ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission7

 ……ほんっと、あそこで終わってりゃ全部丸く収まったのよ。
 あいつもなんかケリがついてたみたいだし、
 どうせ暫くはウスティオに残ってたんだろうし。
 なーんで踏みとどまれないんだろう、ホント。

「あ、アデーレちゃん、えーと、これは、そのー……ね?」
「いや、あのっ、そのっ……」
 ……今朝、先輩がクロウ隊のぼっちゃんとキスしてた。
 ディレクタス解放後あたり、傭兵達の何割かを見かけなかった理由はどうも二日酔いだけでは無かったらしい。
 命がけの戦場から帰ると出迎えてくれる人が居る。
 命の洗濯の時間をたまたま一緒に過ごす。
 繰り返すと迎える側にも何時会えなくなるかもしれないと思い始める。
 んで、そうなると増えるんだわ咲き誇る恋の花って奴がさー。
 落ちぶれ士官とくっついてる奴。傭兵にアタックかけてゲットした奴。
 現在交戦中な奴……。
 これでメディックで独り身なのは、私一人となりました。
 一人寂しく日向でまどろみぬくぬくと。
 そしてハンガー前にゃ、独身男がまた一人。
「おーピクピクー」
「なんだその呼称……」
「たるいからー。シエロ一緒じゃないのー?」
「ああ、あっち」
 肩越しを刺す親指の方に視線を向ければ……
「どしたの?」
「乗せようとして逃げられた」
「やめい」
 ハンガー隅のマグロと寄り添う黒子と色団子4つ。
 ここ二日で急激に気温が落ち込んできたせいだ。
 今年の夏は、風が冷たい。
「……冷夏だな」
 冷夏になるのは、早々に冬の神様がやって来るから。
 黒に身を包んだ冬の女神様。
「みんな纏めてヴァルハラ行きなんてオチになんなきゃいいが」
「アレが神様に選ばれるようなって……ん?」
 ウスティオがベルカだった頃でさえ周りは誰も知らなかった話だぞ。
「知ってるんだな」
 先手を取られた。
 昔懐かしい、零下の街で語り継がれていた話。
「……解るもんなの?」
「その辺飛び回ってるとな、北と南、西と東の訛が解るようになる」
「でもそんだけじゃないでしょー」
 女神と呼ぶのは、ベルカ圏の人間だけ。
「そうなのか?」
「ぬはははは。傭兵相手じゃあやんない話だね、縁起悪すぎて」
 戦争嫌いが過ぎて自分で破壊に来るような女神様なわけで。
 ……はて、何やら背後に這いずるような気配が一つ。
「何か面白い話してませんかー?」
「んぎゃーっ!!」
 ピクの背中に何かへばりついてるー!
 マグロじゃなくてナメクジーっ!?
「……なあ、これ取っちゃくれないのか?」
 ピクの背中にへばりついていたのは、シエロでした。
「いやちょっと懐かしい話を聞いたもんで」
「懐かしい?」
 ピクシーは引き剥がすのを諦めたようだ。
 幸い、ナメクジはベンチに肘を着くことにしたが。
「ええ、小さい頃に父が。そだ、飴いります」
「あんがと。てことはアンタの親父さんって……?」
「ええ、元ベルカ空軍。ま、飛び出して傭兵始めた直後に母に撃墜されたそうですが」
 ピクシーが何か思い出すように空をあおぐ。
 ああ、こないだシエロは実家行って……それからだっけ、雰囲気変わったの。
「へえ、やるもんだな」
「ああ、言葉通りの意味ですから」
「……は?」
 ジョークでもこんなマジな顔するようなキャラじゃなかったはずだ。
「比喩無し誇張無しで。その後収容所で口説き落とされたそうですよ。父が」
「……一体どんな母親だったの……」
「コイツをまんま女にしたような」
「どんなのよ、それ」

 そう。ここはかつてベルカだった。だから、かつての顔見知りが敵対することも、それと知らずにてをかけている可能性もあるんだと。
 だけど、この時は考えてもいなかった。
 もう50いったはずの親父が、未だに現役で飛んでるなんて。

 何も考えずに、ただ空を。
 そうしていられたら楽だったかもしれませんね。
 ただ空を飛べる。それだけを考えて飛べたら……。
 そうして、金食い虫でいられるのが……て、傭兵は食いっぱぐれますね。

 墓参りに行った日、長らく彼女を追いつめていた人間が居た。
 墓地に似合わない鮮やかな色の服に、墓前に添わない鮮やかな花を持って。
 何を言ったのか覚えていない。詫びの言葉ではなかったと思う。
 許しを判断するべき主体はそこにはない。
 理不尽だと思った。不条理だと思った。
 生きていてくれたら、何もかもかなったかもしれないのに。
 里帰りの翌日。
 母さんから電話が来た。
 ソーリス上空を飛んだ日、アレは本気で怯えていたらしい。
 確かに、少し長々と飛んでいた。やろうと思えば、できたと思う。
 でも、何もかも、ただの一発で終わってしまった。

 結局、その程度だったんだろうか。

 その日の夕方ブリーフィングルームに集められ、出てきた頃には雨だった。
 それにしても、東部諸国の開放が終わってどうなるかと思えば……。
「核査察とはねえ……」
 大量報復兵器V2……V……Vengeance(復讐)か。
 逆恨みもいいとこの気がしますけど……人のこと言えませんか。
「んで、出身としてはどうですか?」
「ん?」
「一応、いたこともあったんでしょ、ベルカに」
 空の傭兵をしようと思うなら、下地が要る。
 みんなの期待通り私も飛び出してればよかったんでしょうか。
「核よりヤバイもん作ってそうだ」
 そう呟いた妖精さん。目の照準がどんどんずれていって……。
「なんかよっぽど恐ろしい所にいたようで……」
「……26で飛行歴10年だからな……」
 なんかトラウマを刺激したのかもしれません。
 都合はいいと言えば良いのですが。
「技術者が余裕で戦闘機かっ飛ばしてたり」
「うわあ……」
「適正テストだつって輸送機に曲芸させたり……」
「苦労、してたんですね……」
 キラービーのこと、聞くの止しときましょ。

 そして翌日。

 管制塔の声が聞こえる。整備班の罵声が聞こえる。
 戦闘機で犇めく滑走路。私達は今、南の基地にいる。
 ディレクタスで落とした彼等が守っていた場所に仕掛ける事になった。
「君が、サイファーかね?」
 妖精さんのとなりに、見慣れないおじさんがいた。
 腕章に縫いつけられているのはウスティオの国旗だ。
「正規軍の方ですか?」
「ああ。ブレア・ウィンスロップ。大尉だ。会えて光栄だよガルム1」
 と言って、手を差し出した相手は……。
「いや、一番機こっちだから」
「……へ?」
 ふむ。妖精さんと私を比べると私の方が妖精っぽいと。
「笑ってんじゃねーよこいつわー!」
「むぎゅーっ」
 首ー首しまってますー。
「はははは!若いとは聞いていたが、年よりは邪魔みたいだな。それじゃ」
 去り際に見えたその人の部隊章には、銀色の狼が描かれていた。
 昔懐かしい、でも一月前まで……。
「……相棒?」
 フェンリル……。
 ホントにゼロになっちゃったようです……。

 あの時、何を考えて飛んでました?
 何だろうな。何も考えずに。もっと天気のいい日だったらな。
 ですよねえー……。
 ま、強いて言えば、お前がそこらに喧嘩売らないかってことぐらいだ。

「管制塔、上げてもいいのか?」
 天気はは快晴。ヴァレーとうってかわってここでは5月らしい晴れ晴れとした青空が広がっていた。
 これで風の音だけ聞こえる芝生にでも寝転がれたら最高かもしれないが。
「燃料の補給を忘れるバカがいるか!さっさとこっちに回せ!」
 生憎俺が体を預けているのは緑の芝生ではなく真っ黒いシートで、聞こえてくる風の音は傭兵と基地スタッフのてんやわんやする声で。
「フェンリル6、離陸を許可する。フェンリル9、速やかにタキシングしろ」
 正規軍の連中も上がっていく。
 フェンリル隊。同僚なんかじゃなく、名前だけ借りたんだろうと相棒は言っていた。
「いっそ終わったら組むか?」
「んー。もう一カ所候補がありましてねえ」
「違いない」

 グラティサント。南部国境、ハードリアン・ラインにそびえる遺跡要塞。
 補給基地とうってかわってこっちの天候は最悪だった。
 雨雲で閉ざされた空と、宙を舞う霧雨が遺跡の威圧感を演出する。
「こちらイーグルアイ。グラティサントを叩け。奴等の防衛機能を奪うのが今回の任務だ」
「空無いの空ー」
「無い」
「ぇー」
 遺跡をそのまま要塞にしているとは聞いたがここからでもそれがよく見える。
 相手は、山そのものか。
「見えてきた」
 お喋りは終わり。最初の城跡より先にSAMが雁首並べてお出迎え。
 対空兵器を片づけにかかる、間近に迫る山肌に駆け上がるような錯覚を覚える。
 見上げてみると、尚更でかい。
 さて、乗り気じゃない相棒とは裏腹に、こういう任務だと途端に元気になる奴もいる。
「クナイ2投下。お城のてっぺん終了〜」
 イングの奴が大型爆弾投下して最後の反撃で撃たれただろうミサイルを振り切ってる。
 速度と精度の兼ね合いで言うと、今日はアイツに全部もってかれるか?
「いっそ全部任せてしまいましょうか?」
「確かに。気合い入れてもぼったくられるしな」
 それに周囲の同意の声が続く。
 まさかこいつら全員シグにぼったくられてるんじゃないだろうな。
 言わずともイングが先頭つっきって集中砲火に晒されてるんだが……全部避けてるのが恐ろしい。
「そりゃないぜーつかこの先マジでやばいってー」
 そう思ったら雨のような機銃の閃光を背景にとって返して来た。
 距離にして2000。それでも天を向く銃弾の雨がもう見える。
「俺達も相当嫌われたもんだ」
 解ってはいるが文字通りの弾丸の波に突っ込めとはな。
 ミサイルの雨じゃない分いくらかマシだが。
 他の連中もアレより周囲の砲台から狙い初めてる。
 シグ達なら何とか出来そうと思ったが連中、上から狙うのが厄介な横穴の掃除にまわってる。
「妖精さん妖精さん」
「何だ?」
「あれ、真上がいい感じに死角じゃないですか?」
 ああ、確かに。塔の窓から大量の砲撃が来るが屋上付近にまでは設置されていないらしい。
 だが仕留め損ねたら腹を晒すハメになると思うんだが……不思議と、恐くない。
「退路の方よろしく」
「了解。とんだ1番機だ」
 並んで距離を取ってその場でロール。
 まるで遊べと強請るような……いや、実際そうか。
「新鋭機のアピールに良くありません?」

 笑っている。楽しんでいる。
 バカ単純に、飛ぶことだけ。

「よし、行くぞ」
「了解」
 シザースを決めて上昇する相棒を横目にタワーを掠める。
 流石に派手にパフォーマンスに銃口が興味を示す。
 命懸けの航空ショーの始まりだ。
「ガルム1投下〜」
「フェンリル9FOX2!」
「クロウ2、投下!」
 ギャラリーのノリもいい。ステージの掃除も終了だ。
「みんなずるーい」
「うるせい!こんなトンデモ要塞、お前等が居なかったら行かされて無いぞ!」
「どう考えてもお前等の腕に会わせて作戦が決まってるんだから!責任取れ責任!」
「意義無ーし」
 ……今度は味方からの集中砲火かよ。
「いいなあ新鋭機……」
「豚に真珠、PJにアクティブ」
「そんな〜」
 ……一部関係ないのも混ざってるが。
「各機、そう苛めてやるな。B地区の壊滅を確認、それぞれの判断で各エリアへ向かえ」
 管制官に感謝。
 だが実際広い。何処から攻めるかな。
「ガルム隊は北西エリアに向かえ。敵航空部隊はそこから来る」
「それは朗報〜♪て、随分情報早いじゃないですか」
 その答えは、俺達の眼下にあった。
「相棒、あれだ」
「え?……うわあ」
 例のタワー周辺に転がる戦闘機の残骸。
 恐らくここ数日以内に落ちた奴が引き取り手が来なくてそのままになってるんだろう。
「逃げ帰れなかった連中の置きみやげって所ですか」
「そのようだ。大いに活用させて貰おう」
 他の連中も最初に潰した場所を除いた3方へ散らばっていく。
「クロウ2よりクロウ1へ、どっちに向かう?」
 迷ってるのも何機かいるなあ……まあこれだけ広いと戦域間違えたらアウトは十分あり得る。
「悪運の強そうな奴についてったらどうだ?」
 悪運ねえ。
「よう相棒、誰が一番恵まれてると思う?」
「んー……悪運だったらシグさんとか?」
 だよな。ちっさな幸運の使い5人もひっさげてる奴がトップだろう。
 ん?アイツの悪運を頼りにすると言うことは……。
「仔鴉ちゃん達かもーん」
「帰還後の夕飯代かもーん」
 やっぱり……。
「クロウ1より、全機。自力で頑張ろう自力で」
 そうそう、それが正しい。

「エリアガーデンに敵侵入!庭荒らしを追い出すぞ!」

 出迎えの番は無数の鳥。上にも下にも、賑やかな事だ。
「よぅ相棒、どっちやる?」
「決まってるでしょー」
 子犬が喜ぶのも無理はない。こっちはたっぷり遊べるよう地均しといこうか。
 それから数分と立たなかった。
「……ぶー」
 混線した無線でエリアガーデンと呼ばれていた場所は、やんちゃな子犬のお陰で見るも無惨。
 墜ちた敵機が掠めるのは予想外だろいくらなんでも。
「何やってる!これ以上庭荒らしの好きにさせるな!」
 地上の無線が混線。
「だったらとっとと全機上げて来いよ」
 ちまちま上げてると一機ずつ食われてくだけだぜ。

 立ちこめる暗雲。何時鉢合わせるかも解らない化け物部隊。
 だが不思議と、ネガティブな感情は湧かなかった。
「D地区の沈黙を確認。全機見せ場だ、グラティサントを叩きつぶせ!」
「こちらクナイ1。C地区の高射砲を潰したいが上空の連中が邪魔だ。ちょっとやってくんないか?」
 レーダー範囲を最大に広げる。C地区周辺に友軍機は数えるほど。
 そしてそのど真ん中を突っ切っている二機は恐らくあの2人なんだろうが、そのお陰でマークされているようだった。
 お得意の「事故」も起こせないとなると高射砲の砲撃が相当激しい、か。
「どうする相棒?」
「爆弾余ってますし行きますかー」
「了解。シグ、今夜はお前がおごれよ!」
 いつかの、雪の日のようだった。
「助かった。ちょっと補給行かせてもらうぜ!」
 言うなり補給ラインへ機首を向ける二機……て、ちょっと待て。
「お前等ーっ!!」
「そう言うなって、最後に一仕事しとくからよ……っと。クナイ1投下〜」
「クナイ2も投下〜はい高射砲全滅。じゃあね」
 ……行っちまったよ。おい。
「押しつけられました?」
「だな」
 ま、そうかからないだろ、この調子なら。
「こちらクロウ1、E地区の沈黙を確認した」
「で、シグさん結局戻るのを待つまでも無くですか」
「相棒、奴はどうしてくれようか?」
「奢らせても子供達がいますしねえ……」
 確かに。あいつらの視線のバリケードは高射砲より厄介だ。
 雨はあがっていた。差し込む日射しが綺麗だった。
 その光が……強く輝いた気がした。
「妖精さーん?もどりまーすよ?」
「……今、空が光らなかったか?」
「さあ?」
 雨雲の隙間からは、何事も内容に光が射し込んでいる。

 その日のデブリーフィングで、正体不明の攻撃による別働隊の全滅を聞かされた。
 嫌なシルエットが脳裏を過ぎる。
 翌日、シグ達が偵察に飛ぶことになったと聞いて、尚更。
「大丈夫だって。逃げるだけなら得意だぜ俺達」

 俺の不安は杞憂に終わる。やばかったのは、俺の方だった。