ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission5

 お前、まだ持ってるんだな、それ。
 いけませんか?
 いや……やっぱりまだ忘れられない、か?
 あんまりあの嬢ちゃん泣かすなよ。

「ごちそうさまー♪」
 結局、その日の夕飯は本当にシグが助けた部隊の奢りになった。
 名前は……忘れた。
 見た感じ傭兵隊としてはルーキー。こんな連中に奢らせるか普通?
 いや、俺もたっぷりごちそうになったわけなんだが。
 だが司令とツィーゲ中尉まで呼ぶのはやりすぎだろう。
「……じ、地味に嫌ですねこれ……」
 稼ぎの比率からすれば微々たるもんだが日々の糧だ。確実に削られている。
「ごちそうになった」
「うむ。たまには悪くないな」
 一番若いのがなんだかんだ言いつつ一番高いもん食ってる件については誰も突っ込まない。
 何処かで見たような気がするんだが、まあいいか。

 まあ、せっかくの機会だから、俺も2,3杯はお代わりしたがな。一番高い奴。

 それからの日々は特に大きな事はなかった。
 持ち回りで偵察と哨戒。たまに敵機に出会ってちょっとドンパチやる……。
 護衛対象も無く手練れでも無くなるとまた遊び出す。
「んなことしたって、あのおっさんは来ないと思うぞ?」
 何度叱っても治らない。治す気も無いのかもしれないが。
 空色のホーネット……キラービーの事はあれから話していない。
「どしたの、えれームキになっちゃって」
 ただ、訓練の時は前よりがむしゃらになった。アイツより俺が。
 アイツは気付いてない。飛んでもない奴に喧嘩売ってたって事に。
 だから、地上での時間は貴重な休息のハズだったんだが……。
『……ねぇ、どうしよう』
『早く見つけないと……』
 子供達全員が床に這い蹲ってる。
 流石に5月に入って長男はマシュマロから黒子に羽化。
 ……冷え性らしいがまだコート着ないと寒いのか。
 捜し物の手がかりは、テーブルの上で日の光を反射していた。
 卵より小さいぐらいの銀色の楕円形が一組。
「何だこれ?」
『あ!』
『ちょ……!』
「ほう……」
 どうやら子供達が探しているのはこれの部品らしい。
 裏側に女の写真があった。白髪の、だが老婆じゃない。
 20を過ぎたぐらいの若い娘だった。
「妖精さーん?」
「みとれてるー?」
 見とれてたというより、物珍しいと言う方が正しい。
 アルビノで尚かつ美人なんて滅多にいるもんじゃない。
 もちろん、事持ち主には迷惑な話になるんだろうけど……。
『勝手に見ちゃだめー』
 解ったから、要求通すのにのしかかるのは……
『……』
「長男まで乗るなーっ!!」
 9歳らしからぬ発育を少しは意識してくれーっ!!
「あ」
 タッタッタッタ……
「サイファーさん」
 タッタッタッタ……
「ウォリャァーッ!!」
「ぐふぉぁっ!!」
 頬の衝撃。浮遊感。ソファに叩きつけられるまで、コンマ2秒。
 子供達の呆けたような……いつの間に逃げたんだお前等。
 ……そしてそこから先は、良く覚えて無い。

 ああ、最初に脅されたメディック?うん、そうだよ。
 第一印象ねえ……アンタはどう……は?
 あー……最初は久々の空だったから。
 アタシは、初対面が最悪だったから。

 破片やら壊れた備品やらが散らばった部屋。
 その真ん中当たりでさ、そいつ腕からだくだく血を流してたのよ。
 みんなが怖じ気づくのもしょうがないと思った。
 こんなのでも飛ばさないといけないって考えると、ホントに末期だったんだね。
 ホントは人を呼ぶべきだったんだろうね。
 でも、目を離したらその間に死んじゃいそうだったから、アタシが処置した。
 傷口洗って、上着だけでもとっかえさせようとして……触っちゃったんだろうねえ。
 もの凄い大声上げられてさ、何があったのか解らなかった。
 気が付いたら、床に押し倒されてた。
 恐かった。本気で恐かった。全然腕っ節で適わないから、正直覚悟してた。
 ……だけどさ、目ぇ開けてみたら、そいつの方が泣きそうな顔してんの。
 そのまま部屋の隅に縮こまっちゃってさ……怯えた顔でこっち見てるの。
 それから中尉達が来るまで、ずーっと握りしめてたのよ、そのペンダント……。

「で、アンタ達一体何やってんのよ」
 血相変えた子供達に引きずられて何事かと思えば……。
 しょげた顔でロケットペンダントをいじくる我が軍のエースと、ほっぺに紅葉散らしたその相棒。
 シエロの奴はシャワーからろくに拭いてねえな。
『……』
 その間に座り込んで物言いたげな目でエースを睨む黒子が一匹。
 で、話を聞いて見れば……。
「で、失神した相棒起こそうと?」
「ええ……」
 ……。
「この……ド阿呆ーっ!!」
「え、え、えっ!?」
「意識呼び戻すのに全力でひっぱたく馬鹿が、いるかーっ!!」
 お前の面もぼこぼこにしたるー!
 と、言うわけで、エースも紅葉でお揃いお揃い。
「アデーレさん、ここ最近凶悪……」
「だったら、やり返してみるー?」
「……あくどいですよ」
 お子様の前で出来るか?ん?ん?
 どーせできっこないんだから……と、言うより……。
「あのー……」
 拳が握られっぱなし。中には大事なペンダント。
「整備の連中にでも聞きに行けばいいでしょうに」
 大人しくぶら下がってるとは思えない力で振り解いて直行。
 礼の一つも言いやがれっての。
「さーて、んじゃ診察しま……ちょっと!!」
 ガキ共担いで何処行く気だ片羽!
 担いでない方の肩掴んで引き戻……
「いだだだだだだだだだっ!!」
 触診結果:打撲傷
 あの野郎どんだけ全力ぶつけていやがったんだ……。
「……ま、良く冷やしといて。で、中身見たの?」
「ん、まあ、定番だったよ」
 まあ、ロケットに入れるつったらそんなもんだわな。
「本当に……何もかも定番通りだったよ」

 気になりますか?彼からは何も?
 そう……でしょうね。
 少し安心しました。
 彼の本質は、結局変わってなんていなかった。

 因果な話だ。
 任務の内容を聞かされたときそう思った。
 公式に、ではない。
「まったく、アイツのズボラは相変わらずだな」
「アクス大佐をご存じで」
 ブランド中佐から、間接的に。
 ガチガチに固められるのも困るが、あの司令には緊張感というものが無いのか。
「ああ、一応後輩……の、はずなんだがな。要領よくポンポンと出世したもんだ」
「それが、何を好き好んで辺境にいるのやら」
「しかも副官に選んだのが君だからなおさ……いや、何でもない」
 ……中指を拳から出してた。この癖は直さないといけないわね。
 しかし、本当によりによって……。
「ソーリス・オルトゥスですか……」
「君はシエロと同郷だったな」
「彼は何も?」
「”彼女”もだ。街の話になると口下手なりに必死ではぐらかそうとしていた。それこそ、自爆ネタを使ってでもな」
「……でしょうね」
 言うはずが無い。まして酒の肴にともなれば尚更だ。
 さて、これを前もって彼等にも知らせないといけないのだろうが……。
 場所は医務室に移る……尋ね人が居ないので部屋に向かう。やはり留守。
 待機室にでもいるのだろうか。

「打撲の具合はどうですか?」
「ああ、もう平気だ。飛行停止なんて大それた措置にするまでも無し。な、相棒」
「うー……」
 早乙女少尉の部屋だった。
 フォルク少尉もいるし手間はかからなくていいが子供達同伴は都合が悪い。
 いや、その前に……。
「その子はまだくるまってるんですか」
「もこもこですよー」
 いい加減羽化したと思ったが部屋に戻ると相変わらずらしい。
 子供達に席を外させるわけにもいかないので二人を引きずり出して作戦の概要を説明する。
「俺達に市街戦とはねえ……まあ直接やらない分マシか」
 実際の所、フォルク少尉の危惧より事は深刻だった。
「あの……これに名指しですか」
「ウィーカー大佐からの推薦だそうです」
「……やっぱり沈めときゃよかった……」
 うっかり「誤射」などやりかねないのがこの男だ。
 まして「あの街」なら尚更……。

 え、帰るわけ無いじゃないですか。
 だーれが帰りますかあんなとこ。
 ……なんてね。解ってますよ。
 ふふ……引き金を引かないで、後悔することもあるんですね。

 あー、めんどくさいめんどくさいめんどくさい。
 何が哀しくてオーシアなんぞの護衛せにゃならんのですかと。
「ぼやくな相棒、要路奪還にこき使えると」
「その要路がなんでココなんですかー」
「なあ、どうしたんだ相棒?」
 うあー、むあー、やる気しなーい。やだやだ。
 仕事だけど任務だけど、何でよりによって「ここ」なんですかと。
「でー、今回も傭兵組私達だけじゃないでしょうねー」
 こないだなんて右も左も正規兵だらけだったじゃないですかー。
「嫌ですよーまたオーシア連中と組むのー」
「イーグルアイよりガルム1、安心しろ今回の応援はサピンからだもうすぐ来るぞ」
「えー、東部諸国に戦力押しつけですかー」
 あ、何か友軍機来た。
「こちらエスパーダ1よりガルム1、好きにこき使えると思えばいいだろう」
「そう言うこと。降下隊にはしっかり頑張って貰わなきゃ」
 へえ……女性パイロット、ですか。
「こちらオーシア大122航空隊だ。頼む……恐い会話は離脱してからにしてくれ」
「ぇー」
「おい相棒、悪いのは上だ上」
「そうそう。終わったらお姉さんが慰めてあげるわよ」
「お、おいマカレナ!」
「あら、妬いてるの?」
 強いなあ戦場の女の人。
「空挺師団降下地点にある対空兵器を破壊しろ。作戦開始!」
「ガルム1よりイーグルアイ、司令にいっといてください。覚悟しておけって」
「安心しろ。今朝のうちに離脱した」
「チッ」
 あー、もうやらなきゃしょうがないんでしょうけどねーぇー。
「お前達は何だ!飛ばなければ価値の無い連中だーっ!!」
 空挺団のみなさん、テンション高すぎるんですが……。
「うわあ……」
「多めに見てやれ……勇敢なだけが取り柄なんだから、ほれ、行くぞ!」
「はーい」
「おやおや。ウスティオのエースはご機嫌斜めと見た」
「今日の戦果は独占させてもらっちゃおうかしら?」
 むー。
「どうすんだ、相棒」
「いいですよ。やってやりますよ」
 張り合って頑張ってりゃ「事故」で済みますよ「事故」でーもー。

 ええ、気が気ではありませんでした。
 本当にやらないと言う保証は何処にも……
 そう。二度目の出撃の報告を聞いたときから。
 良心の枷に、苦い思いをしてきた二人でしたから。

 任務は順調に進み、順調に終わった。
 空挺団降下後の制圧も含めて、人的被害はゼロ。
 後はこの滑走路に彼等が降りてくるのを……。
「どしたのフリーダちゃん」
「ひゃあっ!!」
 耳の後ろ何か通ったーっ!!
「あら可愛い」
「い、いきなり、出てこないでください……」
 早乙女慈雨だった……耳元を撫でたのは、黒い絵本だったらしい。
「いやちょっと黄昏てるからなーにかなと思って」
 顔が近い。と言うより、まじまじと……。
「な、なんですか……」
「んー。フリーダちゃんじゃないみたいねえー」
「だから、何が?」
「ん?シエロちゃんの、コレ」
 と言って小指を立てる。それは、つまり……。
「アレに恋人が居るように見えますか?」
「うんにゃ」
「だったら……」
「”居た”ように見える」
 過去形だった。
「初出撃の前にちょっと話してたんだけどねー……昔のシグとおんなじ。黄昏て、荒れて。んで、そこにやっぱ黄昏る女がいたらってねー♪」
「勝手に死人にしないでいただきたいのですが……」
 あまり、触れたくない話だった。
 嫌でも「彼女」に突き当たる。
「あー、ごめんごめん」
 反省の色無し。
『細雨ー、宿雨ー!早く来ないと中尉さん逃げちゃうわよー』
『慈雨伯母さんまたやってますよ……』
『お父さんがまた嘆くよー』
『……』
 やって来たのは、長女と次男。後から付き添いとばかりコートを着込んだ長男がやってくる。
 確かにここは寒冷地でもう日も傾いてはいるんだが……。
「本題は、こっーち」
「……何か?」
「ちょっとね、いらない紙とかハサミの類無いかなーって」
「お守り作るの」
「伯母さんの拾って来た本に、そんな話があって……」
 子供達のつたない公用語の前だと……やはり強くでられない。
「それでしたら用務員に……そもそも何故私ですか」
「フリーダちゃんも参加しないかなーって」
 ……。
「あ、フリーダちゃん逃げたー」
『もうー伯母さん何言ったのー』
『……お父さんもだけどエド伯父さんも泣きますよ……』
『……』
 つきあってられん。

 明日は、首都解放がかかっている。

 伯母さんが好きな本があったんだ。
 うん、本屋の人に聞いたら、もう無いって。
 絶版とかそんなんじゃなくて……もう無いんだ。
 唯一その本を出版していた場所が街もろともね。