ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Blank7-鏡像-

 会いたかった。会って、話がしたかった。
 あの空で何を思ったのか、あの戦争で何を思ったのか。
 恐怖はもう無かったけど、それでも乗り越えたかった。
 その気持ちは、もう二度と報われない……。

 それを知ったのはヒレンベランドさんとシグさん共通で紹介された人に、会いに行く途中だった。

「リムジンだね」
「リムジンっすね」
「うわー高級車……」
 途中と言うか、出迎えでした。……えーっと、バルトさんごめんなさい。
 あなたの訃報と言づてよりリムジンにびっくりです。
 ついでに後ろに豪邸が付いてます……ホントにベルカ負けたの?
「待たせたかな?」
(助手席から)降りてきたのは太すぎず細すぎず、恰幅のいい30代半ばぐらいの方。
 印象は……えー、バローンのTacネームが良く似合いそうなお方です。はい。
「君が、そうなのかね」
 その「伯爵殿」の顔が少し崩れた。イメージと違う。きっと言われ続けるんでしょうね。
「そうか。そう言う事か」
「……え?」

 本当に、それ以上は何も無かった。
 少なくとも、戦場の話は話題に上らなかった。
「目が醒めたらとっくに終戦だからね、驚くどころじゃなかったさ」
 居心地が、お世辞にも良いとは言えなかった。
 ……シグさんが、それを察してくれるまで。
「その騎士道精神を、この少佐殿にも分けてほしいとこなんだがなー」
「ん?もう必要は無いと思うが?」
 何で、そこで、疑問系が入るんですか?
「愛する者に剣を捧げる。それも騎士の生き方だ」
 そう言って彼が指さしたのは……ロケットペンダントだった。
「失う痛みは解るつもりだよ。そして、新たに何か見つけた事もね」
 騎士……か。誇りを賭けるに足る信念。
 怒りと無力感に負けて一度全てをかなぐり捨てた。
 彼女は、私にとって、お姫様、だったのかな。

「ま、解るよなあ」
「つか、女々しいぐらい主張してるよな」
「んむ。それは少し頂けないねえ」
「へ……何なんすか、こ」
 触ろうとしてきたので、裏拳ぶちかましておきました。
 ていうかパト君はお守り代わりとかにしていなんですかね?
 そのやりとりに、どんな顔をするかと思えば、破顔していた。
「それでいいよ。若い頃はそんなものだ」
 ああ、この人は、真っ当に生きた自分なのかもしれない。
 いや、きっともっと誇り高かった。たった一つに誇りを賭ける……。
 ただ、そこだけが一緒だったのだろう……。
「だから、君に一つ頼みがあるんだ。会って解った。君以上の適任はいない」

 上流家庭には違い在りませんでしたけど、ちょっとリムジンで来るのは抵抗のある場所でした。
 ……似たもの同士なのは構いませんけど。
「元凶が行って大丈夫なんでしょうかねぇ」
「君はその元凶に会いたがっていたのではないのかね?」
 うー、エリッヒさん何処まで話したんですかー。
 それとも……シグさん、何ですかその「てへっ♪」て顔は。
 ちょっと詰め寄ってみましょうかねー?
「……大丈夫だよ、貴族同士の派閥関係とかこの国すんげっ濃いから」
 つまり派閥中に筒抜けですか?
 この時、自分達は人様の邸宅前にいるってことをすっかり忘れていましてね……。
「何時まで玄関前でたむろしているつもりかね?」
「っ!!」
「おー」
 家人のご登場に、全くもって気付かなかったんですよ。
「……案外若いっすね」
「結構、二枚目?」
 もの凄ーく、むっつりとした……っていうのは愛国精神を裏切られたせいですかね。
 確かに、ハインリッヒさんと比較すると随分若い人でした。
 メガネの間に、皺を寄せてましたね。

 ……国に全てを捧げると誓い、傭兵に破れ、祖国には核という返礼で裏切られた人。

「初めまして。ウスティオ空軍第6師団少佐、エルシエロ=シルヴァンスです」
「傭兵では、ないようだな」
 あー……緩和するどころか、余計眉間に皺が寄ってます。
 傭兵に頼って、勝ったようなもんですし……あー、えーっと……。
「立ち話も何だ。少し客間を片付けて来よう」
 そう言って、眉間に皺を寄せたまま扉は閉ざされた。
 二度と開かない。そんな錯覚を覚えるような拒絶。
「本当に私でいいんですか、サー・デミトリ?」
「ベルカ騎士団について学んだ方がいいかもしれないねえ」
 どうしろって言うんですか。て、笑顔です。
 私もあの人も、この人にとっては若造ですか。
「ここからは、もう一本道なんだ。バルトの行方にしろ、消えた連中の情報にしろ、ね」
「あなたでは無理ですか?」
「眠っていて、ラインに乗り損ねたよ」

 私は、避けたいと思っているのかな?
 煩わしい?
 剣を捧げるべき相手を無くした、か。
 どのぐらい引きこもっていましたっけ。
 その後は、自暴自棄気味になって……毒か、棘かの差。
 祖国を無くしたあの人と、私は……彼女を……ん?あれ?

 ああ。そうか。そう言うことか。あーあー。そうかそうか。
 ……。なんか腹立ってきた。

「どうかしたかな?」
「……騎士ってのもえげつないです、ねっ!」
 鳩尾にエルボーかましてやりました。高さが丁度良かったんで。
「うごっ!?」
「えっ!?」
「おい!シエロ!!」
「アデーレさん手当よろしく〜一人で行ってきますわー」
 まあメディックいるようなダメージ入るようだったら笑えない話なんですけど。
 あー、もー、答えが解ると何でこうも単純ですか。つか、無茶苦茶悔しい。

「あ、あの……ハインリッヒ……卿?」
「騎士も悪戯ぐらいはするんだな?」
「少し、度が過ぎたかな?……いでててて」
「はい、軽度の打撲。以前なら肋骨逝ってたかもね」

 広いお屋敷、本っ当に真っ直ぐな一直線。
 両サイドに小部屋。正面の扉が客間。
 真っ向から敵を迎え撃つ軍人の家。
 あー、土足で踏み込むってのもまあ悪くはありませんか。
 怒るだろうなあ。さーて、深呼吸深呼吸。最初の一言はなんだ?
 とっ掴まれた時の対応は?悪態付かれた時の対応は?

 さぁ、エンゲージ!

「……!」
「うわあ」
 あーあ。本当に客間が物置になってた。何ですかこの兵法と歴史書の山は。
 いやいやいや、ここで気圧されたら駄目駄目駄目。私は、あくまで、毒ピエロ。
「どうも。デトレフ・フレイジャー中佐?」
 さて、どう切り出す?あの時、私はどうしたら良かった?
 いや、あの時よりずっといい。心を占める面積は同一かもしれない。
 でも、私よりはずっといい。そして私も、あれが最悪じゃない。
「未だ22の若輩者ですが、少し言いたいことがありましてね」
「22……だと?」
 もう矢でも鉄砲でも核でも来やがれってもんです。
「お察し頂けたようで幸いですよ、赤いツバメさん?」
「……なるほど。彼が正しかったわけか」
「あんたもか」
 不死鳥さん、怨んでいいですか……?
 交戦中じゃなかったら泣いていいですか?
「まあ、君が知りたい事は大方見当が付くがね」
「でもハインリッヒさんに何の返礼も無しで情報だけ貰うわけにいかないんですよ」
 椅子も揃ってませんし、本の山の上でいいや。
 立て膝で悪っぽく行ってみましょう。地獄の、犬らしくね。
「……それが、私への説教かね」
「ま、そうなります。でもこう言うのは何ですが専門外ですから、単刀直入に行きましょう」

 ベルカは死んだんですか?

「君が言うのかね?」
「ま、リンチを受けたのは事実でしょうけど」
 ああ、怒ってる怒ってる。そりゃそうだ。
 ……大事な相手が周囲からなぶられるなんて思い出したくだってない。
 それより少しはマシな状態でもああなるんだから。
「私にはこの国のために、全てを捧げる覚悟がある。いや……あった」
 この人には可哀想だけど、事実上踏み台ですか。
「見限ったと?」
「……どうしろと言うのだ。今、この国は」
−燃やしちゃってよ、もう、あの国にはゲス野郎しか残っていなんだから−
 ああ、凄いや。目の前の人が全然恐くない。
「内憂外患、その辺切り刻まれて瀕死の重体」
「何が、言いたい?」

 ほんとうなら、もっとマシな言葉があったはずだ。

「私が全てを捧げる相手は、右上半身をアベンジャーに砕かれて死んだ」
「……何?」

 彼女を、引き合いに出す必要は無かったはずだ。

「ボロボロの心で、それでも前に進もうとした、矢先に逝った。永久に失われた」
 ああこれで、本物の悪ですか?それとも、ただの子供ですかね。

「内憂の、鱗片も見ましたよ」
「……知っている」
「狂う寸前の幼子を見ました」
 やっぱり顔色が変わった。無関係な話と言ったら殴る所、聞く気は十分のようで。
「翌月には、うちに押し掛けて居座るぐらい吹っ切れてましたけど」
「……それは愚痴かね?」
「愚痴ですねぇ」
 あー、こめかみがピクピクして、あの、メガネ光ってるんですが……。
 これはー……て、何を手に持ってらっしゃるんで……。

「ちょ!ま!辞書、辞書の角はっ!!」
「いや少し狂犬の毒気に当てられたようでなあ?」
 やばい、まずい、やっぱり似た者同士でしたーっ!!

 抵抗しようと思ったんですが、やっぱり似たもの同士。
 関節技のオンパレードでした。ペンダント避けてくれたからまぁいいや。
「彼に会ったら注意するんだな」
 とのありがたいお言葉付きで……とっても楽しそうでした。
 ちなみに辞書、未使用。

「……偉いすっきりした顔になったな」
「結局、ハインリッヒさんの読み通りっすかね?」
「あー、吹っ切れたエリートほどおっかねえもんは無いぞ、これ経験則」
「手当、アタシはもうやんないからね」

 うん。あの客間で手当しましたよ。自分で。
「……随分派手に暴れたみたいだな」
「思ったより躾はなっていたがな」
 好き勝手言われてるんですけどー?
「あの頃は酷かったよな」
「アタシはナイフ突き付けられたことがあるよ」
「あ、あの……シエロ、げ、元気だして、ね?」
 どーせ私は狂犬ですよーだ。

「本題は何時話すかね?」
「あー。鬼神いぢめなんて滅多にない機会なんでもう2,30分虐めてからでも良いと思いますよ」
「あの女の列機にしては話が分かるな」
「一応姉貴が二番機だから。つーかどこまでばらしたのよおっさん」
「あの女の無線越しだ」
「さよーで……」

 ま、本当に20分つつくネタも無かったわけなんですが。
「そう言えば、ハインリッヒさんはご存じでは無いんですか?」
「言ったろう。ラインが引かれてるとき、私はまだベッドの上だったよ」
 んで、この場に来るまで伏せているってわけですか。
「……なーんか、あっさり私にばらしていいんですか?」
「構わん。むしろ君にこそ知らせるべきだ」
「愛国者らしからぬ言動ですね」
 それを納得させる人だったんでしょうか。
 それとも、個人的な繋がりからの信頼?
「当然だ」
「?」
「旧ラルド政権の懐刀、ジークベルトと言う家の末弟とでも言おうか」
 ハインリッヒさんが眉を潜める。私も内心、不安が過ぎる。
(何すかラルドって?)
(当時の極右連中だよ)
 パト君……後でしごきますかね。
「その末弟が、何か?」
「工作から暗殺までやってのける家柄でな、あの男の元にも入り込んでいた事がある」
 洒落にならない人間に、耐えかねたのは騎士様だった。
「まさか……っ!」
 私がスーツの裾引っ張って止めました。
 何となーく「その人」の今が浮かんできたから。
 デトレフさん、少し笑ってました。「信じられないだろう?」とでも言いたげに。
 戦後の経緯を話したのは、ハインリッヒさんの為だったと思います。

 騎士に懸念をかけられたその人物を、デトレフさんはこう評した
「その男は、ベルカ史上最高の裏切り者だ」
 最高の裏切り者−Best Betrayer−と。

「あの後、アンファング攻撃の混乱に乗じて実父を……事実上粛正してな、退役以降も精力的に残党狩りを続けている」
「なあ、それは……」
「言っておくがポーズの為と言うほど生ぬるいものではないぞ。徹底ぶりは現役時代のままだ」
「……それ、大丈夫なんですか?」
 つまり、破壊工作から暗殺までやってのけていると言うことですよねえ?
 正直司令あたり連れて行った方が良さそうな……。
「私とて、確証も無く信用するほど愚かではない」
 悪名高いっていうのは、確定ですかねえ。
「聞かせて貰えないかね?その確証を」
「……私と彼はいわゆる右派同士の付き合いがあってな、個人的な付き合いもあった」
「友人だから、なんて理由でも無さそうですね」
「ローランド婦人と鉢合わせて、あれに危うく消されかけた」
 ……あれ?
「信用?」
「要求の大半が、脅迫不要の物だった……で、それだけかね?」
 ん?
「……」
 あの、何で半目でこっち見てるんですか?
「彼の本名は?」
「ん?バルト=ロー……あ」
 ローランド、婦人。て、つまり、その……奥さん?
「今も悪い虫が付かないよう、私が、目を光らせている」
「それが、確証ですか」
 あー、ひょんな事から組んでたわけですか。
 それも、かなり深いところで……はて、消そうとした人間と?
 ……ご婦人も曲者なんてオチは無いことを祈りたい。
「彼の期待に、答えられていれば安全ですか」
「安心しろ。出来ねば使われて終わるだけだ」

 最後のマスまで、後一歩の距離だった。