ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Blank3-理由-

 どうすればいいのか解らなかった。
 何をすればいいのか解らなくなった。
 拠り所の変質を知ったあの日から……。
 随分と、長く彷徨っていた気がします……。

 真新しい壁、ペンキの乾いていないベンチ。舗装されて間もない道。
 その中に、古い壁と舗装されていない道路がまばらに見えた。
 ……彼は知っていたのだろうか。
 この場所もまた、戦場になったということを。
「ここね……」
 墓地と、孤児院。嫌な組み合わせだ。
 既に巣立った施設。本来なら、ここに弔報を届ける理由はない。
「あの、何か……?」
 孤児院を預かっているのは、シスターだった。
 迷える子羊、神の家。今、一番必要とされていないもの。
「これを、届けに来ました」
「そうですか……でも、どうして?」
 ただ弔報だけを渡して、踵を返すわけにもいかない。
 逝った事にしなくてはいけない。彼が、消えた理由を、消えた先を探さなくてはいけない。

「ここでの彼は、どんな人でしたか」

 全ての理由は、後付だった。

 通されたのは、ミサにでも使われるような聖堂。
 ステンドグラスも、パイプオルガンもない。
 ただ、磨かれた長椅子だけが祈りを捧に来る人が居ることを告げる。
「どうして逝ってしまったのか、私にも解らない……ただ、知りたいんです」
 聖職者に邪推されたことも、淀みなく口から出る「嘘」も、気にはならなかった。
 私は、妹と家族の「嘘」に腹を立てて勘当したのではなかったか?
「立ち話もなんですから……奥へどうぞ」
「お邪魔させて、頂きます」
 私は、何を悔やんでいるのだろう。
「あの子が軍人になると、聞いたときは驚きましたわ。争い事には向かない。そんな子だと思ってました」
「それが、どうしてまた?」
「あの頃ここはまだベルカ領で、軍学校に入れば奨学金が出る……お恥ずかしい話ですが、貧しかったんですよ……意外、ですか?」
「いえ、彼らしい、と」
 ここがオーシア領になったのはそれから数年後の事。
 当然奨学金も途絶え、それを機に彼は傭兵への道を選ぶ。
 オーシアからスカウトの話もあったらしいが、彼がここに引き取られた経緯を考えれば、当然蹴った。「世界の空を飛ぶ。それが、あの子の最後の手紙でしたわ。自分はお金の為じゃない。信念のために飛ぶんだって……」
「では、それ以前は?」
「ふふ。向こうの基地で楽しみがなかったみたい。筆無精だと思っていたのに」
「あの、その手紙、見せていただけませんか?」
 快い承諾に、同情の色が混じる。内心でそれを否定するのは、もう止めた。

−みんな元気にしているか?アンリ、ちゃんと友達作れよ?−
−ユノー、喧嘩してないよな−
 大半が、ここの子供達への言葉。今は彼等がここの経営を支えてくれているという。
−……いきなり輸送機で振り回されたと思ったら俺だけなんか違うとこ連れてこられた−
 異変は、1年目……9年前から始まった。
−あ、前回の手紙、やっぱ機密だって怒られた。あれ、処分しといてくんない?−
 生憎と、シスターはそこまでしてはくれなかった。
 この時ばかりは神に感謝したが。
−えらいパイロットとやりあった!ぼろっちい機体で死ぬほど追い回された!!−
−その後ホントに機体ブッ壊れた。師匠(開発者だけパイロット:検閲済み)のダチだって−
 そして、時には意外な人物が顔を覗かせる。
−んで、空色の機体持って帰った−
−今日の空の色つってた。もっと晴れた日に来れば良かったのにな−
「キラービーか……」
 なるほど、片羽で帰ってくるわけだ。
 情報としては……これだけあれば十分か。

 ……その一文一文が、楽しそうだった。
 ここにあるだけで、まだ3分の1だという。
 純粋に、単純に、飛ぶことを楽しんでいた。
 焼失した残りには何が書いてあったのだろう。

「……教えていただけますか?」

 尋ねるべき相手は、目の前にいる。

 だから、なのか?
 だからあの程度で済ませたっていうのか?
 アンタになら出来たはずだ。
 ……俺の羽をもいでしまうぐらい、簡単に。

「こう言うのは、先を越されるのがセオリーなんだがな」
「自覚があるのは結構な事です」
 巻き込みたくなかった。それだけだった。
 ドクター経由で俺の行く先を嗅ぎつけられたら困る。
 その最初の糸口になるものだけでも処分しておきたかったが……。
「そうなると、次のセオリーは……」
「口封じですか?」
「信用無いな」
「女性一人を多勢でかかるような人では」
 ……覚えがない。そんな俺を見る中尉の表情に変化は無い。
 だからこそ余計に、呆れと侮蔑の色が滲み出ているように見えた。
「なかなか勘のいいお嬢さんだ」
「!?」
 路地裏にいたのは、年食った優男と、でかい黒人と……師匠。
「……揃い踏み、だな」
「まあ、親心のようなものだ。ラリー」
「ほざけ。結局つけてたんじゃねえか」
 もう、いいんだよ。もう、帰る場所なんて無いんだから。
 何処に行ったって、結局は……。
「内輪もめでしたらこのまま帰らせて頂きますが?」
「そうは行かないだろ」
 わざわざ断ってから人の脇をすり抜けようとした肩を掴む。
 何を掴んだかは解らない。だが……俺の知人と言うことは、アイツと繋がっているということだ。
「どうやら、思わぬ拾いモノになりそうだな」
「要件は簡潔に」
 彼女の後頭部に向けられる銃口。
 こんな時でも、無表情は健在だった。
「おい……」
「相棒と、無為に争う必要は無くなるかもしれんぞ?」
 それでも変わらない。後頭部に銃口を突き付けられてるにも関わらず。
「引きたければ、どうぞ?」
 掴んだ肩は、震えてすらいなかった。代わりに……。
「っ!?」
 痛み。視界の回転。
 気が付いたら、俺の腕が捻り上げられていた。
「動かないで」
 同時に腕を下げられると同時に背中が弓なりに反る。
 かなり無理な体勢で、関節がギチギチいってる。
「動いたら、ねじ切ります」
「……へ?」
 真上を向いた顔には空しか見えない。
 足が少し浮いてる。……意外と背丈あるんだな。
 て、この体制で撃たれたら、十中八九俺に当たるんじゃ……。
−シンデレラを迎えに来たぜ−
 畜生、これじゃホントにお姫様だ。
 腕が軋む。バランスを崩したら、ヤバイのか。
「後ろのもです」
 周りがたじろぐのが解る。
 そんなんで本当に、これからやることが出来るのか?
「お嬢さん、君はあの戦争で何も思わなかったのかな?」
 ……尋ねる資格も無いことに気付いたあたりで、いい加減こっちの優勢に変わりない事に気付いたらしい。
 だが自分がいかに無謀なことに挑戦しているかは気付いてない。
「そういう、事ですか」
 その程度で動じる可愛げがあったらとっくに口説いて……ででででででっ!?
「ちょ、おいっ!?」
 腕、タダでさえきついのに更に締め上げて、やばい、手首、逝くって。
「うぐっ……」
 そうなる前に、脇を使って両手を固定される。
 指一本動かしたら地獄を見れそうな場所に手があるんだが、女らしさは期待するだけ……。
「子供達を、どうするつもりですか?」
「……」
 ああ。そういや、そうだった。いつだ?
 いつの間に、意識からあいつらが居なくなってたんだ……?

 次の瞬間、体が宙を舞った。

 遠心力のまっただ中で辛うじて解ったのは、足と肩が何かにぶつかって、
 その向こう側で「うごっ」とか言う師匠の声。
 相変わらず建物の間から空が見える。
 肩が痛い。タダでさえ痛いところに更に振り回されたら無事じゃすまない。
「……リー、ラリー?」
「ん?ああ……大丈夫か?」
 いざ体を起こしてみれば、ジョシュアを敷いた状態だった。
 パーマーの奴は完全に気絶しているらしい。師匠は白衣着たまま大の字にやはりノックアウト。
 俺はといえば、明らかに肩をやられているな……筋をねじ切られるよりはマシだったんだろうが。
「まったく、ヴァレーの女はみんなああか?」
 否定できん。

 否定はできなかった……一瞬、一瞬だけ見えたんだ。
 いつものような鉄面皮が、歪んだように見えたんだ。
 当然だ。俺は、割り切ったんじゃない。

 ……逃げたんだ。

 中尉、アタシらには何も話さなかったよ……司令なら知ってたかな。
 で、肩痛めちゃったお陰で色々遅れちゃったとか?
 ……因果だね。ほんっと因果ばっかりだったよ。
 アイツの目、ちゃんと真っ正面から見てやりなさいよ、絶対に。

 やって来たのは少し寂れた安アパート。
 グリューン隊隊長、ベルンハルト=シュミットを尋ねて。
「ふーん、わざわざご苦労な事で」
「組織ぐるみじゃ聞ける話も聞けないと思いまして」
 招き入れられる所までは、恐いくらいあっさりいったんだ。
 流石に狭かったからクロウ隊は外なんだけど、ここからが曲者だった。
 進展の無いまま飄々とした会話を繰り返す二人。
 アタシはというと、妹だという女性の不安げな視線が痛い。
「大丈夫だよ、変な奴だけど悪人じゃないし」
 悪人じゃないけど、やばい奴「だった」って言っていいのかねえ。
「いえ、むしろあの人の方が……」
「はい?」
「見ての通り兄はチンピラ上がりで」
「待てコルァッ!!」
「なるほど」
「ね?」
 この反応はチンピラだわなー。
「くっくっくっく……」
「サ……シエロ、笑っちゃ駄目っすよ笑っちゃ」
 シエロ、突っ伏して笑ってるとグサリされるよグサリ。
「可愛い妹さんですねー」
「手ぇ出すなよ?」
「大丈夫ですよ義兄さーん」
「マジでブチ殺したろかい」
「大丈夫そうですね」
 うん。チンピラ程度で怯むほど可愛い奴じゃない。
 そう言う意味じゃむしろ緑君の方が心配だよアタシ。
「駄目っすよ!」
「はい?」「は?」
 で、何処にでも空気を読まない馬鹿はいるわけで……。
「サ……シエロにはアデーレさんがいるじゃないっすか!!」

 時間停止。

 立ち上がるシエロ。

 扉の外に連れ出されるPJ。

「くぉるぁあああああああああああああああーっ!!」
 響きわたる怒号に混じる鈍い音の連打。
「……帰ったら、訓練飛行するはずなんだけどねえ」
「違うのか?」
「違うんですか?」
 何が?
 疑問系の視線、視線、視線……て、まさか!?
「ちょ、待って、アタシそんなじゃないわよ!?」
「じゃあ何でついてきてんだよ?」
「い、いや、アタシ一応メディックだしぃ!?」
「聞いた兄さん」
「健気だよなー……敵国に踏み込む男を追いかけてよー」
「ちーがーうーっ!!」
 あー!もう!兄貴を案じる妹も兄貴と同罪じゃねーかこんちくしょー!
「第一アイツにはもう相手がい……!」
 固まる空気。
 固まる視線。
 漲る殺気。
「アデーレさん?」
「は……はひ……」
 出てけば、戻ってくる。それは至極当然だった。
 逆鱗は未だ健在、その後のアタシはへたりこんで二人の会話を眺めているだけだった。
 何だ二股か?とか、そんな……命惜しくないのかこの兄ちゃん。
「あ、あの……」
「た、多分……多分、大丈夫……」
 何を話してたのかは、聞いてない。
 ただ、PJはどうなったんだって聞かれたから、ボコられて先輩二人に介抱されてるんじゃ?
 そう答えた事は辛うじて覚えている。
「く……くく……」
 本当に……恐……。
「はっはっはっは!!」
 へ?
「……うー……」
 シュミッドさん、笑ってる。シエロが苦虫噛んだ様な顔してる。
 改めて二人の表情を見てみれば……
 笑う梟。
 しょげる子犬。
「なーんだ、可愛いとこあんじゃねーか」
 シエロ、ペンダントつつかれないよう必死に守ってるし……。
 ……押し倒されそうになったアタシは何だったのさ。
「所でよ、明日は空いてるか?」
「え、ええ、一応」
「よし。明日正午、ちょっと車用意して来てくれよ」

 翌日、シュミッドさんに連れてこられた場所。
 アタシは息を飲んだ。
 ……でもシエロや、クロウ隊の3人はもっと、だったんじゃないかな。

「ここは……」
「なーに、ちょっとした取引だよ。いいだろ、ボンボン少佐?」

 その場に居なかったアタシに、4人が何を思ったのかを知る術は無い。

 ホフヌング。

 踏みにじられた、希望の跡地。