ACE
COMBAT Zero
The Belkan
War
The fate neatly
reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward
War...
Blank8-破綻-
誰が一番悪かったって話をしに来た訳ではないでしょう。
そんな事を言ってしまったら……私達極悪人じゃないですか。
何が過ちだったのか、何がいけなかったのか。
私達のエゴで、一体何人が逝ったんですか……。
デトさんとじゃれ会う事1ヶ月、例の人物は相当なポストに就いている為か、未だ空きが取れないんだそうな。
エリッヒさん込みでまあ、流石に空戦は出来ませんでしたが裏って言うのはあるもので、シミュレータでぐらいはできるんですけどね、お二人とも「絶対上でやる」って言って譲りません。
……まあ、私もその気持ちは分からなくも無いんですが。
そう言えば、未だに聞けませんキラービーの行方。
最悪の状態であろうとは思うんですけど……朧気ながら見えている性分を思えば、不思議な事では無いのかもしれません。
そして、9月になろうとしていた。ヴァレーの短い夏はとっくに終わり……。
「あのね、お願いがあるんですけどね」
言語を切り替えて同じ事をもう一度。
ヒサメ君も最近は「Ja」と「Nein」ぐらいは解るようになったんですが。
『……』
「……」
私の両サイドを固めているのは、出会ったときと同じブカブカコートのヒサメ君と、出会ったときと同じ紫のブラウスに巻きスカートのカミラちゃん。
妖精さんと一緒にいた頃より長い時間が過ぎました。
この子達は、私を迷わせてはくれないようです。
長いようで短い二ヶ月。
長いようで短い三ヶ月。
そのどちらも、私の中の決定的な何かを、突き崩して変えてくれた。
しかしヴァレーも面倒なことになってました。
『サイファー……?』
『少し、疲れただけです……』
ヒサメ君は基本的に母国語しかわかりませんが。
「サイファ〜?」
「んーちょっと疲れました」
カミラちゃんはベルカ語しか解らない。もちろん後から訳した側がむくれるわけで。
いえ、これはヒサメ君が先に質問してきたからいいんであって。
「シエロさん〜」
「マッサージしようか?」
「最近お疲れのようですけど……」
お構いなしなのはいますしぃ。
未だに妖精さんに未練を残してるのはいますしぃ。
「あの、ササメちゃん?」
「……」
行ってしまいました。こんな事の繰り返しです。不幸中の幸いと言うべきか……。
「サイファーさん」
「サイファー?」
「サイファー……」
残り3名は掌握に成功。というかですね、このまま歩きますとね。
「シルヴァンス少佐」
何が悲しくてフリーダさんの目の前でですね。
「それは何の遊びですか?」
早乙女家長女を覗く4人+カミラちゃんをぶら下げたまま歩いてるんでしょう……。
「ベルカ式トレーニング」
「そうですか」
カミラちゃん……君のカワウさんは毎日5人の子供をぶら下げていたんですか?
「んで、何のご用で?」
「シグが呼んでいました。相談事があるそうです、早く向かった方がいいかと」
等と言いながら、肩が軽くなっているんですがね、いつの間に子供達全員引き受けたんですか?
いえ、それ以前に、なんでそんなに平然としているんですかと。
「そう言えばフリーダさん、早乙女中尉とは呼びませんね」
「この基地に、早乙女の姓が何人いると思いますか」
「……ごもっとも」
シグさんの部屋は、流石と言うべきかその荒れ具合の凄まじい事。
「う〜肩がごりごりなります。まだ花の22なのに……」
「安心しろ、そのうち慣れる」
「慣れる前に卒業して欲しいです」
子供部屋なんてこんなもんですかねえ。
「その頃にゃ次拾う」
「あれ以上増えるような世界こっちからお断りですー」
そう返したら、思いっきり大笑いされました。
お腹抱えて、ソファにひっくり返って。あー、この人もとうとう壊れたかって。
しゃっくり起こすまで笑い転げる事ですか。
「あっはっは……はははっ。その台詞、あの野郎が聞いたら何て言うかね?」
「はい?」
「おい、花の22がもうボケいったか?」
いや、そんなこと言われましても。
「それとも、過去の所行は忘れたか?」
……ああ。そう言うことですか。
そんな恐い顔しなくったっていいでしょうに。
「笑うところですか、それって?」
「ああ。お前の変わりよう見ると、この世界もまだいけると思える」
「世界……ですか」
二ヶ月。私の世界以上に、めまぐるしい二ヶ月。
戦争、暗黙の禁忌は容易く破られた。そして、幾千万の人が絶望を味わった。
「俺の女が死んだ原因も元を辿れば上の怠慢だし、氷雨はゲリラ地帯でほっぽかれてたし、細雨は母親を亡くしてから……よく解らないけどなんか変だ。宿と驟はやっぱトラウマ抱えてるし、涼に到っちゃ親が泣きながら頼み込んだって言うんだから」
この一気に喋る特技、少し有意義な方向に使えないんですかねえ……。
「その親が、ベルカ系の人だったわけですか」
年代と年を考えるとその辺りからドタゴタしてたんですかね。
「……細雨、最近ろくに食って無いんだ。いつもは何があったって、それこそ気味悪いぐらい笑ってたのに今は、まるで氷雨が増えたみたいだ」
「良いんですか? 親がそんなこと言って?」
「親ねえ……娘の初恋の相手、死んだ事にしようとして失敗して言えるかね?」
その失敗の原因が何の因果か、ベルカから預かった子供ですか。
皮肉というか何というかまあ……そう悩むのは、一応親なんじゃないのと。
「シグさん……」
「お前……氷雨かえーっと、カミラちゃんだっけ?その間で板挟みじゃん?」
「却下」
代役なんて冗談じゃありません。
出来るはずもないのに、滑稽なだけ。
「個人の代役なんて、出来ると思いますか?」
ああ、でも。きっと、子供達と距離が開いている間に、何かが軋み出していたのかもしれない。
「でなきゃお前はアデーレの嬢ちゃんで満足して……ナイフは待てーっ!!」
なーんでそう言う人の逆鱗を触るかなーっていうか。
あれ? シグさんに話ましたっけ?
「お前よ、荒れたのが自分だけと思ってる?」
……ああ。そうだった。
この人は子供まで作った相手が居なくなっていたんでしたっけ。
「俺が酔狂で髪伸ばしてるんだと思う?」
「無かったん……ですね」
たった一つの形見を、無くさない方法が他に思いつかなかったんでしょう。
彼は繰り返すように言う。この世界も捨てたもんじゃないと。
「俺には最初からアイツらがいた。その戦いの大義名分は、結局最後まで揺るがなかった。あいつらに笑顔をくれるエースがいた」
エースと言う言葉の跡に、表情を曇らせたのを見逃さない。
妖精さんは、どんなエースだったのだろう。
「お前にもあいつらがいた。なんだかんだで支えてくれる奴がいた。だがこの戦争の何処に正義があった? 人を手に掛ける大義名分があった? そのあげく……」
その、一番側にいた支えに捨てられた。
何とか一人で立ち上がった私を見て、自分の意義を見失って。
「それが、空の才によるものなのか、お前の強さは解らない。それでも……結局、父親ってのは一部だ。今必要なのは、外からの支えなんだよ」
……あぐらをかいたまま、深々と頭を下げられた。
いいのかな、私で。何時までエースでいられるか解らないのに。
彼の不安は、一点。
「んで、カミラちゃんのことなんだけどよ……細雨もそうだけど、しっかり見てやってくれるか?」
「宜しいんですか?」
「いや……言ったらしいじゃん。良い子なんてやめてやるって」
ああ、基地中を黙らせた衝撃の一言。
平時ならともかく、あの異常事態を誰もが覚えている時の。
「案外スク君とか危険そうですよね」
「氷雨は前科やらかした後にこっぴどく叱られたけどな」
「前科って……」
「スパイ疑惑二人。白だった方焚き付けて黒とっ捕まえた」
「……何時です?」
「……6才で」
それからおよそ5分、互いに口を開けませんでした。
とりあえず、燻ってる火薬に火種が飛び込んできたと言うことでが共通認識。
「難儀だと思うけどな、あの嬢ちゃんの周囲は気を付けた方がいいと思う」
「彼女自身もそうですけど……周囲の影響ですか」
お望み通り、悪い子になってますよカミラちゃん。
何でこうなっちゃいますかねえ……。
その悩みの一部が形になっている事を教えてくれたのは、早乙女家の有能な諜報員でした。
「細雨お姉ちゃん……最近様子が変なの」
「ええ、知ってますよ」
私よりも、妖精さんにによく懐いていた子。
いえ……依存していたと言う方が正しかったでしょうか。
『こんな夜に、何をしているのですか?』
『シエロさんには関係ありません』
そんなことを言われましても、滑走路先端に立たれてはねえ……。
『どんなに待っても、妖精さんは戻ってきませんよ』
戦闘機よろしく離陸されたらたまったもんじゃありません。
まあ、するつもりならとっくにしていますか。
それとも、私が引き金になってしまいますか?
『彼はもう……』
そこまで言いかけて、やめる。この子には、今でもエースだ。
『もう……なんです?』
ああ、きついところをついてくれる。
大人の都合なんてものは、もう要らないと言うことですか。
……ここで封殺してはいけない。それは取り返しのつかないことになる。
『今の彼は、エースなんかじゃありません』
『……』
ダメだ。この言語で伝えるほど語呂があるわけじゃない。
「公用語で、話します。いいですね」
「お好きに」
良かった。聞く気がないと異国語なんて雑音です。
「確かに妖精さんはエースでした。でも、それは君達のではありません」
愚かだ。滑稽だ。私が妖精さんと同じと思うのは、推測以上の何者でもありえない。
「パト君が言いました。平和のために飛ぶと。妖精さんは言いました。血で血は止められない。理想で空を飛ぶと死ぬぞと」
これから語るのは私の愚。都合のいい語り口で子供の気持ちを封殺する。
「……自分が理想の為に飛んでいたからこそ、出てきた言葉です」
自分がその為に飛んで、それ故に現実を叩きつけられていたからこその嫌味です。
反応がない。……この子の第一言語が母よりであってほしい。
「その理想が、あの日死にました。そして彼は逃げた」
「じゃあ何であなたは戻ってきたの?」
ああ、二度目ともなると慣れてしまうのでしょうか。
この子の目は、あの時のカミラちゃんと一緒だ。
「私は、一度既に逃げていましたから」
善悪の基準の意味を見失った、あの目と一緒だ。
「彼は理想の為に飛び理想を失った……私は一人の女性の為に飛び、彼女を永久に失った」
「……でも……帰ってきた!」
ああ、この子も慣れてしまっている。長らく続いた矛盾に。
突き付けられたのではなく、そんなのもあると示されただけだったから。
「何で!? 氷雨からいたから!? 私じゃダメだったの? 何で!」
良かった。この子の第一言語は、公用語だ。
肩を掴む。指を鼻先に向ける。ああ……この子にはまだ大人の道理が通じる。
「あなたが、これから引き戻すんです」
「でも……」
「機会は私が与えます。気付かせるのはあなたです」
これは、都合のいい予定調和。私の勝手な想像。
「妖精さんのお陰で死に損ねました。ヒサメ君のお陰で生きる理由が見つかりました」
「あの人は……ここにいません」
「そう、敵は気付いています。だからまずは連れ戻さないといけません。その時笑顔で、両手を広げて待っていてほしい。出来ないなら、どうしてだと思いっきり不満をぶつけてやりなさい」
「……一つだけ教えて下さい」
−なぜ氷雨を選んだんですか?−
この時、私は大切なことを言い忘れていたんです。
「言葉の解らない、異邦人の孤独を共有出来ると思ったからです……結果は、彼の方がよほど強かったですが」
所詮は人殺しだから。
笑顔で迎えてくれる誰か。訪れるだろう平和。叶えられる願い。
報いを信じなければ、壊れてしまうのだから。
ええ、辞めました。
冷徹な副官。
有能な副官。
だって、意味なんて無かったではありませんか。
カミラちゃんがどんな思いでここまで来たのか、ここまでしても察しきることが出来ませんでした。
きっと事が知れればこれまでの地位は全て無に還るでしょう。
私の経歴だけを鼻にかけていた両親と妹には丁度良い制裁ですけど。
それに……この感情を正しく説明するのは難しいのですが……
「抜け駆けなんてさせないから」
「望むところです」
私は、彼を連れ戻したい。
良い子でいたために犯した失態の精算かどうかは解りませんが。
『……』
「あの、ツィーゲ中尉……」
「細雨お姉ちゃん……」
「恐いよ……」
「中尉さんがこんな事していいのぉ?」
空輸機の貨物室にこれだけ空きがあるとは思いもしませんでした。
きっかけは、きっとカミラ嬢の言葉。
−私、その人知ってるよ−
キラービーの関係者。ベルカ史上最高の裏切り者。
−あの人バルトさんには逆らえないし、バルトさんは鬼神の事ウスティオで一番強いって言ってた−
子供達はここに来て初めて、彼の追う男の名を知った。
−私がいれば完璧だよ−
輸送機のエンジンがかかる。もう引き返す事は出来ない。
ヒサメ君は言った。姉弟達を守るために生きていると。
スク君は言った。兄だけでは言葉に困るから。
シュウちゃんは言った。置き去りはもう嫌だと。
リョウ君は言った。あそこは自分の故郷だからと。
カミラちゃんは言った。ここで彼を守れるのは自分だけだと
「ここから、私達は運命共同体です」
……ササメちゃんは言った。フォルク少尉は、必ず彼に会いに来ると。
「哀れな妖精を悪い魔法使いから取り戻すべく戦う騎士に祝福を」
静かに組んだ円陣とかけ声は、しっかりと、そこに響いていた。
−報い、あらんことを−
私達の行動は、貴方を、連れ戻す引き金になれましたか?
いいえ……なれたと言って下さい。
でなければ、あの子が、彼が……報われなくなってしまう……
どうか……。