ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission9-Briefing

 そう。人が死ぬのは当然。戦争だもの。
 誰がどうなったっておかしくない。
 戦場だから。どんなに理不尽でも納得するしかないのは解ってる。
 ただ、後悔しないで済む選択肢を選ぶしか無いのよ。

「フリーダさん、労いにいかないの?」
「今は、あの子達の仕事ですから」
 てんやわんやの大賑わいで出発したのが嘘みたい。
 それでも、相変わらずガルムの二人はご健在と言うのがまた。
 いつもと違うのは、子供達が他の連中の労いに散って長男しかいないってことぐらい。
 アイツより撃墜数稼いだら付き合ってくれって言ってきた軽口の姿は見えない。
 上げられなかったのか、それとも……。
 まずい。ちょっと泣けてきた。
 先輩の姿は無い。ついでに彼氏の姿も見えないから、きっと何処かで無事を喜び合ってんだろう。
 そう思っていたら、不意に声をかけられた。
「あ、メディックの嬢ちゃん!」
 ちなみに傭兵連中の方は結構あぶれている。男女比がどう考えても偏ってるから当たり前。
 えーっと……あー、フライトスーツのワッペン見ればいいのか。
 紫色で描かれたハート型。中に何か書いてあるけどよく見えない。
 ……先輩の彼氏の同僚だった。
「なあ、PJ見なかったか?」
 先輩といちゃいちゃしてるんだろうなあ。
 案外真面目に抱き合って泣いてるかもしんない。
 何となく、教えちゃった。
「PJーっ!!」
「畜生ーっ!お前俺達を差し置いてーっ!!」
「わーっ!ちょ、痛い、痛いから!!」
 ……むしゃくしゃしてやった。今は反省している。
 先輩の笑い声が聞こえるので、私は一つ良いことをしたようだ。
「余り良い趣味とは言えませんね」
 続いてフリーダさん。珍しいこともあるもんだ。
「あなたは行かないのですか?」
「何処に?」
「ずっと彼の方を見ていたので……」
 そう言ってフリーダさんが指さしたのは……シエロだった。
「ちーがーうーっ!!」
 何でそう言う方向に話が進むかなーっ!?

 覚えていてくれましたか。
 あの頃の私に、出来ることなど限られていましたから。
 いえ、そう思いこんで……え、今の今まで忘れてた?
 へぇー……。

「状況はどうかね?」
「戦闘部隊にはさして問題は無いかと」
 司令がHQ経由で送られた例の兵器の情報と向かい合っている。
 場所はハンガー横のベンチ。日当たりは極めて良好。
 この人は仕事場を選ばない。恐らく執務室には電話番でも置いて来たのだろう。
 今頃オーシアからの嫌味や要求を頭下げながら聞いているのかもしれない。
「となるとむしろ気苦労を背負うのは出迎える側か」
「死んでは心配もできません」
「ごもっとも。ところで、エースの出迎えに綺麗所は無しかね?」
「余所へ行ってしまわれたようです」
 彼等の出迎えは実質子供達のみ。
 でも彼等は生還者を平等に労いに走るから独り者の彼等が一番報われて無いとも言える。
 見てみればすっかり拗ねてマグロになっている父親とエース。
 それを氷雨君が宿舎前のベンチまで引きずっている。
 一体どこにそんな腕力があるのか不思議だ。
「例の知らせを聞いても彼等が墜ちる気がしなかった」
 だからといって平然と陽動に使ったりするのも考えものだが。
「たまに出てくるものだよ。空に祝福される者が」
「むしろ呪いかと」
 そこまで信心深くも無ければ祝福されるほどの人格者とも思えない。
 神に愛されるほど純真でもなければ思慮深いとも思えない。
「あんなに天使がいてもか?」
「小悪魔という言葉もあります」
「なるほど。確かに尻尾は生えてそうだ」
 ふと長男に目を向ける。
 会話など聞こえる距離でも無いのにこっちを見ていた。
 確かに、角ぐらい生えていそうだ。そして宿舎に消えていく。
「独り身は哀しいな。傭兵諸君の腕前を分けて欲しい」
「大佐、ご自分の年を考えてください」
「まだ35なんだが?」
「……失礼しました」
 まだ独り身だったというだけでも予想外だ。
「君も、その鉄面皮を外す相手は作らないのかね?」
「必要ありません」

−そう言えば東洋の龍は翼がなくて雲に乗って空を飛ぶそうだぞ−

 必要無い、か。らしい話だ。
 世の中、本当にどうなるかわからん。
 世界中探せば、どこかに居場所はある。
 ……だけどよ、いきなり殴る事無いだろ?

「お前等な……」
 俺は目の前の状況を、シュール以外にどう表現したらいいのか決め倦ねていた。
「はい〜」
「なんだ〜?」
「いい年こいて楽しそうに引きずられてんじゃねえよ」
 シグに到っては親父だろ。立場逆だろうが。
「ったく……お前もさすがにきついだろ」
 そう思って相棒ぐらい剥ぎ取ろうと手を伸ばす。
 くいっ
 ……拒否された。親父の方でも結果は同じ。
 ふと長男の顔を見れば眉が下がっている。あー、コイツでもこういう表情変化はありか。
 これだけで取らないでくれと訴えてるように見えるから面白いよな。
 手を引いたら元に戻る。手を出したらまた眉が下がる……。
 戻る、下がる、戻る、下がる。
「遊んでるだろ片羽ー」
「……お前等実は逃げられないだけなんじゃねーのか?」
「そのとーりー」
 面白いからもうちょっと手を出したり引っ込めたりしてみる。
 コイツが表情変えるのってかなり貴重だから……あ、眉間にしわが寄った。しかも戻らない。
『……』
「いや、その、俺が悪かった」
 多分通じないだろうけど……解ったから唸るな。
「もう取らないからそんな恐い顔すんなって」
『……』
 睨むのを止める代わりに、俺の足下に視線を向ける長男。
 そこに視線を移せば、俺を見上げる末っ子と次女がいる。
「……あー」

 んで結局……。

「妖精さーん。生きてますかー?」
「見、見て、わかんねーか……?」
 何が悲しくてチビ2人担いで談話室まで行かないといかんのだ。
 こっちは命がけの飛行終わらせたばっかだっていうのによー……。
 前似たような状況でやったことあったからって、3年の月日を甘く見ていた俺もバカだった。
 待機室、他の連中もへばっててくれたからいいようなものの。
「お前等、育ちすぎだ……」
 4歳から7歳の差はあまりにでかかった。
 ついでに次女は太ったんじゃなくて育っただから泣くな。
「2人一度に担いで歩いたその根性にうちの末娘泣かせた罪は免除してやろうぞ」
「うるせー……それより面白いネタとやらとっと教えろい」
 とりあえず膝の上のチビ2人が眠り出す前に。
「まず一報は例のレーザー兵器かね」
「相棒。今のうち寝ておけ。本筋は起きた頃だ」
「あ、酷ぇ。いーよだったらメインディッシュから話したる」
「そりゃいい」
 聞き終わったらあとは寝る……つっても多分色々引っ張るんだろうなとタカを括っていた。
「キラービー」
 真っ先に身を起こしたのは相棒だった。

 かいつまんで言えば、あの時の追っ手の部隊がそうだったこと。
 実力に関わらず偵察機もろとも殺されかけてるあたり上層からは厄介者扱いだろうと言うこと。
 そして、あの程度の攻撃じゃ、まず落ちて無いだろう事。

「何で合いの手の代わりに拳が飛んで来るんだよー」
「それだけの説明を子守歌にすんな」
 しかも長女以下四人が俺によっかかってくれてるわけだが?
 一番上はいわずもがな相棒の……寝てるし。
「帰ったとき気絶してたなぼったくり」
「さーて子供達部屋まで運ぶわー」
 そう言うと俺の横にいた子供達3人を抱え上げて……末二人が小さいからこそだな。
「お前も三人な♪」
「……は?」
 俺の横。成人男性一人、体格はローティーン一人。そして女の子一人。
 ……さっき、末二人運ぶのでダウンしたんですが?
「情報料」
「ざけんな」

 ……そこに戻ってきた途端、ソファに顔面から沈み込んだ。
 長女だって記憶が正しけりゃ今年10歳だし長男に到ってはもう二周りでかい。
 幸か不幸か、その長男は相棒にしがみついてたから後回しにしたが。
 だが戻ってみれば……。
「相棒……おいっ!?」
 ソファに倒れ込んだ相棒がうなされてた。
 汗だくで、顔を歪めて、横で寝ていた長男抱きしめて。
 長男に気付いたのは、叩き起こしたその後だ。
「おい、長男締めてるぞ」
「あ」
 可哀想に……相当きつく締めてやがったな。
「シグが居たら命無かったぞ相棒」
 とりあえず弟妹の所に行かせた。
 部屋を出るまでの間何度もこっちを振り返り、その為に行けと仕草で示しながら。
 そのぐらい、目に見えて様子がおかしかった。
「……解ります?」
「恐いのか?」
「今更だと、思いますか?」
 嫌みったらしく笑おうとしてるが、歯が震えてるぞ。
 まいったね。何処の新兵……や、今回が初陣だったか。
 のっけからトチ狂ってたが。
「妖精さん、ベルカにいたことがあったんですよね……」
「場所を変えようか」
 いい加減、他の連中も増えてきたみたいだからな。
 とりあえず部屋まで戻る事にする。そうしようと思った。
 だが、コイツは廊下の当たりで既に我慢しきれなかったらしい。
 切り出された話は、不安だった。
「勝てるのかな」
「お前がどう生き延びたかによる」
 ……そして聞かなきゃ良かったと後悔した。
 恐れていたのとは、全く逆の意味で。
 圧倒的な戦力差。唯一の生き残り。復讐者に対する無慈悲な死の宣告。
「普通帰れ言いますか」
「言うんだろうよ。あのおっさんなら」
 だが……コイツは生き延びた。あのおっさん相手に、実戦で。
 流石に年だったのか、コイツが化け物だったのか。
「良く、知ってるみたいですね」
「ま、勝機は充分だ。あのおっさんが手加減したなんて話は聞いたことが無い」
「……無い?」
 その話を聞いてる相棒は、さっきまでうなされてた奴とは思えない顔してた。
 食い入るような顔で。
「生き延びたのは、お前の実力だよ」
「じゃあ、もう一つ」
 声は、いつもの道化口調に戻っていた。
「何だ?」
「彼の、帰りを待つ人はいますか?」
 目は、子供のままだった。
「……子煩悩だった」
「イーブンですね」
 真っ直ぐ、何か見つけたような。

 その翌日だった。
 噂の当人がオーシアの宇宙基地を派手にブッ壊したって話が伝わったのは。

 完全に仕組まれた奇襲攻撃は昨夜のうちに行われたらしい。
 目的は恐らくオーシアが作りかけだったという衛星兵器製造の妨害。
 被害状況を見る限りここまで派手にやったら復旧する頃には戦争が終わる。
「……凄いですねこれ」
「これだけの情報即刻持ってきたシグもすごいだろ……」
 これがヴァレーだけならここの情報管理がザルって事だが、そうじゃないからな。
 あわや使い捨てにされそうになった奴が何人「自主的に」シグに奢ったことか。
「いえ、そうですけどこの距離……普通帰れませんよ?」
「大丈夫だ。普通に帰れる任務行かされる方があり得ない」
「何ですかそれ」
「……上に相当怨み買ってるらしいからな」
 普通味方からまで賞金はかからない。
 無敗伝説健在なら今頃繰り越しで偉い額のハズだ。
「再戦するまで生きてるんでしょうか……」
「生きてるからおっかねえんだろうが」
「……」
「相棒?」
「やっぱ会わなくていいや」
「マテコラ」
「ぇー」
 いつも通りの相棒だった。ただ小さく「大丈夫」と呟いた以外は。

 ええ、もちろん司令は相変わらずだった。
 あの時の一方を聞いても、さして驚きませんでしたね。
 むしろ……楽しみだったように見えます。
 彼等との、再戦を。

「まったく、何処から漏れたんだろうねえ」
「公表する手間が省けたと思えば」
 もっとも、もう一つ公表せねばならないこともあるのだが。
 まあ、それも目の前で頬杖ついてる男に任せてみようか。
 私の横にいる司令は、幾つかある絆創膏の為に頬杖もつけない状況だが。
「まさか衛星を潰して堂々空中給油とはねえ」
「予想の、範疇ではなかったのかね?」
 報告に来たシグの報告と他のパイロットの証言から、あのレーザーは一度反射させてからの照射ということは判明している。反射鏡を持たない他の衛星を落とすなど造作も無い事はずだ。
 むしろ、今までそれを行わなかったのが不思議なほど。
「……衛星破壊たってAWACSがスクランブルすれば……俺だったら逃げるね」
「子供を連れてかね?」
「だからここに置いて貰ってんだろ」
 自分のコックピットが一番の安全地帯と言い切れる自信があるのだろう。
 裏を返せば……あまり信用されていないのか。
「民間の衛星まで容赦ないってのはなあ……転用恐れてなんだろうけど」
「まったくだ。お陰でドラマは良いところでお預けだ」
「ドラマ?」
「有害な物が減ったことは喜ぶべきでしょう」
 あんなもの、ドラマと呼ぶのも汚らわしい。
「中尉はちょっと堅すぎると思うぞ?なあ、シグ」
「んじゃ、その絆創膏なんだ?」
「いやーちょっと録画を……」
 受信料は司令の給料だが、税金の無駄遣いも良いところだ。
 今思い出しても腹が立つ。
「俺も5人の子持ちだからなあ……内容によっちゃ持ってきてくんね?」
 そう言ってシグの鳴らす指の音が、心地よく聞こえる。
「士気に関わります。モラルに関わります」
「うー……ま、冗談はさておき本題に入ろうか」
 逃げたな。