ACE
COMBAT Zero
The Belkan
War
The fate neatly
reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward
War...
−故郷−Mission6-Interval
いやあの後は偉いことなりましたよねー
ほんっとあの後の事は思い出したくねえ……。
あー、あれは私もちょっと後悔しましたー。
……なあ、ちょっと一発ぶん殴っていいか?
「……あいつら、もう起きたのか?」
目が覚めた時には部屋はがらんどうになっていた。
正直まだ頭が痛い。暫くそのままぼーっとしてたと思う。
この時ちょっとでも鏡に目を向ければ良かったんだろうが、まだぼやけていた俺の頭はそれすら出来そうもなかった。
少し歩こうと思ったんだ。
「フォルク少……」
「ああ中尉、どうし……」
「ちょっと」
部屋の中に押し込まれたときは流石に驚いた。いや本気で焦った。
「い、いきなり何す……」
「フォルク少尉、くれぐれも取り乱さないよう」
「……いや、そういわれてもだな……!」
目の前に突き出されたコンパクトに映る、見覚えのある髭面のゲジ眉。
取り乱す前に、固まったな。
「……俺?」
「他にいません」
いたのがツィーゲ中尉でホントに良かったと思う。
シグだったら間違いなくその辺に色々ばらまかれてたろうし。
恐い物見たさで鏡台に目を向ける。よくもここまでやってくれたもんだと思う。
「油性か?」
「彼にわざわざ水性を選ぶ甲斐性があると思いますか?」
……結局人目につかぬよう洗面所に向かう事に。
中尉が見張りをやってくれたのは有り難かった。
「落ちたか?」
「言わなければ気付かないかと」
つまり知ってる奴の目にはまだ映ってるんだな。ヒゲが。
「除光液を貸しましょうか?」
「頼む」
あいつの血の色は何色だと本気で思ったよこの時は。
幸い、除光液で全部落ちたからいいようなものの……。
そして悪いことはまだ続く。
思えば夕べ子供達がこの部屋に来た時点で気付いておくべきだったんだ。
「片羽ー今朝はいいお目覚めだったよーで?」
「朝っぱらから何だぼったくり」
親が迎えに来るって可能性をよ。
そして、途方もないほどに嫌な予感がする。
見られて写真でも撮られていたら最悪だ。
「なあなあ片羽片羽」
「なんだぼったくり」
早い話揺すられるわけだがコイツの場合最初の一回でOKを出さないと本当にばらまく。
内容は笑い話だが本人にしてみればたまったもんじゃない。
心当たりはついさっき消したと思ったんだが……。
「夕べチビ共何処で寝たの?」
「俺のベッドだが?」
ん?ゆすり来たんじゃないのか?
いや、それにしては目が据わっているような……。
「じゃあ相棒のベッドでお楽しみか。度胸あんな」
「野郎といちゃつく趣味は無いんだが?」
「そうか。やったのはサイファーとか」
「何でそうなる!?」
いやその前に声が据わってきて……子供達の寝てる上でやった事にされてるのか?
口調は楽しそうだが、目が笑ってない。
誤解を解けなかった場合……明日はまず飛べない。
「あのな、あいつとはずっと同室で、何故今頃なんだ?」
「いやー俺すっかり中尉とお楽しみだと……ああ、アイツも昨日で中尉だったなー」
ん、中尉……?
「お前、誰とやったと思ってるんだ?」
「あん?フリーダちゃんに決まってるだろーが」
「あのな……あの女がそんなのに応じるタイプに見えるか?」
「じゃあ妙齢の女性が周囲伺いつつ男の部屋を出るのはなんじゃい?」
……よりによってそこか。
正直あんま話したく無いんだよなあ。シグなら尚更。
だからといって、話さずにいると有らぬ噂が、しかも子供達の前でやった奴なんて洒落にならん。
で、話したら話したで。
「なあなあどんな感じよー?」
「聞くな」
興味しんしんカメラ構えながら顔覗き込むな。どうせ現像するころには忘れてる癖に。
「見えねえな」
「徹底的に消したからな。除光液まで使って」
「ぇー」
て、両手で頬掴んで顔を寄せるな……っ!!
がちゃん
「げ……」
ドアが開いた。
「……あ」
最悪のタイミングで。
「えーっと、子供は見ちゃ駄目ですよ?」
最悪の奴が。というか元凶。しかも後ろに子供達込み。
長女は相棒が。三男と次女は長男次男が目隠ししてるが……。
「あーあ……」
蔑むような視線が刺さる。
『とうとう男に手を出したか……』
『ひーちゃーんっ!!』
長男の一言にシグが縋るもサイファーの背後に隠れられてしまい不発。
代わりに絡まれる相棒が哀れだが……長男がなんと言ったのか、理解できなかったのは幸いなんだろうな、きっと。そうだと思いたい。
『お父さん不潔……』
『涼まで〜っ』
そのまま子供達が後ろに隠れてるからってサイファーにすりよったら……あー、やっぱそのまま押し倒した。
「今度私ですかー?」
「ちげーわっ!!」
馬乗りの体勢で言っても説得力……あ、長男に蹴られた。
「ひーちゃんに嫌われたよ〜」
「なら擦り寄ってくんなっ!」
「司令待たせても悪いですしバカ2人このままにしてハンガー行きましょうか」
「さんせー」
まて相棒、俺まで一緒くたにするな!
そもそもの原因は誰だと思ってるんだーっ!!
……んで、結局俺達も司令にハンガーまでと呼ばれたらしいサイファーに付き合うことに。
というより、このままで終わらせてたまるかというヤケの方が大きかったが。
「これはまた随分と大量のオプションを引き連れてきたな」
「連れてきていいと言ったじゃないですか」
「正直シグ以外は予想の範疇だったんだがアレだ、一人増えると多いな」
クナイ1撃墜を確認。いい年こいて格納庫隅でうずくまるな。
いつからいたのかイングの旦……や、いい加減覚えよう。
「なあ、お前等の伯父さん名前なんつったっけ?」
「エド伯父さん?」
子供達には本名の方が馴染んでるか。
「Tacネームの方は?」
「なんだっけ?」
「忘れたー」
『……?』
あ、なんか格納庫隅に増えた。
「結局シグさん、何しについてきたんでしょうかねえ」
「バカはほっとけ」
「で、司令。わざわざ呼びだして何のご用で?」
結局2匹のマグロを放置して本題に入ることにした。
いつの間にか開け放たれていたシャッターから漏れる明かりに照らされた機体を見れば、その内容もすぐ解った。子供達の同伴を許した理由も。
「君のことだ、勲章や階級では報酬にならんと思ってな」
F-15Cの機首に備え付けられたカナードと、エンジンのノズル。
オーシアでは一部採用されてることは聞いていたんだが……。
試験的なイーグルの改良機。圧倒的機動性を示してすぐ実戦投入された代物だ。
実績があるといっても、試作機は試作機。全てにおいて安全かというとNOなんだが……。
よく考えたらこの司令、それこそ監視という名の護衛までつけるほど秘蔵っ子だったはずのこいつを陽動作戦に、早い話が捨て駒にひょいっと使うような男だったのを思い出した。
「なあ、この司令ひょっとして……」
「気をつけてください。か、な、り、の、狸ですから」
「はっはっは。聞こえてるぞなら狸らしくいくか?」
そう言って腹を軽くさするが痩せ形なので様にはならない。
むしろキツネとかそっちなのかもしれん。
子猫にキツネに子犬にここはどこの動物園だと。
「じゃあ狸らしい返答お願いできますか?」
「何かな?」
「後部座席に乗ってるのはなんですか?」
「ん?」
あ、そういえばなんか……猫耳が見えるんだが。ついでに言うとなんかごそごそしてるんだが。
あと、俺達から見て反対側にタラップがかかっているんだが?
その下で三男と次女を次男が押さえつけてるわけだが。
「……なあ、ひょっとして?」
「ひょっとしなくても」
『細雨お姉ちゃんだけずーるーいー』
『俺もコックピット乗るー』
『駄目だってもー!姉さんも何やってるんですかー』
新鋭機はさっそく子供達の玩具になったいたようで。
ここからじゃ聞こえないが多分上では長男が長女を引きずり出そうと四苦八苦してんだろうな。
そのドタゴタで後部座席に見えたものが明らかになる。
猫のぬいぐるみだ。それも何故か浮き輪に収まった。
……敵さんの主力が洋上にいるならこれほど縁起の悪いもんも無いと思うが。
いやそれ以前に何処から調達してきたんだそれは。
「司令、どうなさいました?」
「い、いや……」
狸も太刀打ちできない子供達。
「まったく、降ろしに……」
「ああ、行かなくていいぞ」
「はい?」
「……試運転とかそんなんじゃないのか?」
まさかわざわざ見せつける為なんて言わないよな。
「夕べ君達2人でワイン何本開けたと思っているのかね?」
そんなもん今朝の騒動で全部吹っ飛んだ。
……もうちょっと、もうちょっとだけ勝利の酒の余韻に浸っていたかった。
そういやあいつらあの宴会の時相当数のワイン開けてたのよね。
翌朝……ああ、午前中は私二日酔いでベッドの上だった。
メディックがかつぎ込まれちゃあ……て、話が逸れたね。
後片付けやった人に聞いたら2人のいた席だけ瓶が山積みだったって。
「あんた達何してんの?」
昼頃、薬も効いてやっと顔出した談話室で見たのはちょっと異様な光景だった。
テーブルを囲む屈強の傭兵達。その真ん中に据わってるのはシグさんとこの長女のササメちゃんとシエロ。
そしてそのテーブルの上に広がるのは白い花弁をもった色とりどりの花。
全部紙だけどかなり細かい。
そして、傭兵連中の興味はまた違うところ、長男の所に注がれている。
長男の手元にある、お手手繋いだ大量の鳥さん。
ちなみに材料は恐らく正方形に揃えるために切り取った部分。
そこを更に正方形でバラバラにならない程度の切り込みを入れて、それを鳥の形に織り上げていく。なんか偉い難しそうなんだけど。
『……』
横に腰掛けた私に気付いてこっちを見た。自分の作品を少し自慢げに主張する。
別に寂しいとか疎外感とかいうものを感じているわけでは無いらしい。
周囲の言葉が解らないからと言って、不安だと言うことは無いらしい。
思えば開戦直後、ベルカ国籍の自分はどうなるのかと思えば扱いは他とさほど変わらず。
もっとも、そんな事を気にしてどうすると私の肩叩いてくれた連中の大半は帰らぬ人となった。
不真面目な駄目メディックを辺境の基地に押し込んで。
「随分と賑やかですね」
「ありゃ。中尉も来たんだ」
「他の場所に全く人がいなかったので」
「みんな二日酔いかここにいるかですかい」
となるとヴァレーで暇を持て余してるほぼ全員がここに集合したってわけか。
つっても一カ所の密度が異様に濃いお陰で他は結構ガラガラに見える。
「……珍しい光景ですね」
「ん?」
「彼の周りに人が居る」
「ん、ああ」
いや、実際はササメちゃんに集まってるのかもしれないけど確かにシエロの周りに人が居るのは珍しい。
「いつもどうしてるんだっけ?」
「子供達と、と言ってもこの子とよく一緒にいるようですが」
なるほど。長男も集団の中にいるような子じゃないしねえ。
今も一人で紙の鳥を……あ、紙の端っこまで使い切った。
『サイファーさん』
「おや、できましたか」
それ聞いた途端にみんなこっちにむさいのが大挙……思わず飛び退いたよあたしゃ。
おおだのすげーだのやっぱりむさい感嘆に包まれる長男。
心なしか誇らしげに見える。
そして長女は笑顔のまま嫉妬をたぎらせてるように見える。
ピクシーの方はムサい集団の最後尾で次女を肩車してた。
「お兄ちゃん鶴作りマスターするぐらいなら公用語覚えようよ……」
「相棒、長男の最優先事項はお前の気を引く事らしいぞ」
シエロの次は長男か。
これもこれで珍しい風景だわ。
いつの間にかそのシエロが横に座ってるし。
まわりがムサいから細いシエロがよく目立つんだわこれが。
「……ねえ中尉」
「なんでしょう?」
「シエロの奴さ、この戦争終わったらどっか行っちゃいそうじゃない?」
何となくそう思った。
少なくとも私にはそう見えた。
「確かに……少なくとも、ウスティオにいる理由はもう無いでしょう」
「そうなの?」
「以前の所属、彼の故郷はそこと本人が」
そしてあのペンダントの中身か。
「おはよーございまーっす!!」
『!!』
その後、空気を読まずにやってきたクロウ隊の馬鹿三番のせいで鳥の手はあえなく切れてしまった。
傭兵+子供達総掛かりで制裁を受けたのは言うまでも無い。
「頼むからメディックの手ぇ焼くような事にしないでよー」
「今後の任務にも支障がないようにお願いします」
この時は、思いもしなかったのよね。
居なくなるの……中尉の方だったなんてさ。
そういやお前、あれから帰ったか?
帰る理由があると思いますか?
あるだろ?
もう、あの町には居ないんですよ、その「理由」が。
翌日のハンガー。
ようやくお預けから解放された相棒は文字通り子犬のようにはしゃいでいるはずだった。
「よう相棒、一応聞いておく。まだ生きてるか?」
「くたばってまー……す」
現実は背後に生ける屍が一匹。頼むから寄りかかるんじゃねえ。
首都解放から間もない故か今のところウスティオにはこんな暢気な空気が流れている。
これから向かうのは新鋭機のテストとついでがてらの哨戒。
んで、暢気がてらにだ。
「ついでにソーリス・オルトゥスにも寄って来てもらえんか」
この司令の台詞の後ゾンビが一匹出来上がり今に至る。
まあ相当嫌ってるっていうのは昨日一昨日で良く解ったわけなんだが。
「ガルム1、撤退は許可できない」
「いや管制官の真似しても無理だと思うぞ」
実は気に入ってるだろ、それ。
「サイファーさーん」
ハンガーの出口から聞こえてきた長女の声。これはまた離陸が遅れるかな。
また折り紙の入った紙袋を……今日は引きずってない。大事そうにかかえてる。
他の連中が見えないな。
「持ってきたよ〜」
「やっぱ行かないと駄目ですかあー……」
「おい。そこまで覚悟決めてんなら今更だだこねるんじゃねえ」
「ぇー」
「Gかけても潰れないようにしたよー」
「さあ、観念してもう行くぞ」
「へーい……」
肩に寄りかかる。機体まで連れて行けと言うのかこの野郎は。
「おい。滑走路前の子供達にまでそんな面見せる気か?」
「それもまた一興」
「……」
とりあえず飛行に支障がないよう脳天に拳一発。
これ以上ふざけられる前にタラップに張り付け。コックピットに押し込んだ。
「……まったく、そこんとこ何とかならんのかお前は」
「ぇー……」
新鋭機の調子は順調。操縦に関しても元が一緒だっただけにすぐ馴染んだらしい。
もっとも機動性は段違いで、いきなり乗ったら簡単にブラックアウトできそうだったんだが。
元が同じとは言え。一回旋回しただけですぐ感覚を掴むのは若さかな。
むしろ新しい玩具を貰った子供か。
……随分上機嫌で乗り回していたんだがなあ。
「妖精さーん。このままヴァレー戻っちゃいましょーよー」
未だにダダを捏ねている。
「子供達の花束までお持ち帰りか?」
「……はーい」
やれやれ。
ごねる相棒と一緒に滑走路に降りたら、出迎えが居た。
赤い髪の、30半ばぐらいの女だった。そして……。
「いぎっ……」
相棒が固まった。凍り付いたようにがくがくと震えて……
逃げようたってそうはいくかい!
「ちょっと待て!」
「離してくださいぃぃ〜!」
「シーエロ、お帰りなさーい」
「……か、母さん……」
「へえ……て、若っ!」
「あら、冗談でも嬉しいわ」
その女は、こいつの母親だった。近くで見ると、確かによく似ていた。
「どう、うちの子迷惑かけてない」
「いえ、腕は確かです。このまま連れてもいいと思ってる」
その評価は、中身の問題を抜けばの話。
白い花束と、親御さん。実家がこの街にあった。そして……。
「……ブラン、ですか」
彼女の墓もここにあった。エルジア語で、白。捻りもへったくれもない名前だった。
そこに、片膝をついたまま、花束を抱えたまま動かない相棒が居る。
「私達、昔はエルジアに住んでたの。ここに来て、あの子に公用語とベルカ語を教えてくれたのがブランちゃんだったの」
俺達は、墓所の入り口でそれをただ見ていた。
「周りの子と折り合いが悪くてね、家に閉じこもっていたんだけど、あの子がパイロットになって、期待されてるって知って、奮い立ったんでしょうねぇ。カウンセラーになるって、大学受け直すんだって……」
「その矢先……ですか?」
「ええ。いっそ傭兵にでもなって連れ出してしまえばって言ったら怒られちゃったわ」
駆け落ちでやっていけるほど甘い世界じゃない。
俺だって若いが故に随分苦労はしたが……アイツだったら……。
「……そしたら、今頃名を上げてますよ。保証する」
そして、違う形で出会っていたかもしれない。
「ふふ。光栄ね……あら?」
ふと、母親の視線が墓所に戻る。
そこに、20過ぎの女が居た。よく言えば着飾った、悪く言えばチャラチャラした、何処にでもいそうな女だった。その手には、色とりどりの花束。彼女の、墓参りだろうか。
それに相対する相棒の声は、聞いたことの無いものだった。
「……これで、満足か?」
おどけの無い、青臭ささえ感じる声だった。
「うざいのが消えて満足か?」
ただ、漲る殺気だけが年相応のものだった。
「いけない……」
「どうなんだよっ!」
「シエロッ!!」
俺が動くよりも早く、空いた手を母親が押さえる。
安堵の瞬間……。
「!!」
信じられない、光景だった。
吹っ飛ばされる女。今まさに全体重を乗せて拳を打ち込んだだろう相棒の背中。
止めるのにも叱責するにも遠すぎるその場所で、慟哭のような声を聞いた。
恥を知れ、と。
振り向いて、擦れ違い様に見た目は……嫌な色にギラ付いていた。
だが、ありったけの憎悪にも見えるギラ付きが、本当は何だったのかは、少し解る。
「妖精クン、行ってあげて」
「あ……ああ」
探すのは簡単だった。紙の焼ける匂いがしたから。
「……だったのに」
「相棒?」
「殺してしまえれば楽だったのに……」
こっちを向かせた。笑っていた。笑いながら……泣いているように見えた。
「彼女、享年いくつだと思います?」
腹に溜め込んでいる奴の言葉は、遮っちゃいけない。
施設のシスターが言ってくれた言葉だ。
「24……10年人を恐れ続けて、とうとうどう会話すればいいのかさえ解らなくなってた。私に言葉を教えてくれたのは彼女なのに」
手に握られた花は西へ、円卓の方へその破片を散らしていく。
そして付け加えるように言った。
「何で、たった一発で済んじゃうんだよ!」
子供だった。
「誰が、誰が彼女を殺したんだ!ベルカか?アイツか?フリーダさんか!?」
憎しみを飼い慣らし切れない、ただの、子供だった。
「それとも……ボク」
「もういい」
何が哀しくて、22の男あやすのに抱きしめてやんなきゃいけねえんだよ。
「ボクも……アイツと一緒、だよ」
「違う」
「惰性で、だらだらと、心の代わりに、体を……殺して……」
「だったら悔いない」
そう言う奴は相手を路傍の石ほども思って無い。俺は良く知ってる。
「どうして……どうして……」
彼女がどんな人間だったのかは知らない。
ただ……離れちゃいけなかったんだろうなって思った。
自分がそんな存在になるなんて、思いもしちゃいなかった。
……それとも、俺にとっての、コイツが?
「そう言えば父さんは?」
滑走路前で母親が待っていた。
「あら、聞いて無い?」
「え……」
「そうね。エースの心を乱すような事があっちゃいけないわね」
いや、のっけからご乱心だったんだが……今なら訃報を受けても、何とかなるか?
「あの人ったらいてもたってもいられなかったんでしょうね。ディレクタスに向かって……」
まさか、こんな所で悲劇の上塗り……。
「ヘマ踏んで入院中か何かですか?」
「何でそこで引っ張らないのよ」
「マテ」
「ほら反応がいまいち」
「ぁー」
標的は俺かよ……やっぱこの親にしてこの子ありなのか。
そして、呆れたように天を仰いだのは母親の方だった。
「あーあ……あの生真面目で大人しいシエロは何処いっちゃったのかしら?」
「死にました」
「……そう」
それは親に言う台詞じゃないだろう。
「じゃあ、そろそろ戻ります。父さんによろしく」
「そうね。ディレクタスに寄ることがあったら松葉杖にはくれぐれも注意なさいよ」
「定年後の趣味何か提案したらどうですか?」
「シエロに会いに行ったのにそれはないんじゃない?」
妹の所行を知った時はショックでした。
それに対して、私の両親が彼と彼女に言った言葉も。
優秀な長女の存在が、家族全員を傲慢にしていた。
だから……ツィーゲの名は便宜上のものでしか無いんです。