有りと自分でも思うんだがな……
−アイツの後ろはサムライと別の意味で危険だよ−

 小生意気で、魅力も自信もたっぷりの小娘。
 梟が夢中になって落としたがったのも無理はない。
 いい年した私がそうなんだから。

「3時1,7時2……!……2時方向からガルム1急速接近!色々引き連れてる!」
「シグさんやっほー」
「ちょっ……何引き連れて来てんだお前ーっ!!」
「衝突事故にご注意ってところかしらねー、誘発狙ったら?」
「いや無理だって……」

「くそ、空が狭い!」
 ひょっとしてかき集められてるのか?我々。
「シュネー1、援護します!!」
「いや……!……オブニル、10時方向!!」
 周りにいつの間にかシュバルツェがいるんだよいつの間にか。
 レーダー見たら文字通りごった返してるのがよく解る。お陰でみんなジャミング範囲にすっぽりと。
「邪魔よ、坊や」
 円卓にジャミングに、酷くなった混線から聞こえた艶のある声。
 私の前で尻尾を振っているのはどんなだろうな。
 聞き惚れる間も無くひっくり返ってこっち迫ってくるのが実に心臓に悪い。
「楽しませて貰ってるぞ、ウスティオの傭兵」
「ボーナスもらい」
「何?」
 あ、ハゲタカの一番機が落とされてる……こりゃ大失態。

「ガルム1一機撃墜ー隊長さんだったみたいですねー」
「あーっ!俺の獲物ーっ!!」
「ズーたんのベイルアウト確認ートドメ刺してみる?」
「いらねーよ、ちくしょー!!」
「ったくジャミングが鬱陶しいわー。ラグ君捜索よろしくー」
「その前に4時と10挟み撃ち来ます!」
「うざー」

「やられたなあ……」
 どのぐらい飛び回っていたかな。
 戦慄を感じたのは後にも先にもその一瞬だけだった。
 アイツの機体が後ろからすり抜けて来たのさ。
 一瞬前まで手前にいた奴に後ろを取られていたんだね。
 気付いた頃には、やばい状態だった。
 その後は円卓の大地に寝そべって空を見上げていたよ。
 結局他の誰にも彼の相手は勤まらなかった。
 凄かったよ。
 特に二番機のルディを追っていたときの機動が凄かった。
 あれだ。木の葉落としって奴だな。……複葉機限定じゃなかったっけ?

 気が付けば、狭いと思っていた空はすっかり広くなっていた。
 円卓の足下に置き去りで、もう駄目かなとか、そんな事を考えていたよ。
 一眠りしよう目を閉じようとした矢先に聞こえた轟音。
 あの時はまったく気付かなかったのに、寄り添うように片羽がいたよ。

「よう相棒、まだ生きてるか?」
「くたばってまーす」
「なーにがくたばってるだ。人には手ぇ出すな言っといて他人の獲物根こそぎかっさらいやがって、今日の稼ぎで奢りだ奢り!」
「おーっ!!」
「サイファーよろしくー」
「何でそこで盛り上がるんですかー」

 大きく弧を描いて、バレルロールして、もう終わりなのかって、私にはそう見えた。
 まだ遊び足りないと口を尖らせる子供のように見えたんだ。
 実際そうなったのは、言うまでもなく私の方だがね。
 地上から見上げるだけでこれだからなあ……たった一機落とし損ねたばかりに西部戦線に回されたバルトが可哀想になってきたよ。
「さーってと……行くか!」
 このままで済ませてたまるかーって叫んでも良かったね。
 未だに術中にはまり続けていたわけだ。帰ったら妻が恐……ん?
 すぐ横にまた別なパラシュートがもぞもぞと……うん。丁度いい。

「あの……本気っすか中尉?」
「ああ。3日もあれば大丈夫だろ」
「3日!?」
「よーし、じゃ、いくぞー」
「ちょっと待ってえぇぇぇーっ!!」
 んで、歩いてすぐの所に転がっている若いのも連れて帰る事にしたよ。

 何で忘れていたんだろうな。
 灰になった大地だって、いつか蘇るんだってことを。
 取り戻せないものなんて、無かったんだってこと。
 つまらない意地を張って、俺は……。

「円卓陥落……ですか」
 さっきまでの乱闘が嘘のようだった。
 相変わらず敵も味方も被害は甚大で、その分空が広く見えた。
 傭兵部隊達と、連合軍の奴等が何機か……。
「行ってもいいぞ、ガルム1」
「俺達も行っていいっすか?」
「こちらエスパーダ2。私達もいいかしら?」
「おいマカレナ……まあいいか。大丈夫かい、”鬼神殿”?」
 相棒を戦闘に雁の群が連なるように。
「こちらウィザード隊」
「オーシアは方向が逆でーす」
「んなっ!?」
 心なしか、隊列が加速している。そこに、相棒の声が入ってきた。
「……聞かないどいてあげますよ」
「悪いな」
 目的の場所が見えてきた。
 いや、俺達の目には荒れ地が広がっているようにしか見えなかった。
 ただ、アイツが少し速度を落として、手信号で伝える。
 青空の中、天に昇るいくつもの飛行機雲。その中に、俺もいた。
「まったく、誰が話をばらまいちゃったんだか……」
 結局、みんな知ってるんだよな。

 白い飛行機雲がそれぞれのねぐらへ向かっていく。
 ただ、ヴァレー組だけがその上で弧を描いていた。
「なあ、ちょっとここ撮っていい?」
「構いませんけど?」

「この前来た時より、緑が濃くなってるんだ」