ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Blank4-希望-

 許す許さないじゃないんだよ。
 アタシも見てたんだ、あの放送。
 ご丁寧に全世界に向けて宣言したんだ。
 きっちり会ってやれよきっちり、ん?

 灰色の街だった。コンクリートジャングルとかそんなじゃない、煤こけた、本物の灰色。
 工業都市だって聞いていたけど、見る影もない。
 所々、真っ黒い煤の跡。本当に、焼けこげたような。
「工場って、あんなに広かった……?」
「まさか」
「……だよね」
 きつい。もの凄くきつい。
 PJなんかは居たたまれないのか前を向けてないし、アタシだってそうだった。
 ただ……シエロだけが……。
「で、何処に行くんです?」
 真っ直ぐに、前を向いていた。
「その前によ、シエロつったか」
「はい?」
「お前、その格好であの街行くつもりか?」
 コレは何も知らせなかった方もどうかと思うけど、シエロもシエロ。
「……やっぱ、駄目?」
「ちょっとこっちこい」
「いやーん♪」
「いやーん♪じゃねえっ!!」
 そのままチンピラによって車内に引きずり込まれる少佐殿。
 あー、どったんばったん。なんか服を着せたり脱がしたり。
 端から見たら何やってるように見えるかねえ。
 そして出てきたのは、シュミッドさんのミニチュアだった。
「うー……」
 ニット帽に、ブカブカのジャケットとジーンズ。
 中だけワイシャツってものすっげ違和感あるんだけど。
 ブカブカのよれよれ。ニット帽に押さえられた赤毛がちょこっと跳ねてて……。
「シエロ……」
「少佐……」
「可愛い……♪」
 完璧にお子様。や、アタシより年上だけど、うん、元々の精神年齢がアレだから、うん。
「ほんっとにガキんちょだなお前。んじゃ行こうか」
 肩に担がれる少佐。子供扱い通り越して荷物扱いになっちゃった少佐。
 ……でも兄弟にも見えてちょっと微笑ましいとか思っちゃったりして。
「あーるーはれたーひーるーさがりー」
「なあ、この少佐適当な闇市で売っていいか?」
「返品ついでに賠償金取られると思うっす」
 でも高く売れそ。言ったら危険だから思うだけ。
 そうして連れて来られたのは正真正銘のほったて小屋。
 ……特別でも何でもない。
 あれからもうすぐ一ヶ月経つけど、この街の殆どはそうだ。
 軍服を着て無くても、アタシ達は浮いた存在だったんだ。

「ようクリストフ、いるかー?」
 中は思いの外、というかもの凄く広かった。
 いや、ほったて小屋の中身には違いなかったんだけど、とにかく広い。
 幾つか区切られた壁の向こうにも部屋があると考えると相当。
 並んでいた小屋の一つだったから奥行きが解らなかったのもあるけど、少し地下にめり込んでる。
 ……何となく、それが小さなクレーターに見えて、合点がいっちゃった。
「まるで秘密基地っすねー」
 そこに空気の読めない馬鹿一人。
 薄暗いこの部屋にこれほど相応しい例えも無さそうだったけど。
「実際そうだぜ。おい!脱出の糸口連れてきてやったぞ!!」
 布で区分けされた部屋の奥から出てきたのは……。
「そんなに大声出さなくても聞こえてますよ」
「!」
「……」
「うわぁ……」
 頭から「真っ赤な」何かを被った男だった。
「いや、これケチャップだから」
「何やってんだ……」
「いや、トマトスープ作っていたら……ははは」
 当然の如く火傷していた。
 当然の如く、メディックのアタシが手当するハメになった。
 そのクリストフと呼ばれた人の胸に金色のロケットがぶら下がっていて、極力触れないよう努めたのは、真後ろに恐いことになると言うことを示した実例がいたからだった。
「お見苦しいところをお見せしました」
 奥の小部屋、ぼろっちいテーブルを少佐と、チンピラと、所々に氷嚢を当てた男で囲む。
 アタシらは隅っこの段差で待機中。
 こんな所でアタシは何を語っているんだろうね。
「で、脱走とおっしゃいましたが?」
「ああ、コイツこの街の上でちょっとヘマ踏んでな」
「輸送隊の方のお陰で一命を取り留めたのですが……その……」
「飛んだこと自体が違反。連合に引き渡せば重罪。が、コイツにゃ帰る場所があってな」
 要するに、亡命って奴か。
 連合の外にまで保護しなきゃあかんとはね。
 法の抜け穴とか、そう言う世界の話でしょ?
「シエロにできんの?」
「無理そ」
「なんだかんだで真っ直ぐっすからね〜」
 ナイスPJ。フォローになってないフォローだ。
「あ〜の〜ね〜……」
「大丈夫、俺も期待してない」
「……がふっ」
 あ、重体患者。
「なあ、ベルン……」
「からかう分には安全だぜ。な?」
「アタシに同意を求めんでくれ」
「保護者だろ?」
「コイツのが年上」
「中身は青春真っ盛り」
「……」
 御免、否定できない。
「でもよ、いるんだろ。お前の我が儘を許した奴がよ」
「タイムラグが発生しますよ?」
「わーってるって」
 でもな、と、彼が指さしたのは、シエロのロケットだった。
「尋ね人か仏さんかは知らねーけどよ、義理立てしてるってのは解るんだよ」
「……それだけ?」
「おう。そんだけ」
 完全に、把握されているね。
「シエロ」
「なんです?」
「アンタの負け」
「……ふふ……あっはははは……ははははっ」
 吹き出すシエロ。笑う梟。
 空気が、すっかり和んだ。
 そう、思っていた……。

 チャキッ

 ガタンッ

 だから、誰にこんな状況が予測できた?
「シエ……ロ?」
「お、おい……クリス!?」
 アタシを、アタシ達を庇うように立ち上がっていたシエロ。
 青ざめた顔で、拳銃をこっちに向けていたクリスさん。
 アタシも、PJもみんな、構えようとして、睨まれた。
「鬼神……」
「聞こえて、いましたよね」
 ここの上でのヘマ……まさか、でも、どうして?
「ちょっと待て、コイツはただのガ……」
「梟の目も落ちたな」
「なっ……」
 シエロ、ねえ、何か、何か言ってよ。
「君は空軍の人間だよな。乗機は?」
「F-15C」
 肩越しに、視線で下がるよう促される。促されても、下がりようが無いんですけど。
 顔色は、薄暗くて見えなかった。
「ハードリアンからは、MTD」
 そう言った瞬間、時間が固まった。
 どれだけ、こんな状態が続いたかな。
 1分?2分?それとも、もっと?
 時間の感覚が無くなった辺りで、緊張の糸がふっと消えた。
 自然に、お互い力つきたようにふらっと……。
「君の口利きなら、見込めるな」
「良いんですか?」
「あの空で、何が正しいかなんて判断つくか?」
「……ええ」
 そのまま、椅子の上に崩れ落ちた。

 全ては、司令に事を伝えてから、と言うことでその交渉は幕を閉じた。

「俺は未だに信じらんねえ」
 シュミッドさんは未だに信じられないと言う様子でいる。
 ……無理も無いよねえ。一皮も二皮も剥ける前だもの。
 当時のアタシにだって想像付かなかった。
「あのままガンキルしようとしてた野郎にゃとても見えねえ」
「それはどうも」
 シエロは未だに疲労困憊。緊張の余韻は結局まだ尾を引いている。
「本当に円卓でやりあったお前なのかよ……」
「不満そうですね」
「ああ不満だ。覇気がねえ。生きようって気力がねえ」
 その言葉に、シエロが足を止めた。
「信用はできるが気にいら……ん?」
「生きよう……生きようって……」
 振り向いたシエロは、震えていた。主に、瞳が。
 そうして振り返ったシエロの視線の先に、ホフヌングの街があった。
「あった、のかな……」
「あったんじゃねーの?」
「あったん……でしょうね、きっと」
 夕日に照らされる街。
 ちらほらと見え始める明かり。
 その間を、右往左往する人の影。
 ほんの少し小高いこの場所から、全て見えた。
「ホフヌング……希望か……」

 そこからは、また無言。
 だけど、気まずい無言じゃなかった、かな。

 別れ際、シュミッドさんが家に駆け込んで、酒瓶持って出てきたよ。
 土産の代わりと言って放られたそれは、
「あっ……」
 シエロの手をすり抜け、
「おーっと」
 滑り込んできたPJに受け止められて割れるのだけは免れた。
「……ナイスキャッチ」

 たった、それだけのやりとりだった。
 この時は。

 ぁん?ココに来たって事はだ、お前もアイツと同類って事だろ。
 ああ、アイツは正義感ぶった割に気があった。
 アイツのガキ?悪ぃがさっぱりだ。
 くたばってりゃ、すぐにでも解るんだろうけどよ。

 ったく、ツイてねぇ。散々かっ飛んで落として、終わったらはいさようなら。
 ……よりも悪ぃなあ。掌返されるなんて今に始まった事じゃねえけどよ。
 やばいモンを知り過ぎた。当分、上にゃ戻れねえ。
 オマケに変な勧誘まで来たもんだ。
「旦那ーこれから俺らどうなるんしょーねー」
「あー?ほとぼり冷めた頃に高飛びだろー」
「カモらしいカモはみーんな押さえられてますよー」
 なーにが哀しくてオーシアの隅っこの倉庫で燻ってるんだって話だ。
 でよ、今日はさらにツイてねえ。
 子悪党の屯する廃倉庫。
 逆光背負ってやって来た東洋人のガキ。
 3人相手にナイフと拳銃と視線で黙らせる。
 何処のアクションヒーローだてめえは。
「おー、今度は殺さなかったか。リッパー」
「子分の躾ぐらいしとけ。ハゲタカ」
 他にも2,3人に潜んじゃいるが、出さない。つか、出せねぇ。
 死体片付けんの面倒だし、俺が無事で済む保証もねえ。
「で、要件は何だ?」
「お尋ね者捕縛」

 ジャギッ

「笑えねえジョークは勘弁してくれ。つか、いい加減3人放せ」
 コイツとガチンコだけはしたくねぇ。
「おー。エースらしい口振りじゃねーの」
「死体の掃除は面倒なんだよ」
 解放された連中、すっかり逃げ腰になってやがる。
 睨みで止められた奴にいたっちゃ四つん這いで逃げてやがる。使えねぇ。
「そう言うな。中身はどうあれ、俺が始めて会ったエースなんだからよ」
「そのエースの同僚、下で血祭りに上げまくってたのは何処のどいつだ」
「はーい」
 あー、まだコイツを蜂の巣にしてやりてぇって思えんのな。
 当時19かそこらだっけか。上でもできるのは反則だろ。
 反攻作戦前にとんずらコキやがったって知ったときはミンチにしてやろうかと思ったよ。
 ……長男に拳銃突き付けられてやめたけどよ。
「ちっくしょ、とっとと本題入れ。てめえが真正面いると胃に悪い」
「大丈夫、俺は後ろからやるタイプだから」
 良くねえよ……。
「ミンチにすりゃしたで後こえーしなあ……」
「姉貴か?」
「や、長男」
「おいおい、アイツまだ……」
「6歳にしてスパイ騒ぎ解決の功労者だったと思うが?」
 ドタゴタで真っ先に俺を睨みやがったクソガキだけどな。
「冗談抜きに上げたら化けるぜありゃあ」
「そりゃ遠回しに飛ばせって事か」
「遠回しに死ね言ってねえか、お前」
 アレに睨まれるのはマジ勘弁だ。それこそジウの方がよほどマシ。
「そういや、ジウの旦那ってどんなだ。偉いひょろそうな声だったが」
「ああ、実際ひょろくて地獄耳で千里眼……やっぱ悔しかったりするわけー?」
「ほざけ。とっとと本題入れ本題」
「つまんねーなー。察しつくだろーが」
「あの国で、傭兵に情報降りると思うか?」
「表沙汰に出来ない裏事情とか色々」
 この野郎……俺を便利屋かなんかと勘違いしてねーか?
 ジウがセットじゃない分まだ……。
「んじゃ、このリスト埋めといて」
 うぜっ!
「つかちょっと待て!!」
「はいー?」
「これ……相当やばいぞ」
「報酬に糸目は無いっつってもか。金じゃなくたっていいんだぜ?」
 てことは、身の保証とかあったりするわけか。
 ……シグが糸目をつけねえってことは……。
「金、国からだろ」
「ばれたー?」
「お前が国の金で動くたねえ……随分肩入れしてんじゃねーか」
「細雨がこっそり泣いてる。氷雨が寂しいの堪えてアイツの背中を押してる」
 あー、いつの間にか大人面になってやがるのな、こいつも。
「俺が、のんびりしてるわけにいかねーんだ。じゃ、他にも会う当てがあるからよ」
 いつの間に、男の背中何て出来るようになったんだか。
「おいシグ!」
「ん?」
 ったく、ガラにもねえ……。

「30歳おめでとう」
「この場でバラしたろかテメェっ!!」

 やっぱこうでねえとなあ。ヘッヘッヘ。