ACE
COMBAT Zero
The Belkan
War
The fate neatly
reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward
War...
Mission8-A
そういえば、結局聞けませんでしたね……。
何をだ?
妖精さんとシグさんが会った頃の話。
……同じものを、無くした時の話を。
『お父さん遅いねー……』
『今に始まったことじゃないけどねー……』
昨日の暗雲がここまで流れて更に寄り集まったのか、バケツをひっくり返すような雨が降り注ぐ。
そんな中、シグさん達は偵察へ。子供達はカッパ抱えてただ窓辺。
みんな顔くっつけてますけど、きっと剥がしたら跡がくっきりつくんですよコレ。
とはいえ、雨ですっかり気が滅入っているのは仕方ないんですけれども……。
妖精さんもやる気無さそうにソファに体沈めてます。
雨です。雨はじめじめして髪が広がって嫌いです。
子供達も遊ぶ気力がないので……。
「もこもこ……」
ストレートヘアのマシュマロをもふもふさせて頂きます。
ああ、冷たい雨の日にこのぬくぬくは至福です。
昨日お日様でしっかり干したので尚のことぬくぬ……
ぎゅっ
あれ?
『ぬいぐるみ好き?』
ヒサメ君と思ったらいつぞやの浮き輪猫!
……変わり身の術とはなかなかやりますね。
『雨いやー』
『雨だるー』
末っ子2人、窓に顔ひっつけたままずるずると……拭き掃除決定ですね。
それを見ていたスク君が一言。
『雨を嫌がる雨の図、と』
『雨?』
『みんな雨の名前ですよ』
「へぇ……」
みんなの名前で辞書引いて見たら、確かにありました。
ヒサメ……氷雨、氷混じりの冷たい雨。
ササメ……細雨、こまかい雨や霧雨。
スク……これはちょっと特殊で宿雨の宿をスクと読んだんですね。連日に渡って降る雨。
シュウ……驟雨、強弱の激しい変化を繰り返して降る雨。
リョウ……涼雨、涼しさをもたらす夏の雨……この子とシュウちゃんは「ウ」を省略ですね。
ついでに親御さん。
シグレ……時雨。ぱらぱらと降っては止んで数時間で通り過ぎる雨。
ジウ……慈雨。恵みの雨。程良く降って草木を潤して育てる……名前負け?
『ホントですねえ……あれ?』
でも、コレ全部ヒサメ君の母言語なんですけど……あの国そんなドタゴタありましたっけ?
『みんなの名前って、シグさんが?』
『ううん。お母さん。大好きな人が雨の名前だったからって』
幸せな事で……て、もう故人でしたっけ。
『みんな雨の名前だったよね』
『母さんもよく調べたよねあれは……』
公用語の訛りも感じさせず、流暢に話せるほど、それこそ母言語にしてしまうほど教えたとなると……相当惚れられてたんですね。
「みんな」「だった」……その意味は、考えない事にしました。
ちょっと目線を逸らすとスク君も無理に笑ってるのがバレバレで、ヒサメ君は……ああ、この子は現場にいなかった代わりに空で妖精さんに追い回されてたんでしたっけ。
『そういえば”メ”で終わるのって女性名に多かったよう……がはっ!」
話を変えてみた所、ヒサメ君の飛び膝を頂きました。
「くっくっく。相棒、名前の話したろー?」
な、なかなかに良い一撃でした……。
『あ、お父さん!!』
「!!」
二機を見つけた子供達。各々カッパを着込んで走り出していた。
……無理に飛び越そうとしたリョウ君に踏みつけられましたが。
「よう相棒……まだ生きてるか?」
「くたばってまーす……」
ねえ、本当に知らなかったんですか?
今になって疑うことか、それ?
いやだってねえ、コレでも結構調べて、探したんですよ。
知ってたらあそこであんな慌てると思うか?
シグが戻ってきた。
「で、拗ねてんのか」
「相当気に入ってたらしいからな」
「ははは……ま、女と間違えて婆ちゃんの名前つけた俺にも責任あるけどよ」
「おい。それ初耳だぞ」
俺だって由来聞いて膝くらったんだぞ?
「大人しかったんだよ。後々聞いたら栄養失」ゴスッ!!
マシュマロが、マシュマロのまま鳩尾に体当たり。
マシュマロな分だけ良いのか……そのわりにヤバイ音したが……。
「公用語解らないんじゃなかったのか?」
「お、俺の方が知りた……がくん」
既に日はどっぷりと暮れた頃だったが、雨雲はより厚く、雨もより強くなっていた。
とりあえず医務室に連れていく。アデーレの嬢ちゃんはいなかった。
「で、どこまで行って来たんだ?」
「お前等が請け負った場所の上まで飛んできた。大分派手に荒らし回ったんだな」
「だって混線した無線越しに庭荒らし呼ばわりですしー」
しかも図体だけはでかい子犬相手に言えばそりゃあ見るも無惨になるわけで……。
そこへ、濡れた髪を旦那に拭かせながらイングが割り込んでくる。
「でもあそこってさー、文化遺産かなんかじゃなかったけ?」
その一言にふと思い出す。歴史の教科書にも載ってたな。
まあ、どうせあんだけ銃座やらなんやらつけてる時点で……。
「貴重な遺産が瓦礫ですか……」
「戦後文句言われたりしてねー」
『暫く後まで観光客相手に戦争の痛々しい傷跡が語られるわけね』
『戦後の戦場巡り楽しみー』
『……』
……子供達の視線が痛い。長男は長男で周囲の反応から何もかも察してるようで……。
『だってあれ潰さないと蜂の巣じゃすまなかったわけでー……』
この子が相棒を動揺させるのには一番効果的だな。
幸いにも子供達の視線は俺を素通りして全部相棒行き。
流石に解ってらっしゃる。
「で、肝心の偵察の方はどうだったんだ?」
「あー……そりゃ司令に報告した後でなー」
「えー」
そう言うと逃げるように行ってしまった。
いや、実際逃げ出したんだろう。子供達から。
……あまり気分のいいもんを見てきたわけでは無さそうだ。
結局、シグがその話題を子供達に振ることはなく、部屋に戻ってベッドに入ろうかって時に転がり込んできた。
「司令に聞いたらOK出たから、前もって話しとく」
その後に自分も愚痴を零したいと付け加えて、招かれもしてないのに鏡台横の椅子に陣取るシグ。
俺も相棒も興味を示すリアクションを取ったから断る理由も無いが。
「んで……何から話そうかってーと、例の攻撃の正体は結局分からずじまい。それらしい動きが周辺空域や基地には無かったし……あと生き残った連中の状態がかなり酷い。怪我もそうだが精神にきちまったらしい。本当にどうしようも無かった状態だったらしくてろくに話しも出来ないんだそうだ」
「そりゃあ子供達には話せないな。本当に手がかりも無しか?」
「んー。その全滅した部隊、航空機の護衛の元で地上部隊が進軍してたんだが、航空機は全滅、地上は何人か生き残ってる……つってもひでー状態だけど」
「ご託は良いでーす。さっさと本文お願いしまーす」
「……解っちゃいたけどお前酷い奴だな」
まあこっちの身の安全に直結してるし惨状の愚痴だけで終わられたら困る。
「対空兵器ってのは確かなんだが、ちょっと妙というか……いや、これは俺も最初見たときにわかに信じられなかったんだが……」
何を躊躇っているのか。少し悩んで、一呼吸置いてやっと喋り出す。
「地面がえぐれてた。多分人間も一緒にな。何て言うのかね……上から巨大な剣でも振り下ろしたみたいだったんだ」
「そんだけですかぁー?」
「あんまいじめんなよー。まあ頭上注意って事になるんだろうけど……ミサイルだったらすぐ解るだろうし。んでよ、一応当たりをつけたもんがあって、明日そっち飛ばされるらしいんだわ俺ー」
頭上から振り下ろす剣、ねえ。
そういや昔ミサイル防衛だなんだで、でかい塔が建てられるって話はあったか。
実現するかどうか解らないまま、俺は今の稼業に身をやつしたわけだが。
……何だったかぐらい平和なうちに聞いておけば良かったか?
「で、ちょっとお前等に頼みたい事がある」
シグの声に真剣味が増す。顔つきも。
「なんかあったら子」「サイファーFOX2〜」
「ぶぉっ!!」
冗談めいた仕草で縁起でもないこと言いかけた辺りで枕発射。
哀しいかな、いかにもな前フリもオチが解っちゃ笑えない。
「いきなり投げるこ……どふぉっ!!」
1番機に習って俺もFOX2。
「お前がそう言って死んだ試しが無ぇ」
「……あったら今ここにいませんがな……」
傷心の子供達と向き合わされるなんてまっぴらだ。
「シグさーん。枕返してくださーい」
「へいへー……」
枕を拾って持ち上げる。
直後に一瞬だけ窓から差し込む強い光。一瞬体が強張る。
続くように、遠雷の声が聞こえた。
「そう言えば、この基地に来てからこんな土砂降りは初めてですね」
「だなあ……あんだけ雨がいりゃあいらねえと思うんだけどなー」
「その雨がお祈りしちまったから勘違いされたんじゃないか?」
雨を必要とする時期に雨を呼び込む祭事を取り仕切る。
そう言う家系だったと話したのは、果たして誰だったかな。
雨はいっそう激しさを増していたが、今更になって月明かりが見え始めていた。
あの時ぐらいですかね、結構気持ちよく飛んでいられたのは。
いやグラティサントだけだろ。あの後偉い目に遭ったんだから。
あー……その後は良くも悪くも慌ただしくなったわけですし。
色々な機会が、一度にすり抜けていったようなものだったな……。
今日は楽しい空戦任務。正しくは要塞に続く対空ラインの殲滅なんですけどね。
陸から空から攻めると言うことで。先日の要塞とうってかわって、青い空、広がる草原。
何処までも広がる鮮やかな緑。
「よう相棒、聞こえるか?良い景色だ。」
「感度良好でーす」
ついでに結構な団体でピクニックになっていたりして。
「連戦連勝のウスティオ傭兵部隊か。手並みを拝見させてもらうぜ」
これでオーシアの連中がいなけりゃ最高なんですけどねえ……。
まあ、この景色も数十分後には戦闘機の残骸が追加される事になるんでしょうけど。
「各機、敵戦闘機が迫って来るぞ。迎撃開始!」
「了解」
さあ、久方ぶりに楽しい空戦としゃれ込みますか。
霧雨に守られた丘陵を、音速を超えた翼が駆け抜ける。
無線封止に黙り込む機内にこの国から見れば異国の言葉が飛び交う。
『あーあ……姉貴の後席なんていつ以来だよ……』
『前回の偵察任務ー』
『あの時はフレームに頭ぶつけたな』
『ヘルメット越しなんだからいいじゃない』
『遊覧飛行中に敵機と鉢合わせしたこともあったっけー?』
『あははー助けに来た親父が墜ちたよね』
『俺だけしこたま叱られたぞー』
『AK担いで戦場に飛び込んだりすりゃあねえ』
レーダーに目を落とすとこれがまたいるわいるわ戦闘機の群。
緑の花壇に赤と青のお花が咲き乱れてー……
「ガルム1、一機撃墜〜次行きますかー」
青空に炎の花が咲くと。まだまだ寄って来てますし、楽しい作戦になりそうです。
「今日のガルムはえらいご機嫌だな」
「お前んとこのメディック口説かれてたけどいいのか?」
はい?
「あれ、知らなかったの?」
「何で私に振るんです?」
……あのー、何か勘違いなされてませんか?
「よう相棒、殴れないからって落とすなよ」
「帰ったらですね」
妖精さんの方を。
霧雨の向こう。湿った緑の向こうに尖塔が見える。
「こちらイング。目標を肉眼で確認」
「えー、後席の実況はシグさーん……て、聞こえてるわけないよなあ」
『つべこべ言わずに撮影する』
『姉貴こそせっかく取り付けたガンカメラなんだから頼むぜ』
『ほいほーい……と、見つかったぽい。もう封止解除?ていうか帰っていい?』
『いやいや……ん?』
『どうしたの?』
『あれ、ちょっと動いてないか?先っちょのあたり……』
雨雲に遮られた先。彼等の不安は違う方向から迫っていた。
結構楽しんで飛んでた。敵の追尾、ロック、撃墜。一連の動作なんて殆ど考えずにできる。
全く、何も考えずに飛んでいた。そう自分では思っていた。実際はどうだったのか。
飛んでいる間は何も考えずに済む。Gの中にいる間はただ飛ぶことを楽しめる。
意味無く獲物に牙を立てる必要ももう無い。
次々現れる的を追いかけて、撃ち落とすだけだった。
何も考えてはいなかった。
今も、この先のことも。
ただ、気の向くままに。