ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission4

 所で妖精さん。
 ん、何だ?
 きっと貴方の評価は相当地に落ちてると思うんですが。
 ……んなもん、とっくの昔に覚悟の上だよ。

 散らばった本とダンボール。日射しの弱い部屋でしわくちゃのシーツの上。
−ねえ、ほんとに行くの?−
−うん。他に思いつかないし−
 薄暗い部屋の中で、真っ白な彼女の存在だけが浮き彫りになっていた。

−それに、何かあったらシエロが飛んできてくれるでしょ?−

 飛んでる。空を飛んでる。ひたすらに、何よりも早く。
 行かなくちゃ、急がなくちゃ。
 何処に?
 後ろから追ってくる。
 空色の機体。空色のホーネット。
 墜ちていく。胃が浮き上がる感覚。
 嫌だ。まだ……!!
 伸ばされた手は、白かった。
 その主には……顔の右半分が無かった。

      っ!!」
 振り払った手は、小さかった。
『?』
 丸くなったセピア色の目はちゃんと二つ揃っている。
「……あれ?」
 私、寝てました?目の前にいるのはマシュマロ……もといシグさんとこの長男、ヒサメ君。
 ……せっかく妖精さんに気を遣って貰ってたのにろくでもない夢です。
 ホーネット……さっきやりあった連中のせいってことにしておきましょうかね。
 で、他の子達はいないみたいですし……。
『妖精さんの所にはいかないんですか?』
『(ふるふる)』
『退屈じゃありません?』
『(ぎゅ)』
 すっかり懐かれてしまいました。
 そんなしっかり抱きつくんだったら、お返し〜。
 あ、ぎゅーっとすると気持ちいい。
 あー……いいなあ羽毛布団のもこもこ。
 海外旅行の予定でもあったら一枚頂きますか。
「もこもこ」
 うーん、至福。
「もこもこー」
『……重』
 あー、もこもこ……。
「よう相棒、何やってんだ」
 至福の時間、終了。
「何です人が気持ち良いことしてるときに」
 妖精さん、子供達引き連れご登場。
「変な表現すんな」
「妖精さんのすけべー」
「お前なぁ……」
『……』
 あ、引っ込んだ。
『……』
 本物の羽毛の固まりかと思ったら、視界だけちゃっかり確保。
 どう見ても警戒中ですこれは。と言うより、カメさん?
『……』
「……」
「妖精さん、嫌われてませんか?」
「昔シグとやりあったからな……」
 覗き込む妖精さん。ますます奥へ引っ込むヒサメ君。
『フー……ッ』
「威嚇されてますよ」
「……いや、その」
「本当に、やりあっただけですかー?」
 なーに気まずそうな顔してるんだかねえ。
「あの……サイファーさん」
「はい?」
 えーっと、眼鏡でおかっぱの、次男のスク(宿)君でしたっけ。
「あんまり虐めないであげてください……」
「ぇー」
「ピクシーさん、父さん助けてくれたんですよ」
「それで片羽になっちゃったの」
 あらま……となると、貸しがあるって事なんですかね。
「名誉の負傷って事ですか?」
「そんないいもんじゃねえよ」
『ウー……っ』
 でしょうねえ。
『お兄ちゃんいい加減許してあげようよ』
『あれは父さんが非常識すぎたんですってば』
『子供乗っけて離陸なんて事自体無茶だったんだしさー』
『でもあそこで間に合わなかったらボク達焼けちゃってた?』
『ちゃんと軍隊のおじちゃんが来てたわよ。それにお母さんの仇とったのピクシーだよ』
 妖精さん、言葉が解らなくて呆けてるようですけど、包み隠さずバラされてますよ。
 とても笑い話にできない事まで付け足されて。
 ……腕の中でくるまってるヒサメ君が、とうとうマシュマロの奥に引っ込んじゃった。
 同時に、窓の外からエンジン音が聞こえてくる。
『お父さんかな!』
『出迎え行こう出迎え!!』
 駆け足で次々と部屋を出ていく。やっぱり、お父さんが好きなんですかね。
 腕の中のマシュマロは相変わらず鎮座してますけど。
「ねえ妖精さん」
「何だ?」
「普通に敵としてやり合ったことはあったんですか?」
「二度三度」
「……共闘したことは?」
「今回で二度目」
 次敵になったら?とは聞けなかった。
 マシュマロさんが、布団越しにぎゅーっと腕を握り締めていたから。
『妖精さんが嫌い?』
 ただその問いに、首を横に振って。

 ほんと、何処にどんな縁があるかなんて解りませんよね。
 全くだ。あの時は血の気が引いたぞ。
 鉢合わせずに済んだのは、幸運だったかもしれませんね。
 ああ……その様子だと、ちゃんと解ったみたいだな。

「で、お前は一人寂しく?」
「しょうがないだろ長男に牙向かれたら」
 結局俺もその後を追いかける形で滑走路にいる。
 相棒は相変わらずマシュマロで遊んでいたが、そのうち食われて逃げられなくなっていた。
「俺は息子にお前は相棒に、お互いふられて……」
 ここで時間を潰していたのが失敗だったんだ。
「じゃあお姉さんが慰めてあげるー」
「ぎゃーっ!!」
 襲いかかる成人女性の全体重。巻き付く腕。
「首、首いって……っ!!」
「姉貴……旦那いるだろう旦那」
 ……酸素50%……
「それはそれ、これはこれ」
 ……酸素30%……
「つか、ピクシー顔が青いから……」
 ……酸素10%……。
「ありゃ」
 解放……ただ今酸素充填中……。
 いつの間にか子供達散り散りだし、肝心なときに助けてくんねー……。
「この基地でお手つきじゃないの、妖精クンだけなんだもーん」
「相棒とかは……?」
「ああ、アレは一番ダメ」
 そう言えば最初の時平然としてたっけか……。
「相手が向こうにいるから」
 深く考えるには酸素がかなり足りなかったわけだが……。

 さて、こないだ俺達が体張って進軍させた艦隊がいよいよ本格的に攻め入るということで、俺達傭兵部隊にも出番が回ってきたわけだ。
 後で聞いたら余りを叩きにシグ達まで出張っていたらしい。
 通りで報酬の額が少ないと思ったらやってくれた。
「諸君、静粛に」
 事務を通り越して機械的なまでに通った声。
 声の主が女狐なのか、横に陣取ってる司令が狸なのか。
「さて、小さな情報員達のお陰ですっかり知れ渡ってると思うが改めて通達しておく。オーシア、サピンとの合同作戦が本日より始動。オーシア艦隊の護衛が初仕事になる」
 横に視線をずらすとシグがジト目で掌を司令に向けている。
 子供に知れ渡るようじゃまずいんじゃないのか?
「本作戦は対艦及び対空、対地、最新鋭空母の護衛の三つ。参加作戦については諸君らの経歴と希望、及びこれまでの作戦と訓練結果で決めさせて貰った。あー、文句があるなら中尉に言っ……」
 脳天空手チョップ炸裂。
 そのままの笑顔で見事突っ伏す司令官。
 相棒が耳元で囁く。
「彼女、並の陸軍より腕っ節強いんですよ」
 と。
 床に沈んだのは情報網をバラされて代金せびりに来たシグだけだった。
 ……アイツはアイツで地上戦の経験持ちだったような。
 そして俺達に割り当てられたのは艦隊護衛。
 敵地上部隊は先行隊が殲滅。空から来るおこぼれが相手仕事としては退屈だが……。
 見せしめが効いている。というか俺も恐い。
「どうした相棒?反撃の狼煙なんじゃないのか、今回」
「……舐められたもんです」
 相棒の表情は、何処か浮かない。
 まあ、浮いた表情を知るほどの付き合いでもないが。
「護衛任務で気を抜くと泣くぞ?」
「オーシアの?」
 口の端が語尾と一緒に嫌な感じに吊り上がる。
 口元だけ。
「……我慢しろ」
 経済恐慌が原因の戦争ならそこに付け入ったのは確かにオーシア。
 もっとも、だからってあの街のような光景を作って良い理由にはならない。
 何より……矛先を向ける相手が違いすぎる。
「合法的に、人を殺す方法を幾つ知ってますか?」
 鼻から上は、哀れむような目をしていた。

「暇、退屈、暇」
 上空に出るとそんなもん微塵も感じさせない。
 感じさせないだけならまだ良い、むしろ普通。
「お前なー……まだ仕事前だぞ」
「通勤時間の一時」
 キャノピーの向こうでこれ見よがしにだらけてんじゃねえ。
 ……不意打ちで長距離喰らっても知らんぞ。
「こちらイーグルアイ。サイファー、作戦空域じゃ真面目にやれよ?」
「へーい」
「管制官、こいつ開戦前もこのノリだったか?」
「だったら俺が殺してる」
 うわ酷ぇ。
 て、ちょっと待て。
 相棒が前方にいな……。
「何ロックかけてんだーっ!?」
「うふふふふふふふふ……」
 平和な生活してる人間のやることじゃねえーっ!!
「……なんかウスティオから飛んでもないのが来たぞ」
「流石傭兵」
 とっくに到着、周囲の視線が痛い。
 アイツは傭兵じゃなくてトチ狂った正規兵だ。
「こちらウォードッグリーダー、ブービー、ノロケを許可する」
「できるかい」
「ああそうか、まだ告ってなかったか?」
「返事待ちだ返事待ち!」
「つ、ま、り、負け犬さんなんですね」
「こ……クソガキ……」
「……こちらエッジ。また難儀なのを連れてるな、片羽」
 周囲の視線が痛い。キャノピーとバイザー越しだが確かに痛い。
 前途多難……ああ、その前途はシグ達が暴れて何とかしてくれてるか。
「こちらケストレル艦長ウィーカー、全乗組員聞け。ただし手は止めるな」
 さて、作戦空域まで後わずか。
「制空権は上空の戦闘機が確保する。我々は前を見て突破するぞ!」
「このクソガキめにもの見せてやるからな!!」
「さーてお仕事お仕事」
 なんだかんだで、やる気だな。
「今日は遊ぶのは無しだぞ?」
「ぇー」
 円卓で玩具いじってるのはしっかり見てたからな。

 オーシアに良い感情を持ってないのは俺も同じだった。
 ……私怨と言っても差し支えない。
 だが現場の人間まで色眼鏡で見るほど落ちぶれちゃいなかった。
「どうした片羽、出遅れてるぞ?」
「生憎、俺は二番機なんでね」
 俺だって手は抜いて無いさ。アイツの後ろを守ってやるだけで十分いけるんだ。
 それに今回の連中は、良い意味で大当たりだ。
「5機目撃墜!!」
「えーっと……何機でしたっけー?」
 いい感じに火をつけてくれたお陰で遊ばない。良いことだ。
 見敵必殺。雪山の時とはまた違う意味で無駄がない……普段もそうしてくれよ。
 ただ気にかかると言えば、見つけてやれなかった連中もシカトするってこと。
 俺が平らげるんだけどな。

 これだけ腕利き部隊を取り揃えてりゃあっという間だった。
「ウォードッグだったか、やるじゃないか」
「何言ってる。君のとこの1番機、ありゃなんだ?」
「なーに……ちょっとした、な」
 まさか今回が初陣のルーキーだなんて夢にも思って無いだろうよ。
 ご当人はウォードッグのどん尻とおいかけっこ……わんこ二匹戯れる図。
「おい相棒、いい加減帰るぞ?」
「ぇー」
 ごねるな。
 オーシア嫌うような素振りしてたくせに一番ノリノリだったじゃねえか。
「ちょっと聞きたいこともありまして」
「?……ちょっとだぞ」
 どん尻は完全にお冠、後が恐いぞ。
 だけど、笑ってられるのもそこまでだった。
「空色のホーネット、知りませんか?」
 ……その質問の内容に、血の気が引く。
 知っている。そのパイロットの技量も、人間性も。
 その人の事を聞く相棒はただの子供のようで、駐屯してる基地の目星から行動範囲まで。
 尋ね人は西で暴れ回っているらしい。
 前線じゃなくて補給路叩きがメインだとか。
 相変わらず上から睨まれてんだろうな。
 そして向こうの隊長もあのおっさんとやり合って生き延びたと知るや否や、飛び方の癖から隊長さんの戦歴まで突っ込んできた。
「そのぐらいにしてやれ」
「ヤダヤダ」
「ごねるな!」
「ぇー」
 畜生何処の駄々っ子だ。
「ガルム1、今日はシグが奢るそうだ。それで機嫌を直せ」
「子供達が待ってる」
「……はーい」
 次からこの手で行こう。

−雑魚100人やるより、手練れ一人落とす方がよほど効率的だろ−

 沈黙を通そうとする相棒に代わって、イーグルアイが事の子細を教えてくれた。
 かつての所属部隊。あのおっさんと鉢合わせて、ただ一人生き残った。
「……殺すんだったら、ちゃんと殺れってね」
 相棒はまだ拗ねている。さっきから、生き残ったあの日から。
「違うな」
「何が?」
「お前は実力で生き延びたんだ」
「根拠は?」
「奴の辞書に手加減の文字は無い」
 そもそもあのおっさんが敵の凄腕を放っておくはずが無いんだ。
 俺自身初めて追い回されたときは生きた心地がしなかった。
 後になって実戦だとミンチだと知らされて更に。
 そして今も、これまでが幸運だったんじゃないかと思い始めている。
 そこまで思い出して気付いたんだ。

 ……俺や相棒より、当時6歳だった長男のが強かったって事に。