ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission6

 ああ、あれか?いやそれが、な……。
 焼けちまったんだ、あのインタビューの後。
 あいつらがせっかく作ってくれたのにな。
 ……むしろ、今日の日の為だったかもしれないが。

 相棒の様子が変だ。
 実に淡々と任務をこなしていた。
 一言も口を開かず、ずっと。その代わり誰よりも早かった。
「よう相棒」
 何も知らない連中の賞賛なんざ、耳に入っちゃいなかっただろう。
「まだ生きてるか?」
「……」
 生命反応無し。
 期待していた子供達の出迎えも無い。
 そうなると……地に足をつけてなお糸の切れた凧のように部屋に籠もって……。
「なあ相棒……」
 無言でベッドに転がられて、気まずい思いをするのは相部屋の俺なんだが?
 ただ寡黙に、ただ早く……エースとしては正しいんだろう。だがな……。
「お前、変だぞ」
「……まともに見えますか?」
 憎まれ口叩く元気は残ってるらしい。壁の方を向いたままだったが。
「だから心配してるんだろうが」
 焼けた街。ロケットの中の女。凶悪さの理由を考えるには十分すぎる。
 だから、今の状態に説明が付かない。
 まるでたった今、初陣を終わらせたばっかみたいだった。
 くぐもった、だが明らかにわざとらしい笑いが聞こえる。
「面倒見のよろしいことで」
「明日は首都解放だ。そんな状態じゃ俺が困る」
「……別に」
「は?」
「そんなの、どうでもいい……」
 おい、首都解放。侵略からの奪還。
 期待しちゃいなかったが、ここまでモチベーションが上がらないもんなのか?
「にっくき仇を叩き出せるって考えは無いのかよ」
「……あの国も哀れだ」
 そうだった。一応オーシア側のあくどい真似も知ってるんだったな。
 哀れんで、それでもその命を弄ぶ。
 その神経に到る過程は、既に推測が立ってるが。
「お前、何のために飛んでるんだ?」
 ただの意地だったのかもしれない。
 惰性で飛んでいるだけの奴があんなに早いわけが無いと思いたかったのかもしれない。
「死ぬため」
 生きる気力の無さそうな奴からは、生きる気力の無さそうな答えが返ってきた。
 ただ、その一言が嫌に力強かった。
「……生きてるな」
「でも意義がない」
 いつの間にか、真っ直ぐこっちを見ていた。
 ……今度は俺が拗ねてやろうか?
「妖精さんは?」
「金の為だよ」
「……生きるため?」
 リアクション無し。幻滅の一つもしてもらいたいもんだ。
 目は、真っ直ぐだった。
 狂気も諦めも、微塵も感じさせない、何も知らなければ「いい目」だと言えたんだろう。
「前回まで施設の借金があったけどな」
「じゃあ、ちゃんと間に合ったんですね」
 肯定したら……笑っていた。皮肉でも何でも無い。
 ただ安堵の表情だった。今は色んな意味で、脆い状態なのかもしれない。
コンコン……。
 間に合った……か。かなり余裕で返せたんだけど、な。
「私には報酬も、栄誉も、分かち合う相手は……もう……」
ダンダンッ!!
「ん?」
「あれ?」
 て、さっきからノックの音が響いてたんだが?
 話の腰を折った正体は……。
「すいません、お邪魔しました!」
『……』
『もう、兄さん行くよ!!』
 シグの子供達だった……流石に雰囲気が普通じゃないと思ったのかすぐ出ていったが。
 だけど邪魔どころか……。
「……」
「分かち合う相手が、どうしたって?」
 渡りに船だったんだがな。
「良いの……かな……」
「良いんだよ」
 その手が、ペンダントをきつく握りしめている。
「英雄の女っての……ぶおっ!」
 枕の上から拳が降ってきやがった。隙間から見た相棒の顔は……。
「そう言う事言うのやめましょうよ」
 本気で怒ってたな。耳まで真っ赤にして。

 相棒の様子が変だ。
『ちゃっちゃと片付けてきますからねー♪』
『おー』
 嫌にやる気だ。まあそれもそのはず。
「ぜったい帰って来てよ!」
「ああ、大丈夫だ」
 階級章の横に咲いた紙の花。ちっさな見送り達が夜なべして作ったお守りだ。
 今も末っ子が袋を引きずって、出撃する連中全員に配布……あ、こけた。それも水たまり。
『ばかー!何やってんのー!』
『ご、ごめ、ごめんなさいーっ!!』
 あーあ……こりゃ争奪戦開始だな。
 そして、一番に手渡しで渡された俺達のは一際特別だった。
「あれ?金紙と銀紙どうした?」
「ガルムの2人に」
「「「「「何ぃーっ!?」」」」」
 良い年して金紙も銀紙も無いだろうに……ま、勝ち組気分なのは否定しないが。
 相棒のは花びらに金色が行くようになっていた。俺は逆。
 その代わり、うち一枚が赤ペンで塗りつぶされてるけどな。
「ちょ、何で俺はダメなんですかーっ!」
「PJは彼女からのお守りがあるんじゃねーのー?」
「そ、そんなことしたらアデーレさんに殺されますってー!!」
「アタシがどうしたってー?」
「んぎゃーっ!!」
 あぶれた連中の反応は三つに分けられる。
 諦める奴。
 たかる奴。
 水浸しで妥協する奴。
『なんで!いつも俺にくれるじゃん二人ともー』
『だってー』
『……ん』
『ちーくーしょー!』
『はいはいシグちゃんさっさとスタンバイしましょうねー』
 シグは父の威厳もへったくれも無い。イングに引きずられて行く当たり、所詮弟か。
「いやー妖精さん、今日は清々しいですねえ」
「まったくだ」
 と、ハンガー前に誰かいるんだが。
「ガルム隊、お守りの賞味期限が切れる前に出発して頂きたい」
 副官殿のお出ましか。よく考えれば毎回見送りと出迎えやってるか。
「ぇー」
「ああ中尉、司令に伝えておいてくれ。帰ったら、子守代用意しておけってな」
「承知しました。御武運を」
 で、結局基地中で散々騒がれたお守りはと言うと、帰ってからの勲章という形で決着した。
 お陰で作戦開始前から無線にはひっきりなしに気合いを入れる声が走っている。
「またむさ苦しい中飛んでくんですかぁ〜」
「しかも今回は綺麗所も無しだ」
「妖精クンそれどういう意味よ」
「いや、慈雨さんにちょっかい出されても僕が困るんですが……」
 相手がいたって32じゃなあ……しかも売却済みだし。
「待て、今回って事は前回いたのか!?」
「彼女も相手いましたけどね」
「なんでぇ。こういう場合大抵一人はいるんだけどなー独り身の綺麗どころがよー」
 俺も長らくやってるが空にいるってのはそう無かったような……。
 いや、いたとしてもイングみたいな厄介な女ばっかだった気がする。
「コブ五つもぶら下げてるような奴に好きこのんでついてく女がいるか」
「そういう女がいいんじゃねえか」
「シグ、母親探しなら余所でやれ」
 つか戦場で探すんじゃねえ。
「ガルム1よりクナイ1へ。私でよろしければ〜」
「却下却下却下!!」
 それ本気じゃねえよな。つかシグもムキになんな。
 相棒、いくら何でもそんな節操無しになったら彼女さん泣くぞ。
「各機、市街地が見えてきた。いい加減お喋りは終わりだ。私だってアレは欲しかったんだ」
 ……あんたもか。

「ベルカ制圧下にある5地区を解放しろ。作戦開始!」
 ウスティオ首都、ディレクタス。
 夕日を跳ね返す川辺、そこに照らし出される町並み。内陸の宝石とはよく言ったもんだ。
「敵航空機接近を確認。行くぞ!」
「ガルム1、エンゲージ!」
 ヘッドオンであっけなくキャノピーを砕かれた先遣隊の一機。
 やり口はいつも通り。ま、弄びにいかない分マシか。
「向こうの鼻先が野っ原向いてる間にやっちゃいますよ」
 ああ、なるほど。
「それを人は偽善と言う。そしてお前は偽悪者だ」
「そりゃどうも」
 大丈夫。その辺の敵機なんて相手にならない。
 スロットルは全開。好きに飛べる。
 そこに耳障りなアラート。
「こちらクナイ1、ビルの間。嫌な場所に対空砲しかけてやがる」
「ならクナイ隊は対空砲の掃除だ。ガルム隊、上空の驚異を排除しろ」
 ああ、くそっ。ここは敵地だった。レーダーにわんさか移ってるじゃねえか!
「うっとうしー邪魔ー」
「シグ、こっちの掃除を……!!」
 応答が、無い。
「あんた達最初からシカトされてるわよー」
 すれ違い様に音速で真下を飛び抜けるイングのMiG。同時にアラートが静まり返る。
「彼女にディスペンサーいりませんね」
 まったくだ。
 実際MiGのバーナーを焚いたあのスピードでどうやったらここまで手早くできるのか不思議だ。
 敵に回したのは一度きりだがこうも鮮やかに決められると背筋が冷える。
「クナイ2は対地攻撃を継続しろ、ガルム、クナイ1の援護に回れ!二機張り付いている」
「言われなくても」
 なるほど。前方の隊で気を引いてる間に対地に秀でた部隊を先にか。
 機首を反転してみればシグの背後にしつこいのが一機。もう一機は他三機に追い回されている。
 これじゃ返事もできないが、シグを追い回していたのが相手の不幸。奴の背後は危険地帯だ。
「上手くやれよ!」
 やっと聞こえたシグの言葉。直後急上昇する奴を追いかけて行く敵機。
 サイファーにケツを晒すハメになった。あとは食われるのみ。
「あ」
 ……穴の開いたパラシュートが墜ちてくのが見えた。
「おい……」
「嫌なタイミングで脱出してくれたもんですから」
 高軌道で引きつった笑いが出来る余裕は何処から来るんだ……。
「キャノピーキル対決はうちの勝ちだな……ああはなりたくねーから礼は言うけどよ」
「私は足から狙うんですが?」
「自慢にならねえよ。行くぞ」
 久々に嫌なもんを見たような気がする。
 そう。ここ暫く久しく見ていないような気がしていた。
「ったく、気分切り替えて次行くぞ!」
「こちらアルテア5、第2区の対空砲半数はやったぜ」
「うそーせっかくの稼ぎ時なのにもってくなよー」
 最前線も好調。首都解放のモチベーションはやはりこうでなくては。
「妖精さーん。ろくなの来ませーん」
「対空砲で我慢しろ」
「ぇー」
 ……まだ不満なのか、おい。
 まあ正直負ける気がしない戦だからいいんだけどよ。
「妖精さん」
「今度は何だ?」
「下、様子が妙じゃありません?」
「何?」
 対空砲を潰しきった町並み。あとは陸軍連中が街を制圧するはずなんだが……。
「イーグルアイからガルム隊へ。多分これだ」
 そう言って繋げられたノイズ混じりの無線から聞こえてきた多数の声。
「出てけ!ベルカは出ていっちまえ!!」
 耳をつんざくような大音量。
 他にも色々。とにかく多数の援軍がいるってわけだ。
「えーっと……市民団体ですか?」
「さっさと片付けないと、俺達の立つ瀬がないぞ」
 それから程なく二区目の対空砲を潰した報告が入る。
 また無線に市民達の声が加わる。本職顔負けというか……。
「傭兵根性見せてやれーっ!!」
 ああ、本職、いた。
「行くぞ、相棒」
「気合い入ってますねーえ」
 ……昨日は、空挺団のテンションに押されてただけなんてオチじゃないよな。
 そのままやって来た連中をお出迎え。相棒、良いところなんだから張り切ってくれ。
「さぁー次行きますよぉー……」
 ……帰ったらぶん殴る。
「いいから早く離陸させろ!この街は既に落ちた!」
「し、しかし、少将……」
「かまわぬ、まずはディレクタスから離れろ!」
 市民の一斉蜂起を受けて本当に破竹の勢いで進む連合軍。
 その一方、ベルカの方は士気を根本から砕かれたらしい。
「こちらクナイ1、なんか偉そうなの乗せたヘリが離陸してる。どうする?」
 どうやら敵上官が逃亡を計ってるらしい。
 未だに地上からは対空砲が派手に打ち上げてくるってのに。
「部下を残して敵前逃亡、どうしましょう?」
「どうするかね」
「やっていいんじゃね」
 周囲の反応また冷めたもんで。
 まあ、こんなんが上官では、向こうも哀れと言うほか無いが。
「じゃ、満場一致と言うことでガルム1エンゲージ」
 今回ばかりは止める気も起きない。
「下の人達に捕まえられる余地は残しますかね」
 そう言うなりテールローターに一発。
 さほど高度を取ってない場所から何かこぼれ落ちるのが見えた。死んではいないようだ。
「目一杯お仕置き食らってしまいなさいな」
「相変わらずえげつないな」
 正直、同情する気は無い。
「こちら第三戦車中隊。ベルカの攻撃機に狙い撃ちされている!誰か奴を落としてくれ!」
「さーて、支援向かいますよー」
 地上部隊を狙い撃つ攻撃機。悪い予感がした。
 AWACSから送られたデータがレーダーに移したのはA-10A。
 そこまで解ったとき、何か、決定的な何かが変わった。
「妖精さん……やっていいですか」
「頼む、少しはクリーンにやってくれ」
 低く、ありったけの邪悪を無理に押し込んだ声。
 傭兵が言っても笑い話かもしれないがこの街を必要以上の血で汚したく無い。
「無理な相談です」
 そう言ってバーナー焚いて俺を引き離していく。
 視界にそのシルエットを捉えた頃には既にエンジン一個お釈迦になっていた。
 これはやられるかな。哀れな敵機に同情を手向けようとした時だった。

「第4区のベルカ地上部隊を排除!市民が自由の鐘を鳴らしている!」

 解放の鐘、自由の鐘、色々言うが、俺と名も知らぬ敵機のパイロットにとっちゃ救いの鐘だった。
「……まあいいでしょう」
 単純な奴。それであっさり敵さんのベイルアウトを許したんだから。
「やれやれ」
「さっさと片付けて勲章貰うぞ」
「紙製の?」
「そうなるな」
 前方、恐らく最後の抵抗だろう機影は8機。
 やっと首都解放の空気に染まることができそうだった。

 あの時?ええ、結構乗り気でしたね。
 何せ、ここまで生き延びるなんて思ってもみませんでしたから。
 すぐ逝けると。でも無理みたいだなと。
 そう思った矢先でしたね。あなた達が来たのは。

「こちらイーグルアイ、全区解放されたようだな」
「彼らには戦う理由がある。勝敗はついた」
 鐘の音と、歓声と、悪い気はしませんでした。
 少し視線を地上に向ける。みんな、こっちを向いていた。
 最後のアレが効いたんですかね……頑張ったのはむしろシグさんとかなんですけど。
 それよりも……。
「妖精さーん」
「なんだ?」
「碌なの来ませーん」
 このまんま国取り返しちゃうんですけど、殺人蜂まだー?
「楽に帰れればそれでいいだろうが」
「ぇー」
 あっけなくヘッドオンキルされたり誘いにあっさりかかったり、ウスティオってそんなに軽んじられる場所だったんですかと。
 あー……イライラしてきた。さっきのA-10A血祭りにあげてれば良かったです。
 ついでにさっきのヘリもローター狙いなんて……あーいらいらいらいらいらいらするー。
「こちらクナイ1。兵装使い切り。こりゃとっと帰……」
「警告、警告!敵増援部隊の接近を確認」
「今更かよ?」
 あらら。シグさん戦力外通告受けた矢先……で、他のみなさんもそんな感じですか。
 こっちは結構たんまりあるわけで、本当にただ働きになるところでした。
「機影は2機 高速で接近中!」
「ここは俺達で相手しよう」
「やれやれ、ベルカの人員事情は相当悪いみたいですね」
 そんなことは関係ありませんでした。
 二機で来たんです。期待はずれな事にさえならなければいいんですがね。
 機影目視。Su-37が二機……彼等では、無いみたいですね。
「二機のイーグル、例の奴か」
「あれが彼の言っていた生き残りでしょうか?」
「だろうな。くれぐれもキャノピーを晒すな」
「了解」

 彼等は、強かった。
 そう、あの時の彼等のように。
 ……アラートが五月蠅い。妖精さんも似たような状況ですか。
 ロックの、ついでに追尾の対象も頻繁に切り替える。全部対応してついてくる。
「生きてますか?」
「お前も……っと!!」
 閃光が妖精さんの尾翼を掠める。どっちか、どっちかを狙ってる。
「妖精さん、飛んでてくださいよ!」
「言われるまでも!」
 均等分けなんて甘い目で見られたく無い。見てくれるような連中でもない。
 距離を、とにかく二人引き離して……。
「ガルム2、ミサイル来てるぞ!!」
 二番機狙い、嫌な連中だ!
「ガルム1、FOX3!!」
「くそっ……俺かよ!」
 へばりついてる。へばりついてる。でも、本当に狙っているのは……。
 妖精さんが加速、ほら、追いかけて行った!
 後ろがら空きに。心おきなく追尾して……て、何でまだアラート鳴って……。
「ゲルブ2、FOX2」
「えぇっ!」
 真後ろにミサイルって、ありですかそれー……いやなんとかギリギリ回避できましたけど、実は真後ろこそ危険ですってことですかぁ?
「大丈夫か!?」
「まあなんとか」
 タイミングドンピシャならヘッドオンキルってとこですか。
 いやはや、えげつないのはどこにでもいるもんです。
 もう一度行けますかねぇ……て、いかないとどうしよもなさそうですが。
 標的を妖精さんの後ろに食いついてるのに絞る。自分の背後は考えない。
 アラートが鳴る。前でも後ろでもやるべきことは同じ。
 ガンレティクルを敵機の進行方向に捉える。
「相棒、ミサイル!!」
 解ってますよ。
 撃とうと撃つまいと変わらない。これが私のやり方。ただ撃ち抜くのみ。
 敵機まで距離200。ミサイル着弾まで5,4,……ここが限界。
 ブレイクと同時に機銃掃射。
「ガルム1の敵機の撃墜を確……相棒!!」
「……っ!」
 衝撃、アラート、どこか、かなりやられてる。
 高さが、建て直しきる?真正面に見えるのは小さな屋根。
 被さる影、ここで首を上げたら逝ける。上げなかったら……。
「サイファーッ!!」
 同じ末路なら。だから、もうどうでも良かった。
 機体を立て直す。この後、簡単に死ねると、そう思っていた。

 敵さんからは機銃もミサイルも無し。改めてアラートが鳴る。
 妖精さんが敵機の進路を逸らしたらしい事は解りました。
 でも、向こうに撃つ猶予はあった。でも撃たなかった。

 ……気に入らなかった。

「決意……いや覚悟か。こういう手合いが一番怖い」
 ほんとに墜ちてくれない。一瞬の煮えくり返った余韻がある。
 情けなんて、今更なんになるんですか。
「負けを認めるにも時間は必要だ」
 早く終わらせたかった。

 どのくらい、飛んでたかな。

「FOX3」
 ミサイルの雨。レティクルが逸れてなお撃ち込み続けた機銃。
 その全てを食らって、火だるまになる敵機。
「ガルム1の敵機撃墜を確認」
 後々になって思えば、ただの僻みだったんでしょう。
 ベルカならベルカらしく、無情に撃ち落とせば良かったろうにという、身勝手な。
 それだけで、人はこんなにも残酷になれる。
 ……やっと、終わってくれた。

「当該空域の脅威ゼロ。ガルム隊、作戦完了だ」
 空が静かだ……鐘だけが鳴り響いてる。
 後は無線のノイズと、自分の荒れた息だけ聞こえる。
「よう、相棒、まだ生きてるか?」
「く、くたばっていいですか……」
 息が荒れる。肺が痛い。正直このまま墜落したい。
「ガルム2よりイーグルアイ、下の声を聞かせてくれ」

 聞こえてきたのは、わき返る人の声、声、声。

 ノイズの正体、これだったんですか。
「下を見てみろ」
 街の、ああ、いつの間に広場の上まで来ちゃったんでしょうか。
 ……で、みんなこっち見てるんですが。
「この地区は俺達が取り戻した、もうベルカのものじゃない!」
「奴等が逃げたら店も再会ね。ディレクタスを花でいっぱいにするよ」
「ディレクタス万歳!!」
「聞こえるか?ちゃんと、いるんだよ」
 みんな見てる。
 少し上で雲を引いて、輪を描いたら、歓声がどっと湧く。
「……良いんですか、私で?」
「彼女にも、胸を張れ……カラッけつでロックすんじゃねえよおまえは!」
 思春期茶化さないでくーださーい。

 今日、この日の事を、深く悔やむ日がくる。
 そんなこと、この時は思いもしていなかった。