ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Mission2

 あれでも全ては偽りと言いますか?
 本気で死にたいんなら、メディックのお節介も徒労だろ。
 言ってくれますねえ。
 今だってそうだろう?

「局地戦でもやったのか……?」
 へし折れたパイプ椅子。中央から叩き割られたデスク。
 ベッドシーツの上に散らばる赤い点。
 タダでさえ下がった体感温度に、割れた窓ガラスが追い打ちをかける。
 そんな部屋をコイツはこうぬかしやがった。
「ええ、1人相撲をちょっと」
−ま、ちょっとした問題抱えてる奴なんでね−
 何がちょっとしただあの狸司令!畜生、通りで待遇いいはずだ。
 腕は確かかもしれないがこれは本気でヤバイんじゃないのか?
「なあ、相……おい」
「はいー……?」
 顔が青いぞ……て、おいっ!!
 青ざめたままぶっ倒れやがった!
「おい!しっかりしろ、メディックいないかメディーック!!」
 何が哀しくて基地のど真ん中で叫ばないといけねえんだよ!
「あいよー……」
 ……来た。けどなんていうか……すっげ眠そうなお嬢さんなんですが。
 症状確認もせず靴を脱がし始めた。手慣れてるあたりは腐ってもメディックか。
「ちょっと部屋はー……あー、これじゃ入れられないか」
 仕方がないから廊下で措置をするハメに。毛布類も破片が恐いから持ち出せない。
 脱がした靴の下には、お世辞にも綺麗とは言えない巻き方で包帯が巻かれていた。
 今はそうでもないが相当量出血したんだろう。滲んだ赤が痛々しい。
「ったく、脈まで何pってとこねー……この野郎窓叩き割った後飛べると解って適当にやりやがったな。破片舐めてると後が恐いってのに。アンタ、傷に免疫無いなら……って、傭兵にゃいらぬ心配か」
「なあ……」
 Gで下に寄った血で開いたんだろう。
 気怠い声と裏腹にテキパキと包帯を巻いて行く。
「ちょっとアンタ。コレ医務室まで持ってくから背負え」
「は?」
「か弱い乙女に荷物持たせる気?」
「あ、ああ……」
 そう言う奴がか弱かった試しなし。時に戦場の女は何より厄介だったりする。
 言われるままに背負った相棒は、羽のように軽かった。
 考え事をする間も無く見えてきた。あの部屋が医務室に一番近い個室だったんだな。
「ちょっとそこで待ってて」
「?」
 そう言って一人医務室へ入るメディック。
 まさかここもあそこと似たり寄ったりじゃ……。
「くぉらてめーっ!用も無いのに入り浸ってんじゃねーっ!!」
「ひーっ!すいませんすいませんすいません!!」
 あ、轟く雷鳴と入れ違いになんか蹴り出されてきた。
 そのまま追い打ちかけられて逃亡……サボリのおきまりか。
「で、あの部屋なんだ?」
「飛行禁止喰らって大暴れしたらしいよ。飯だって食ってるかどうかかね」
 冗談抜きで血の重みが無くなっていたわけだ。
 ……よくそんなの飛ばしたもんだ。
「じゃ、ちょっとフリーダさん呼んでくる」
「?」
「今夜アンタが寝る部屋。用がないのに居座らせるわけにいかないっての」
 冷たい。
 理に適ってはいるが。

 そしてただでさえ冷えて来た廊下が、隣に立つ中尉の無機質な声で更に冷たい。
「子守押しつけるのは勝手だがな、もうちょっと丁寧に扱ってやれ。腕はいいんだから」
 結局、顔見知りは誰かいないかということでシグの世話になることになった。
 ……本当は色々取られるから嫌なんだが、アイツが一番スペースを取ってるんだそうで。
「空での彼は、どうでした?」
「何でウスティオがココまで追いつめられたのか解らなくなった」
「そう……」
 鉄面皮だったが、内情は声に出た。思ったよりは話せるか。
「おーっす、何してんのお二人さん」
 そう思った矢先に今日の家主のご登場。
「では、私はこれで。彼をお願いしますね、ソロ・ウィング」
「言ってくれるねえ……」
 それだけ言うとT字路の角に姿を消してしまった。
 ご丁寧に強調までしてくれて、一筋縄じゃいかないな、この国。
「で、二人仲良く何話してたのかなー?」
「うるせえ」
 ついでに言う。まともな会話の機会返せ。

「それってよ……腕はいいけど爆弾抱えてるって事じゃねーの?」
 ヴァレー基地は岩山を一部切り開いたような場所にある。
 天然の砦であり市街地への配慮がいらないせいかやたらと広い。
 うっかりしてたらアイツじゃなくても迷いそうなもんだった。
「ま、新兵にはよくあることだろ」
「復帰戦であれは異常」
 事の経緯を話すと、シグの興味はすぐ中尉から逸れた。
 その代わり嫌につっかかる。恐慌状態通り越した事は想像に難くないが。
「お前がデバガメに走らないとは珍しい」
 シグの部屋は「住人」を配慮してか随分と分かり易かった。
 同時についつでも避難壕に入れる位置にある。ついでに医務室までも直通。
「あほー。俺はな、お前等なんかよりずっとでかい心配の種抱えてんだよ」
 そこまで考えるなら連れてこなけりゃいいんだがな。
「そうそう姉貴達は向こうだから夜の心……ぶわっ!!」
 ドアを開けた瞬間白い固まりが直撃。
 舞い散る羽毛。畜生、こんな所にまで金かけてやがる。
『おまえら枕投げ禁止!!』
『えー』『……ごめんなさい』『だから止めようって……うぶっ!』『五月蠅いよ宿兄』
 異国語の不平不満。入るまでも無く嵐の跡、か。
「ようお前等、いい子だから部屋の備品で遊ぶなよ」
 両サイドの2段ベッドに陣地分けして枕投げ。
 子供ってのは、好きだよなほんと。
『ピクシーさんなんて言ったの?』
『ふっふーん、アタシは解るもんねえ〜』
「お久しぶりです」
「あれ?ばでーいないの?」
 末二人に次男と長女。相変わらずの面々だが、2年で随分変わるもんだ。
 長女もイントネーションが妙だが公用語を覚えたみたいだしな。
「相棒は休憩中、二人とも上手くなったな」
「えへへ……ありがと」
「光栄です」
 次男はまた小難しい単語を覚えだしたな……。
 最後の一人が足りないのは良くあることだったが……。
「で、あそこに転がってるマユは何だ?」
 窓際のソファの上。羽毛布団の固まりが気になる。
 ……どうやら枕共々滞在していたホテルの備品だったらしい。
 たまにもそもそ動いてるのが気味悪い。
 もそもそもそもそ……あ、中身出た。
『……』
 無愛想にこっちを見ているのがシグの長男。
 おい、そのまま引っ込むな。ついでに部屋を徘徊するな気味悪い。
「マシュマロじゃあるまいし」
「……美味そうだなそれー」
「食うなよ父親」
 色々倫理的にやばいから。
「ピクシーさん、ピクシーさん」
「ん?どうしたスク?」
「足食べられてます」
「……うおっ!?」
『……』
 いつのまに!?普段は俺避ける癖に……。
「兄さん、相棒さん何処?って言ってます」
 実は長男の癖にコイツが一番公用語が下手だ。下手以前に覚えようとしない。
 医務室を教えてやると、見た目からは想像も付かない速さで医務室に……て、マテ。
「マシュマロのまま行くなーっ!!」
「それ持ち出すのにドンだけ苦労したと思ってんだーっ!!」
「いや違うだろ!!」

 あれ、暫く噂になってたな。
 消えるのがお前の部屋の近辺だから尚更。
 あ、今もありますよその手の噂。
 何をやってんだお前は……。

 白い壁。白い天井。真新しいシーツと包帯の感触。
「よ。目ぇ醒めた?」
 化粧ッ気の無いアデーレさんの顔。
「……何だこの世か」
 気持ちよく飛べて、このまま目なんて醒めなければ良かったのに。
「こんな美人をこの世の者と即答するか」
 生憎とこの世の者じゃない人は見慣れてた。
 今じゃ本当に黄泉の人。
 ……後追いなのかな、これって……。
「ちなみに症状は貧血+栄養失調。つーわけで、一週間絶対安静。次の任務は三日後ー♪」
「えぇ!?……あ……」
 天井が回る。力が抜ける。ベッドに逆戻り。
 ただでさえ少ない血液にも栄養が乗ってない。
 何より右腕が……あれ。
「……あの、何ですかこのマシュマロ?」
「ん?シグって人のお子さん……て、アンタに用があったみたいよ?」
 ちょっとマシュマロをずらすと最初に見えたのは焦げ茶の髪。
 次に見えたのが寝息を立てている顔。
 ああ、もう子供は寝る時間か。
「妖精さんは?」
「シグさんと一緒に来たよ。この子引き剥がせなくてすごすご退場。ま、当分安静ね。暴れたくても暴れられないでしょ、その様じゃ。んじゃ、お休みなさーい」
 言われるまでも無く、意識はそのままブラックアウト……。
 翌日は一日、小さな付き添い付きで寝てました。
 で、一週間療養。
「……俺はまず体調管理から見てやんないといけないのか?」
 こんな事言われてみたり。
「部屋のもんあらかた捨てたからね」
 と、今更な事を言われてみたり。
「なあ氷雨、そんなにそいつがいいわけ?」
『ん』
 小さな付添人は親御さんが焼き餅焼いちゃってあの手この手で連れ戻しに来るし。
 安全な場所など無いなら守れる場所に。
 その考えには、同意できますけどね。
 で、安静を解かれたら解かれて……。
「あ、生きてた」
「誰だよ余命わずかだったなんて言った奴」
「幽霊が出てるんじゃなかったけ?」
「エクトプラズマじゃなかったっか?」
「いや東洋の座敷童って妖怪だとか」
 シグさんと妖精さんに付き添って貰って待機室来たらなんか好き勝手言われてるんですが。
 つか倒れてただけなんですが……。
「あの、シグさ……」
「幾ら出す?」
「お子さんに達にチョコ」
「良し、何だ?」
「何か幽霊見たいな言われようなんですが」
「ああ、それか。何でも病を押して飛んで倒れてそのまんま逝った奴がいるとかいないとか。んで、そいつが成仏しきれずエクトプラズマに成り果ててなお彷徨ってると」
「勝手に殺さないで下さい」
 そんな捻りもへったくれもない怪談の種にされてたまりますか。
 ついでに言うとシグさん、幽霊にされてるのはあなたの息子さんなんですが?
「で、くたばりぞこないが何の用?」
 嫌な声。耳障りだった。
「正規軍の坊ちゃんの出る幕じゃないぜ」
 見下したような視線。不愉快だった。
「また倒れられても困るしな」
 卑下た笑い。殴り倒したくなる。
 ああ、直に晒されるってのはこんな気分ですか。
「よう相棒。気に入らないか?」
「ええ……」
 叩き落とせばいい。ここではそれが許される。
 彼等にはそれが許される。
 それに、リハビリも必要ですから。

「ちくしょ、もう一度だ!!」
 楽だった。
「シグ!お前も手伝え!!」
「幾らくれるー?」
 あっけないほどに。
「片羽が着いてるからっていい気になりやがって!!」
「じゃあ行ってきな相棒」
 何かが、物足りなかった。

 次の一週間は訓練漬けだった。
 あの雪空の感覚を求めてひたすら飛んだ。
 黙っていても絡まれて飛ぶし、空にいる時間の方が長いぐらい。
『すっげー、連戦連勝』
『妖精さんとどっちが強い?』
 子供達の称賛を受けながら、支えていたのはなんだったのか……。

 リハビリのかいあってか、次の仕事は無事参戦。
 合同作戦に当たって、陸路の確保。
 こないだは地上部隊の援護だけで空戦無しだったそうで。
 敵航空機の情報があるだけ今回の方が良さそうですか。
「なお、今作戦では先日諸君らの援護の下解放されたペーク基地からAWACSが飛ぶ事になっている。作戦中は各機管制官の指揮に従うよう、以上」
「恩を売り損ねましたね」
「今回で取り戻せばいいさ」

 あまり地上掃射はやりたくないっていう危惧は大丈夫だった。
「こちら管制機イーグルアイ。ガルム隊、ヴァレーでの奮戦は聞いている。攻撃隊の援護に回れ。敵機を近づけるな」
「こちら攻撃隊のクナイ隊ー。今日はしっかり稼がせて貰いまーす」
「おいシグ、やりすぎるなよ?」
「だーいじょーぶ。精密射撃はお家芸だぜ俺達?」
 対地は対地で、専門家がいましたから。
 何も気にしなくて良かった。ただ空を見ていれば良かった。
 何機か撃ち落としてるうちに、出てくるんですよ、飛べなくなった連中。
 機動がままならなくなって、回避もできない連中。
 すー……って、レティクルの中央にキャノピーが収まって……。

 ひょっとしたらって、引き金を引いた。

 まだ飛んでた。そのうち勝手に墜ちたけど。
 普通に飛べる連中にもたまにいた。もしかしたらって、やっぱり墜ちた。
 あっけない。馬鹿みたい。この程度だったんだ。
 なーんか、もの凄い静か。もの凄い静かなまま、帰って……それで……。

「おい相棒……何だアレ」
「何です"傭兵"さん?」
「おいっ!!」
 妖精さんに胸ぐら掴まれた。なんだかもの凄い怒ってる。
「……嫌?」
「当たり前だ!傭兵舐めるなっ!!」
「そっか……そうなんだ」
 何でも出来るんだ。
 力さえ在れば、覚悟さえあれば。
「案外、いいもんですね」
 力さえあったら、覚悟さえあったら……どうとでも出来たんだ。
 もう、遅すぎた。その力があっても、覚悟があっても……何もかも。