ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission3

 あの時の妖精さん恐い顔してましたよねー。
 お前……そう言うことを笑って話せるその神経は健在だな。
 俺か?俺は、今だからだよ。
 ……今だから、話しづらい事も勿論あるけどな。

 血に飢えた奴が居ることは認める。下らない意地に近い事も。
 あそこは戦場で、倫理に訴える暇があるのは余裕のある奴だけと言うことも。
 そう。こいつには出来たはずなんだ。
「案外、いいもんですね」
 だから余計に腹が立った。わざわざ手を汚しに向かったのが。
 何もかも諦めきった顔が。
「ま、ガキってことだろ」
「偉く寛容だな、シグ」
「お前もまだまだ青いねえ。だ、か、ら、養育費余分に貰ってんだろ?」
「戦場何だと思ってやが……だから何で知ってんだよ」
「幾ら出す?」
「出さねーよ!!」
 苛立ちの矛先がシグに向いたお陰で随分冷静にはなれたんだがな。
 アイツだって、傭兵全部一緒くたにするような意図は無かったんだろうってぐらい。
「何かあったのですか?」
 ……苛立ったままの方が、ツィーゲ中尉の応対は楽だったかもしれない。
 あんな事するとは思わなかったなんてあの部屋見た後じゃ通じねえ。
−彼をお願いしますね、ソロ・ウィング−
 二週間以上も前に見た表情がまざまざと蘇る。
 俺が嫌な奴見たいになってきたぞおい。
「……質問を変えましょう。彼は、生き残れそうですか?」
「本人にその気がない」
 何もかも諦めきった顔だった。そんな顔で地獄の道連れを作っている。
 部屋に戻る途中、廊下の窓から滑走路が見えた。
 ガルム、最強の猟犬、地獄の番犬。
 それが脇のベンチで黒い固まり……もとい、コートを着込んだ長男とまどろんでいる。
「ただの犬だな……」
 膝の上で寝てる長男の首筋を指がなぞって、いやあれは、むしろ……。
 首を……。
 悪寒が背筋を駆け上る。窓枠飛び越えてでもぶん殴る気でいた。
「……?」
 その瞬間、目が合った。俺に気付いてなかったのか惚けた面してやがる。
 それが俺の進行方向しきりに促して……望み通りそっち向いてやる。
「あ〜の〜や〜ろ〜……!」
 シグが鬼の形相で相棒睨んでた。
 お前さっきの寛容どこにやった。
(おい相棒、洒落になんねーからやめいっ!!)
 ジェスチャーが通じたのか口を露骨に曲げて抗議しやがってる。
 着陸後のやりとりなんてすっかり忘れてやがったこの馬鹿バディ。
「なあ……シグもシグだ、30過ぎてガキの玩具なんなって」
「俺はまだ29じゃーっ!!なんであんな人格破綻に懐くんだーっ!!」
 あーあ……こりゃ完全に頭に血が上ってやがんな。
「だったら最初から連れてくるな」
「……だってよー……」
 落ち着いたはいいが、今度は窓枠にへばりついて啜り泣き始めた。
 やべえ……これは完璧に愚痴りモードか?
「見ちまったんだもん……焼かれた街。それでサイファーが暴れてみろ。何処が安全だってんだこんちくしょー」
 何で一滴も飲んで無いのにこう酔っ払いのような言動ができるのか不思議でならん。
「ベルカもそこまでするようになったのか……」
「お前、ウスティオ入ったの何時よ?」
「?……4月1日だが」
「開戦その日の新聞、見てみろよー……」

 あの頃、私自身もどうするべきか迷っていました。
 迷っているのに、迷っていないふりをして。
 自分はそう言う人間だと言い聞かせて。
 結局は、逃げているだけだったのでしょうか。

「あれが、ノワールか」
「今はサイファーです」
 ピクシー……ラリー・フォルク少尉から直接的な事は聞けなかった。
 滑走路に降りたときのやりとりは見ていた。
 事の子細を知ったのは翌日になって。
 イーグルアイ……ギュンター=ブランド中佐からだった。
 筋骨粒々の体躯は虜囚に甘んじていたと言う事実が少し信じられないと思わせる。
 そのサングラスの向こうに、シルヴァンス少尉を見る眼差しは見えない。
「だが、少し安心した」
「……え?」
「やはりシエロのままだ」
 そこには子供達と一緒に微睡みに沈んでいる彼の姿が映っている。
 横にいる黒い固まりはシグの長男だろうか。
 いい加減春の陽気も近いのにまだ寒いらしい。
 横にフォルク少尉もいるから、あの件は一過性のもので片付けていいようだ。
「で、あの子達は何だ?」
「傭兵ともなると事情も様々と言うことです」
 こちらを説明する方が余程気苦労の元だった。
「起こしましょうか?」
「今邪魔するのは無粋というものだろう」

 流石と言うべきか、管制官達はあっさり傭兵達とうち解け会った
 もっとも、その最大のきっかけになったのは……。
「なあ、俺の顔はそんなに恐いか?」
「新兵に不審者扱いされたことありましたしねえ」
「その新兵が相棒、お前だったなんてオチは無しだぞ」
「とりあえず、グラサン外してみたら?」
 その時この子が何を見たのかは誰も知らない。
『……っ!!』
「おい!今長男表情が露骨に変わらなかったか!?」
「長男、もう一回!!」
「いやむしろここは中佐に!!」
「……もういい」
 と言うことで、子供達以外には受け入れられている。

 それから数日後……。

「やり方はこっちで決めさせて貰ったけどね」
 司令室に二人きり。あるのは地図と司令書のみ。
 オーシアの海上部隊が大損害を受けている。
 陸路の奪還が無理と踏んで海路を塞ぐ気でいるらしい。
「……それで、陽動に円卓ですか」
「そ、オーシアの強豪が後込みしてるところに殴り込む頼もしき傭兵隊ってね」
 戦争の引き金となった地下資源の眠る土地。
 肝心の大国オーシアに手を汚す気は全く無いらしい。
 思えばベルカ戦争の下地を作った功労者は誰だったのか。
 ベルカ絶対防衛空域B7R。
 今でさえパイロット達が血で血を洗う空域となっているという。
 上座も下座も無い……生き残った者が正義。
「そこに……彼等ですか」
「生きたくないのに死なないなら答えは一つ。辛いだけ」
 もう用は無いとばかりに重ねられる司令書。
「君も見ただろう、あのイーグル」
「はい」
「意志と言う名の誤差は偉大だよ。さ、ギュンターを呼んで来てくれ。誤差を確率にまで持っていくのが我々の仕事だ」
「了解しました」
 翌日、オーシアと東部諸国での、最初の合同作戦が始まった。
 現地に出向く彼等には「強行偵察」との名目だけ伝えて……。
 滑走路まで見送りに出た私に、声を掛ける者が居た。
「どうしたのフリーダちゃん?」
 早乙女時雨の姉、慈雨。
「なーんか後ろめたい顔してるけど?」
「いえ、別に……」
「さあ、私達にも仕事があるんでしょ?」
 彼女が手を引いている時雨の末っ子が、昨日司令室の辺りで迷子になっていたのを思い出した。
「……裏方を、お願いできますか」

 円卓に向かう途中から妙な気がしてた。
 何てこずってんだ、たった2機相手にってな。
 まあ混乱も今だけ、もう終わってんだろうと思った。
 そう。そこにいたのさ、「片羽」と……。

「先導隊は全滅。繰り返す、先導隊は全滅!」
 半ば金切り声に近い声が耳障りだった。
 圧倒、凌駕、否。あの空にあったのは、蹂躙そのものだったよ。
 何が笑えないって、その必死になって叫んでる奴が本隊最後の一機だったってこと。
「状況を確認」
「こちらグリューン2、相手は二機だ」
 特に一番機。容赦が無いったらありゃしねえ。
「楽しませて貰うとするか」
 この時は、まだ勝てると踏んでた。
「一番機からやる。3、4は援護にまわりな!」
「あいよ」
「了解」
 一番機に比べて二番機も行儀のいいったら。
 ぶち込んだらとっとと次。ボロになるまで食いちぎる一番機とは偉い差だ。

「ホーネットか、ケツの一刺しに気をつけろ」
「ま、なんとかしますって」

 一番機は外青。二番機は深紅の片羽。
 俺の標的は一番機。大事な部下食いちぎられたらたまったもんじゃなかったからな。
 狂ったようにかっ飛ばしてるから背後突くのは楽だった。
 ただな……。
「面白いパイロットだ」
 撃たせてくれねえ。撃っても当たってくれねえ。
 ……よく考えたらこっちが後ろ取られないとフレア意味ねーじゃんか。
 わざと片羽に照準変えたら追いかけてくる分まだ素直だと思った。
 くるっと振り返り際にさくっと行くなんて思ってなかったけどよ。
 ……これが、まずかったんだろうな。
 視界が一面まっさらな空だけになる。
 オーバーシュートかまされた事に気付かないほどアホじゃない。
 限界ギリギリの速度で振り返る。
 奴の位置を確認。目の前。至近距離。
 ミサイルじゃ追尾前にすっとんじまうし、機銃の射線にゃ入ってくんねえ。
 目の前にいる。なのに撃てねえ。
「片羽の方はどうなってる!?」
「こっちも良く動……!」
 やられてた。
 梟の目が聞いて呆れるっつーか……。
「フリッツ!ウルフ!応答しろ!!」
 あの野郎、俺を引きずりながら3,4やってやがった。
 ……はめられた。
 数が対等になった。それだけで負けを意識しだしていた。
 見えなかったんだ。アイツの後ろしか。

「そんなのに乗ってる方が悪いんですよ」
 耳元に、死神でもいるのかと思った。

 見えなかった。
 完全に虚を突いてきた二番機……片羽の赤いイーグルからモロに一撃を貰っちまった。
 レーダー見て、自分に呆れたっつーかなんていうか。
 とりあえず体勢は立て直せる。色々機器がイカレだしてんな……。
 こんな状況でやったことは確かにあるんだけどよ、ちと相手が悪いや。
 体制よし。射出装置良し。問題は……俺の真上陣取ってる外青が逃がしてくれるか……。
「頼むぜ戦乙女様よっ!」
 真上からかかるGと風圧その他で飛びかけた意識で思い出した。
 ……ラーズグリーズって、命の保護専門外だったっけ?

「……長、隊長!!」
 気が付いて最初に目に入ったのは、憎らしいぐらい綺麗に飛んでる奴等の姿。
 次に見えたのがロストのアゴ。
 どうやら俺の魂は戦女神のお気に召さなかったらしい。
「所で何で体中痛いんだ?」
「墜ちる時ちょっとぶつけてましたからねえ……」
「見てたってことはお前随分早くのご退場?」
「おはずかしながら」
 体を起こせば辺り一面に広がる円卓の荒野。
「……どうやって帰ろうか」
「とりあえず、上の坊ちゃんにでも呼びかけてみます?」
 ロストが持っていたのは通信機。雑音無し、今日の円卓は機嫌がいいらしい。
 見上げると、一緒にオーシア艦叩きに行く予定だったエリート様が飛んでた。
「よう坊ちゃん。奇襲の方はどうなった?」
「……」
 あ、こりゃあ失敗したな。
「様ぁ無いねえ」
「地べたから言われたく無いっ」
 あーあ……今回は、惨敗か。

 あの時だよな。初めてタッグらしいことやったのは。
 最初のは数に入りませんか?
 アレはお互い好き勝手飛んでたのが意気投合。
 で、初めてのタッグが弔いですか。

「連合軍作戦司令部より入電、連合軍艦隊は進軍を開始。貴隊の活躍に感謝する……ご苦労だった、ガルム隊」
「なるほど、俺達は捨て駒だったようだ」
 まあ、強行偵察なんて無茶苦茶だと思っていたけどな。
 派手に暴れられたのは悪い気分じゃないんだが……。
「よう相棒、まだ生きてるか?」
「……」
 様子が変だ。
「死んでまーす……」
「どうした、変だぞ、今日のお前」
 いや、既にトチ狂ってるのは既成事実だがそれを差し引いた話として。
 空だと飛び方で大体解っちまう。気力が抜けてる。意志がない。
 五日前に着陸したときのような目が自然と浮かぶ。
「……ガルム1よりイーグルアイへ」
「ん、何だ?」
「少し寄り道して帰ります」
「いいだろう。だがすぐに済ませろよ」
 湿った声だった。
 そして言われるままにやって来た場所がなんだったのか最初はよく解らなかった。
 上からじゃ、ただの荒れ地にしか見えなかった。
 所々、黒い土がまばらに散った、寂しい荒れ地にしか。
「暫く、そのままで」
 相棒が二番機のポジションに移動する。水を打ったように静かな声だった。
 だから、暫く荒れ地を眺めていたよ。
 そのうち、黒い土が規則的に並んでる事に気が付いた。
 その機体が、天へと登っていく。あとはもう帰るだけだった。
−見ちまったんだもん……焼かれた街−
 そう、今のは弔い。
 二人きりの、ミッシングマンフォーメーション。
−何処が安全だってんだ−

 開戦直後、なんの故も無く焼き払われた街があった。
 かつてはベルカへの憎しみを込めて、今は戦争への悲哀を込めてこう呼ばれる。

 円卓の街、と。