ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission6-Interval-a

 お守りと言えば、覚えてます?あの後。
 ……あーんま思い出したく無ぇなあ。
 そんな〜……あの日の晩は私、今でも……ぽ。
 ぽ、言うな!頬赤らめて言うなっ!!

「ガルム隊、お疲れさま〜」
 帰投中。イングさんの機体が編隊はずれてちょろちょろ飛び回ってます。
 浮かれているのは他のみなさんも同じなんですけど、この人は一際。
「イング、少しはおちついたらどうだ?」
「あらー救国の英雄を労うのは美女の仕事よー?」
 戦闘機からでは美女もへったくれも無いはずなんですが。
「……旦那は?」
「いいです……もう慣れてますから……」
 あららぁ。せっかくのめでたい日だと言うのにまあ。
「シグ、義理の兄だろ。フォローぐらいしてやれよ」
「百も承知で嫁いだ婿にかける声無し」
 あら冷たい。
「……実は姉貴とられて悔しい?」
「んなっ!?」
 あらあら野次にそんな過剰な反応しちゃいますとですよ?
「シスコン?」
「違うわーっ!!」
 と、本人真っ赤。顔見えませんけどきっと真っ赤。んで、余所ではといいますと。
「確かに10年生死を共にしてるよなー」
「なんだかんだ言って、今まで世話焼いてたしなあ」
 一気に疑惑拡大。
『てめえ!サイファー!こんちくしょーっ!』
『わたーしベルカ語しかはーなせませーん』
「……やーいシスコーン」
「ピィークゥーシィーッ!ちくしょー!お前等2人とも墜ちちまえばよかったんだぁーっ!」
 暫く周囲の野次にシグさんが噛みつきまくってましたね。
 どう見ても必死です。本当にありがとうございます。
「残念、当分そんな機会ありませんよ」
「こちらイーグルアイ。連合軍との合同作戦はまだ続くぞ?」
「え゛ー」
 なんでオーシアなんかの為に敵さん血祭りあげなきゃいけないんですかぁー?
「ああ……そうだったな」
 て、妖精さん?
「……ピクシー、悪いもんでも食ったか?」
「いや、悪いもんは食ってないが、ちょっと効果がでかすぎる奴を貰ったからな」
 んー……なーんか忘れてるよーな。
「さあ、基地が見えてきた。帰ったら最高の栄誉がお出迎えだ」
 ああ……そうでした。
 生き延びたのは、コレのおかげだったりしますか。

 降りてきて真っ先に出迎えたのは3カ国語が入り交じったお出迎え。
『お疲れさま』
「首都解放、おめでとうございます!」
『敵のエースやっつけたんだって』
『すごかったんだってー』
 で、なんか栄誉栄光独り占め。他のみなさんに悪い気がしますね。
 と、後ろにササメちゃんが控えてるんですが。
「はい。首都解放の勇士達に勲章授与でーす」
 その勲章は、まーた紙袋に詰め込んじゃって。
 私の分は……あ、司令来てますし。
「君達の分は私から……」
「え゛ー」
 思い切りふてくされてやったら拗ねました。
「おーい、おっちゃーん生きてるー?」
「司令、顔周りが子供達に紛れるには無理があるかと」
「どうせ年寄りよりピチピチの方が……」
 いやピチピチ言うには若すぎますよ。つかピチピチて。
「こうしてみるとただの中年親父ですねこの人」
「全くです」
 と、言うわけで、勲章はヒサメ君から頂きました。
 フリーダさんじゃねぎらいの笑みすら浮かべてくれないので却下です。
 ……聞いたら後で本物くれるらしいです。正直いりません。
 向こうではデブリーフィングもまだだと言うのに勲章貰って大はしゃぎです。
 あなた方一体幾つですかと。

 司令からの祝辞で終わったそれをデブリーフィングと呼べるかと言うと疑問ですが……。
「さて、良い知らせがもう一つある。先刻シャトー・ボロワーズのビンテージが届いた。希少なカベルネだ。今日はこいつで祝杯といこうじゃないか」
 で、一気にむっさい歓声が沸き上がるブリーフィングルーム。
 いつの間にそんなもん頼んだんですか司令。
 しかも既に食事の準備まで整えてあるという周到ぶり。
 でもワインですか。こりゃ私は部屋からカルピスでも……。
「シルヴァンス中尉、君にも飲んでもらうぞ」
「え?」
 て、あれ?中尉?
「シルヴァンス少尉、これまでの功績につき、本日付けで中尉に昇進だ」
 あれまあ……あー、あんだけ暴れてればまあ仕方ないですか。
 て、シグさんが早速一本開けてますよ。
 なんかもうヤケっぱちって感じで。さっきからかい過ぎましたかねえ。
「いよぉーっし!今夜はウスティオ解放とぉーっ……えーと、サイファー本名なんてーの?」
「エル-シエロ=シルヴァンスだが」
「ウスティオ解放とエル-シエロ=シルヴァンス中尉の昇進祝いだーっ!」
「野郎共、飲むぞー!!」
「おぉーっ!!」
「飲ませるぞーっ!!」
「おぉーっ!!」
 はい?で、みなさんなんですか揃ってこっち見て……。
「もちろん主役が飲まないなんて事は無いよなぁ?」
 なんかみなさん目つきが恐いんですが……。
「そういや酒苦手とか言ってなかったけか?」
 ぇーなんの事かなぁー?
「ガルム1、撤退は許可できない。迎撃せよ」
「何を?」
「酒」
「よーしかかれーっ!!」
 ええーっ!?あ、つい条件反射で2,3人投げてしまいました。
 8人ぐらい巻き添えくいましたけど……料理は無事なんでまあ良しとしましょう。
「おーいモグモグ……あんた達この目出度い席でムシャムシャ……メディックの世話なんじゃないわよーボリボリ……」
 ……はやいとこなんとかしないと全部アデーレさんの胃に収まってしまいそうです。
 というか何であなたが食べてるんですかと。
 いつの間にかフリーダさんや司令まで料理に手を着けてますしー。
 誰を労う為の祝宴なんですかー?
「て、妖精さん料理の確保お願っ……!」

 あの時はお前の数少ない弱点だと思ったんだがなあ……。
 今でもお酒は苦手ですよー。
 そうかそりゃ良かった。
 なんなら今夜飲み……なんですかその握り拳……いでてててて。

「おこぼれは出せない。料理は自分で取りな」
 祝勝会のはずが、いつのまにかサイファーに無理矢理飲ませるための戦場に変わってしまっていた。珍しく本気で嫌がってる相棒を余所に俺はごちそうにありつく。
 女性陣及び子供達も同様だ。
 ちなみにワインの一本は既にイングが開けている。
 いつも司令の側にいる印象のツィーゲ中尉が何故か隣だ。
「フォルク少尉は参加しないのですか?」
「いや俺は一昨日の二の舞は御免だ」
 こうしてみると、中尉も結構な美人だよな。その美人にお酌ってのも……悪か無い。
「飲めー!」
「逃げんなーっ!!」
「いーやぁー」
 しかしまあ……屈強の傭兵十数人相手にまったく怯んでないのが恐ろしい話だ。
 連中もあんな細腕にとだんだんムキになりはじめ当初の目的は……。
 所で相棒、そんな甘ったるい声何処から出る?
 いつもの道化じみた声とのギャップが……あ、また3人投げられた。
 地上戦もそれなりにこなす連中のはずなんだがなあ。
「なあ管制官、ウスティオ空軍は地上戦まで仕込んでるのか?」
「彼にはお姫様がいたからな」
「ああ」
 ……まあどんなに腕っ節が強くても、攻撃機相手じゃ意味が無かったんだろうが。
 ちなみに諦めた何人かがテーブルに着いて観戦する側にまわってるんだがまだ大乱闘と呼べる。
 現状は三種類に分けられた。
 参加する奴。
 傍観する奴。
 ひたすら食う奴。
「なあなあ、PJ」
「もぐもぐ……なんすか〜?」
「どっちが勝つか賭けね?」
「何賭けるんですかー?ごくごく」
「お前が負けたら女に告る!!」
「ブッ!!ななななななななななな何言ってんですか!?」
 とうとう賭まで始めやがった。
 流石に畳みかけるような突撃は無くなって互いにスキを見つけての駆け引きも見られるようになってきた。
 そしてテーブルの方を見渡すと意外な人間が外野に回っているのに気が付いた。
「シグ、お前は参加しないのか?」
 最初にけしかけた奴が日和見を決め込んでいる。
「ダメダメ。アイツのは護身術だけど俺の場合殺っちゃうこと前提だから」
 殺っちゃうって……また物騒な。
 そんな考えが顔に出たのか、ワインを安酒の如く流し込みながら更に続ける。
「俺、昔地上でやってたから」
 大まかな動きが無くなったため子供達は興味の対象をジュースとチキンに切り替えた。
 未だ様子見をしているのは長男ぐらいだ。
 お、またとっくみあいが始まった。あー、流石に今回はふりほどけないか。
「よう相棒。随分生き生きと嫌がってるな」
「よーせーさーんっ」
 おー。ムカついてるムカついてる。
 へばってきたのか何人かに押さえ込まれている。こりゃ決着つきそうか?
「サイファー、そう弱いわけでも無いんだし大人しく飲んだらどうだ」
「中佐はあの後知ってるでしょうがーっ!!」
 あ、キレた。しかもその勢いで押さえ込んでいた連中全員ほっぽり投げた。
 これは逃げ切りか?それもつまらん。
「なあ、あいつイケる口なのか?」
「ああ。歓迎会の時面白いように飲むんで飲ませたら翌朝見事二日酔いだ。槍玉に挙がった理由も今回と似たようなもんだ」
「よっぽど有能だったんだな」
「真面目な好青年だったしな」
「……想像つかん」
「だろうな」
 しかしまだやってんのかあいつら。いい加減料理……おい、シグ一家がタッパ詰めはじめたぞ。
「いい加減撃沈してもらわないとやばくないか?」
「彼が逃げ切るという選択肢は?」
「無い」
 その一方、とうとう最後の一人をダウンさせて……こっち睨んでフーフー言ってる。
 なんかいつもと立場が逆だな。
「あれは正攻法で行くの無理だな」
「しかし格闘戦では勝ち目は無いぞ」
「そうだな……」
 確かにそうだ。現に数十人いた屈強の男達をリタイアさせた奴に腕尽くで飲ませるのはかなり無理がある。
 ましてテーブルに着いた今では被害が甚大になりそうな気がして恐い。万事休すか?
「ここはシグさんにまっかせなさーい」
 打開策を持ち出したのは酔っ払いだった。
『ひーちゃんひーちゃんちょっとおいでー』
『……』
 すっげ嫌そうな顔してる。
 だが、思惑は理解できた。
 格闘戦が駄目なら特殊兵装を使えばいい。それだけのこと。
「大丈夫だ。いいからおいで」
『……』
 警戒しつつ寄ってくる……そんなに俺が嫌いか?
『なぁ〜ひーちゅわ〜ん』
 それとも肩越しに酒の匂いを振りまく酔っ払いか。
「管制官、ちょっとこれ黙らせろ」
「了解した」
『……』
 お、警戒が解けた……俺じゃなくて良かった……。
「コレとコレもって、サイファーんとこ行って来い」
『……はぁ』
 呆れたような溜息。それでも承諾してくれたようで、誘導爆弾は着実にターゲットに迫っている。
『サイファーさん』
 そして着弾。
『どうし……』
 あ、固まった。
 そりゃそうだろう。
 オレンジジュースのコップとワイングラス持った長男。
 つまり一緒に飲もうと言うことで。
 首だけぎちぎちと音を立ててこっちを向くが目線は俺達と長男を交互に泳いでいる。
「残念だったなぁ、相棒」
『……』
 恨み言をいいたくとも、長男から上目遣いに見上げられては何も言えまい。
 そして今まで諦めてテーブルについていた連中の視線が一点に集まる。
 思うところは皆同じ。長男よくやった。
「……どうなっても、知りませんからね」
 とうとう飲んだ。
 特にへべれけになるでもなく、随分絵になる飲み方を心得てるもんだなと感心する。
 周囲何割かがムカついている。俺もその中の一人だ。
『ひーちゅわ〜ん、くんしょ〜やっじょ〜』
 それに比べてこの野郎は……。
 長男こっちギンギン睨みつつの食事じゃねえかよ。
「妖精さん妖精さん」
 と、こっちにもちっこい爆弾がやってきたか。
「えへへー一杯いかがー?」
 次女に注いで貰って俺も一杯。
『シュウちゃ〜ん。パパにも〜……ごふっ!』
 後頭部への一撃。凶器は次男が常備していた辞書。音から察するに恐らく角だ。
 その背後に立っているイングの旦那……Tacネームなんだったかな。
 シグは息子に引きずられてお持ち帰りだ。
「すいませんねえホントに」
「お前飲んでないのか?」
「いえ、さっきさんざん飲んだんでこれ以上は体に毒かなと……」
 そういって指さした先ではイングが酔い潰れて寝ている。
 相当飲める。や、それ以前にどういう肝臓してんだこの男。
 イングだってかなりの大酒のみだというのに。
「さて、気を取り直して……」
 いつの間にか次女の代わりに相棒が居るのはなんだ?
「お酌しまーすよー♪」
「あ、ああ……」
そういえば次女はと周囲を見回す。
 次女の代わりに見つけたのは……
「もう飲まないんですか〜?」
「ササメちゃん……もう勘弁して頂戴……」
 並み居る傭兵達をワインで撃沈させまくる長女の姿だった。
「だるーい。きもちわるーい。めでぃーく、めでぃーく……あうー……」
 その屍の山にはアデーレ嬢も混ざっていた。メディックはお前だお前。
「よ〜せ〜さぁ〜ん♪」
「あーはいはい」
 こっちはこっちで厄介な奴の相手を……。
「シエロさびし〜」
 いやマテ。
「ねぇ〜ん」
 顔が近……。
「ふぅっ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 耳に息を吹きかけるなーっ!!
 この時まともな声が果たして上がっただろうか?
 いやそのまえに耳に口を寄せてんじゃねーよオイ!!
「なあこれ……」
「酔っぱらってやることは同じと」
 もしもし司令官?
「ガルム2、撤退は許可できない」
 ちょっと待て管制官!!
「お前等知ってやがったなーっ!!」
 腕絡みつかせるんじゃねーよこのクソガキーっ!!
 しかも周りの連中ニヤニヤこっち見んな!
「ねえしってるー?」
 イングが復活してやがる……まさか、まさかとは思うが……。
「ピクシーて、ホモて意味あんのにょー」
 俺にそんな趣味は無いっ!!
 畜生、誰だよ最初に片羽の「妖精」なんて言い出した奴はーっ!
 もう頼みの綱は……!
「なぁっ!ツィーゲ中っ……!」
「新人歓迎の時にこの手のネタでからかわれて以来これです」
 ……ようするに、諦めろと。
 すでにいないこいつの同僚を本気で恨んだ。
「フォルク少尉も槍玉に挙げられたことはありませんか?」
「……」
「そうですか。悪いことを聞きました」
 淡々口調の裏で何を想像したーっ!!
 そしてしっかり料理に手を着けてやがる!
 もうわけ解らねえよウスティオ正規軍!!
「妖精さ〜ん」
 何時までも絡んできてだんだんエスカレートしていく相棒に、俺は力技で挑む事にした。
「よう相棒」
「はい〜?」
「飲むぞ!!」
「お〜」
 と、言うわけで、それから数十分もする頃には宴もお開きとなり、そこに残っているのは……。
「目標の沈黙を確認」
 結局いつもの口調で実況に徹した管制官。
「……ホントにそこまでやるとはな」
 それをずっと眺めていた司令。
「ご苦労でした」
 その間、実はずっと食ってたツィーゲ中尉。
「きゅ〜ん」
 そして酔い潰した相棒。
「結局お前等が一番楽しんでんじゃねえのか……」
 そして俺。他は皆自室か医務室だ。さすがに子供達はもう寝てる。
「なあ……そろそろ帰投許可を求めたいんだが……」
「了解、帰投を許可する」
「ちゃんと相棒は持って帰れよ」
「……勘弁してくれ……」
 俺も相当量飲まされたんだが、それでも運ばないと駄目か?
 なあ駄目か?俺も正直足下がふらふらしててメディックの世話になりかねないんだが?
 というか俺もかなり酔ってる。あとコイツが目を覚ます前に退避したいんだが……。
「私が肩を貸しましょう」
「……悪いな中尉」
「廊下で寝られても困りますので」
 無表情で無愛想だがそれでも今は救いの手だ。

「……」
「……」
 部屋まで、長い。酔って足がふらつくせいもあって途方もない距離に思える。
 横にいるのが他の誰かなら会話の一つもあったんだろうがこの女はとにかく喋らない。
 副官としては有能かもしれんが祭りの場には不似合いだとつくづく痛感する。
「こいつ、よっぽど可愛がられてたのな」
「ええ……あの数ヶ月だけでした」
「……だけ?」
「ソーリス・オルトゥスの事は?」
「いや」
「そうですか……」
 あの街に、良い記憶がなかったのか、そう考えにふけっていたら、重心が崩れた。
 中尉が袖を引っ張っていなかったら床にディープキスしていたところだ。
 その後ゆっくり下ろされて結局キスだったが。
「コイツ、何とかならんのか……」
 重心が崩れた原因、馬鹿相棒が両足俺の腰にまわしやがったから。
「この後二日ほどは自己嫌悪に沈むので」
「そりゃ一体何時の話だ?」
 少なくとも戦争が始まってから酔って暴れられる機会は無かったと思うんだが?
「……」
 助け起こすこともせず膝を抱えてこっちを覗き込みながら一拍の間に考える。
 ……一瞬でも可愛いと思った己の不覚さを嘆く。
「撤退は不可能、迎撃せよ」
 やっぱこの女は苦手だ。

 それだけ苦労して部屋に戻ってみれば俺のベッドの上に次女と三男に長女。
 俺達を待っていたのか長男が机の椅子に、次男がソファに寄りかかって眠っている。
 いや、前にも似たようなことはあって、ここが選ばれるのは至極当然のことだったんだけどな。
 相棒のベッドが開いてるのは……壁の血の跡、洗浄が不十分だった。これは恐い。
 でも俺とこいつはどこで寝ろと。コイツは頃がしてもいい。
 だがここで寝ると夢見が悪そうで恐い。
 そして長男と次男を俺のベッドに押し込んで俺はソファで寝る。
 ……結局相棒が自分のベッドで寝てるんじゃねえか

 あの時、なんとなく解った気がしたんですよ。
 シグさんがわざわざ子供達を連れてくる理由が。
 私のようになって欲しくなかったんだと思います。
 あの頃の私はきっと、シグさんにとって、最悪の未来像だったんだと思う。

 朝日が射し込む少し前に目が覚めた私が見たのはいつもの、少し赤汚れた天井だった。
 て、なんか部屋の隅でごそごそいってますよ。
「あ、すいません。起こしてしまいましたか?」
『いえ、いいですよ』
 目の前にいたのは着替え中のスク君とリョウ君とヒサメ君。
 女の子2人は何処に行ったんでしょうか?
『でも丁度良くね?』
『駄目だよリョウ。2人とも昨日は頑張ったんだから』
『……まだ寝る?』
 部屋でごそごそされると気になります。
『朝の散歩なら付き合いますよ』
『ほんと!じゃあさ、ライター持ってない?』
『……はい?』
 なんで?まさかその年で煙草とか吸うわけじゃ……。
『ちょっとした儀式みたいなものですよ』
『煙草や根性焼きじゃないからだいじょーぶ』
『一体何するんです?』
『秘密ー』
 まあ、まずい事だったら私が止めればいいだけの事ですか。
 しかしライターねえ……妖精さんなら持ってますかね。
 吸ってる所は見たことありませんけど持って……と、なんか帰ってきたみたいです。
『あ、サイファーさんおはよー』
『お父さんのポッケからライター持ってきたよー』
 どうやら、散歩の準備は整ったみたいです。
 シュウちゃんが引きずってる袋は……昨日の勲章でしょうか?
『サイファーさんも一緒に来るの?』
『子供だけに、火遊びはさせられませんからね』
『妖精さんは?』
『寝せておいてあげ……あ、ちょっと外で待っててくれます?』
 やっぱこう言うときは、お約束ですよね。
 ふふふ。無防備に寝てるのがいけないんですよ妖精さん。
『さ、行きましょうか』

 朝焼けで空は明るかったんですけど、山脈に遮られてかお日様は顔を出してない。
 5月とはいえまだ寒いのに、子供達は元気だ。
『はやくはやくー』
『早くしないとお日様出ちゃうよー』
 向かうのは滑走路の先端。離陸するときはあっという間なんですが、歩くと案外長い長い。
 子供達に両手を引かれて走ってもまだ長い。
『勢いついて飛ばないようにしてくださいよー』
『だいじょーぶー』
 で、滑走路先端ギリギリで、一体何するですか?
 袋にあったのはやっぱり昨日の勲章。数はそんなに多くありませんけど。
『サイファーさん』
『はい?』
『ディレクタスってどっち?』
『この先、真っ直ぐでいいはずですが』
『お日様出るよ』
 日の光がヴァレーに差し込む。それを合図に滑走路の先、ディレクタスの方向へとみな向き直る。
 ライターは、私の反対側に立ってるヒサメ君の手に握られている。
 袋から取り出した折り紙の勲章を炙ると、あっけなくそれは燃え出した。
 それを、ディレクタスの方へ向けて投げる。風に煽られて、あっという間に灰になった。
 続いてササメちゃんが、スク君が、シュウちゃんが、リョウ君が、そして最後に私も、それに火をつけて投げた。

『僕達、まだお酒飲んで騒いだりできないから』
 それは弔いだった。
 この勲章を、受け取れなかった人達への。
 まだお酒を呷るに早い子供達なりの。

 残った折り紙の勲章も同じように火をつけて投げる。遙か空に、届くように。
 この子達は、きっと多くの戻らぬ人を見てきたんだろう。

 私が戻らなかった時、やはりこうやって、見送られていくのだろうか?
 灰になっていく花を見ながら、そんなことを考えていた。
『ササメちゃん』
『はい?』
『後で、花の折り方を教えてくれませんか?』