ACE COMBAT Zero
The Belkan War
The fate neatly reward it. We only remember the nonpayment we of.
...The UnReward War...

Blank2-純粋-

 で、あいつら全員にお前は会ってきたってのか?
 いいえ、全員ではありません。正しくは、プラスαってことで。
 で、そいつら全員お前の事はだんまりか。
 口裏合わせた覚えは無いんですけどねえ。

「絶対確実なのがそれしかなかった」
 3人って何ですか3人って。
「自分の所行を省みるんだな」
 ……ですよね。殺した数も、やり方も省みれば。
 鬼神。その名が畏敬からなんて思っちゃいませんよ。
「で、一番上の二重マルはなんですか?」
 この人だけえらい強く書いてあるんですが。
「当店のオススメ物件。冗談抜きで一番安全な男だよ。他のだって私よりずっと広い人脈の持ち主だ」
「そちらに期待しましょう」
「保証はするよ」
 結局、信じる以外に出来ることはい。
 自分で行く。そう決めた以上、覚悟を決め……
「少なっ」
「少ねぇー」
「大丈夫なんすか、それ?」
「アタシ単独で行った方が良かったんじゃね?」
 ……早速挫けそうです、覚悟。
「彼等経由で探せって事なんですかねえ」
 ただ話を聞くだけの方がどれほど楽か。
 まして……私に手を貸してくれだなんて……。
「サイファー」
「はい?」
「大丈夫っすよ、きっと」
 で……これをまた司令に報告しないといけないんですよねえ。
「はっはっは!3人か。大したもんだ!」
「立ち直りかけに追い打ちかけんでください」
「ぇー」
 電話したら案の定これです。
 目の前にいたら締め上げた上で吊してやるのにー……。
「いやー3人かーそうかーへぇー……」
 後ろで笑ってるので妥協しましょう。
「で、その3人の名前は」
「上からでいいですよね」

「エリッヒ・ヒレンベランド……あー例の万年中尉か」
「ご存じで?」
「ご存じも何も、彼に落とされてなかったら私がキラービーにやられてたよ」
「……何しでかしたんですか」
「捕虜なってくれいったら嫌と言われた」
 当たり前です。

 少し待ってくれと言われて、本当に少し待ったら電話が来た。
「とっくに出所……つーかろくな取り調べも無かったらしいな」
 別件で遠出しているフリーダさんにオーシアの方まで足を伸ばさせていたらしい。
 そういや自分の名前で脅せるのがいたって言ってたっけ?
「私利私欲無し。戦犯なんてなりようがない男だよ」
 もちろん、この後私が会いに行くであろうベルカの人間、それもパイロットを重点的に。
 ……最初に会うのがパイロット、なら残りもパイロット。
 単純なようだけど空に境界はないと言うのが司令の言い分。
 本当は独立前から軍に関わっていたからベルカ空軍の体質を知っているだけ。
 ……世界中探せば国の財布をすっからかんにするぐらいの被撃墜王もいるんですよ。
「機密なんたらとは、無縁そうですねえ」

「で、アポ無しで突撃するわけ?」
 出発は即決。勿論、ついてきたアデーレさんやクロウ隊のみなさん、パト君も一緒。
「あくまで、私用ですから。ボンボン少佐の」
 表向き、司令のお気に入りの秘蔵っ子。
 現実は秘蔵どころか散々にこき使われた忠犬……でもないか。
「アンタ……いつか殺されるわよ?」
「望むところです」
「……馬鹿」
「お?ロマンスの予感か?」
 とりあえずカラスの二番機ぼっこぼこに。
 ベルカに入るのは楽だった。連合の人間と言って階級章出せばOK。
 司令が根回しをしてくれていたのか、顔パスで通れる場所もあった。
 ……都合の良い話です。

「そう言えばな、最後に彼を撃墜したの、お前らしいぞ?」

 いざ来てみると……その町は本当に長閑だった。
 体裁のために来ている軍服が、本当に不似合いな所で……。
 あの円卓の大空戦。シメを飾った相手がそうだった。
 正直、楽しかった。何もかも忘れてただ飛んでた。
 何もかも、忘れて、敵は、ただ落とすだけ。
 そんな理由で落とされた方は……まして、殺された相手は。
「サ……シエロ、大丈夫か?」
「え、ええ……」
 とりあえずサイファーの名前で呼ぶのは封印。
「俺達がいるんすから大丈夫っすよ」
 名字か名前かは自由だけど、やっぱりみんな慣れない。
「啖呵切ったんだろ?シルヴァンス少、佐?」
 ……普段名前で呼んでるアデーレさんが少佐待遇……違和感マックスもいいとこです。
「そーそー。いきなりズドンなんてするようなら軍人なんてやってらんねーって」
 恨み一つで、女の顔面殴った私には、耳の痛い話。
 ズドンは別にかまわない。死にたいとはもう言わないけど……この平穏を壊してしまう方が恐い。
 探さないといけない。連れ戻さないといけない。
 だけど……目の前のドアが、少し、大きく見えた。
「おや?軍服さんが何か用かい?」
「のわああああああっ!?」
「……おや?」
 し、心臓喉から飛び出すかと思った……。
 ああ、扉が高く見え……て、私がへたりこんでるだけで……。
「大丈夫かい?」
「随分毒抜けたわよね、シルヴァンス少佐」
 顔を上げると、ランニング姿に汗の眩しいオジサンが立ってました。

「いやー済まないねお待たせしちゃって」
 家に招かれるなり、オジサン……エリッヒ・ヒレンベランドさんはバスルームに叩き込まれた。
 石鹸の匂いと一緒に出てきたらぱりっとしたワイシャツ姿。
 司令より5歳も年上なんて思えない爽やかさんぶりです。でもオジサン。
「いやー美味いっすねこのカレー」
「あ、ルー取りすぎっすよ隊長!」
「お前はもう部下じゃねーっての」
 そしてなんら迷いなくお昼までごちそうになってしまいました。
 ……あの、一応敵国の士官なんですが私。
「すいません、突然押し掛けたあげく……」
「いやいや、食事は賑やかな方が良いよ」
 何故、と聞く前に「話を聞こうか」と切り出された。
 みんなも最初の勢いはどこへやら、食べつつも聞いてますよと。
 そして表向き通り、消えた部隊の行方を追っている事を話した。
 最後に個人的なこととして、その一人がベルカ出身らしいと言うことを付け加えて。
 彼女達からヒレンベランドさんに会うよう進められた事も。
 嘘は付いて無い。ただ、私が誰なのか以外は。
 そして知った。
「何度も伺った話かもしれませんが……」
「いんや、君が最初」
「……はい?」
「だから……もぐもぐ、君が最初」
 オーシア連中の間抜けさを。
 本当に、陰謀事とは縁のない人だったんだろうと思うと……ここに来たことを少し悔やむ。
 そう、思っていた。
「しかしまあ、鬼神自ら来るとはね」
「……!」
 顔を上げたら……笑ってた。呆然とする、みんなの反応見て。
 横にいる奥さんも、少し呆れ顔で……。
ガンッ
 夫の脳天にフライパン。
「あなた?」
「いや、すまんすまん」
「あの……」
 目の前で夫婦漫才されても困るんですけど。
 ていうか何でばれるんですか?
 二人とものほほんと笑ってるけど、隣に座ってるパト君、固まってす。
 反対側のクロウ1は座ったまま臨戦態勢。
 パト君に遮られてアデーレさんとクロウ2は解りませんでしたけど……。
 ……目配せでクロウ1の臨戦態勢を解かようとした。睨み返された。
 何でこう波風立つ……あー、私が反応したのが不味かったのか。
「いやー言ってみるもんだ」
 ご当人、あんたの図太さをちょっと分けていただけませんか。
「そんな恐い顔しなくていいわよ」
 口を開いたのは、奥さんの方。
「会って大丈夫な人がこれだけで、尚かつこの人に二重丸付けて会わせようとする相手なんて、一人しかいないのよ」
「いやー本当に引き合わせてくれるとは思わなかった」
 笑ってた。屈託無く。
「もう一度、会ってみたかった。空でも良かったが、下でゆっくり顔を合わせられるとは思わなかったよ」
 含みも何も無く純粋に喜んでいた。
「どうして……」
「ん?」
「何とも、思わないんですか……?」
「嬉しいけど?」
 ……いや、そうじゃなくて。
 顔に出たのかな、先に口を開いたのは向こう。
「それを言ったら、君だってウスティオの正規兵なんじゃないのかい?」
「なっ……!?」
 ちょっと、待て。鬼神だけならまだしも、それが正規兵って。
 何か、どこかから何か漏れてるんだろうか……。
「……ふーむ。図星かあ……こりゃアイツに会ったときが恐いな」
「賭の支払いはあなたの小遣いからですからね」
「えー、そりゃ酷いな」
 子供達だけならともかく何処までザルなんですかうちの空軍。
「あ、いや、君が危惧してるような理由じゃないよ」
「……はい?」
「君がそうだと気付いた時にね、ある人の予想がピッタリはまっちゃったんだよ」
「ある人?」
 この国兵器だけじゃなくてプロファイラーまでトンデモですか……。
「彼の言うとおりなら、君は会ってると思うんだけどね」
「ベルカの地を踏むのは今日が初めてのはずですが……」
「いや、空で」
 そんなの何人出会ったと、そして何人生き残って……ん?
 生き残って……いや、むしろ、正規兵として……まさか……。
「キラービー……」
 そうだ。この人だ。空で唯一言葉を交わした相手。
 話すも何も、ブチ切れて叫んだだけなんですけど
「このリストに載ってるよ、ほれ、この一番下」
 何気なく、本当に何気なくその名前は書かれていた。
「バルト……ローランド?」
 たった三人のリストの、一人として。
「彼は、今何処に?」
 こんなに早く辿り着くなんて。
 かつては、差し違えてでも殺したいと思っていた相手。
 今は、妖精さんに繋がっているかもしれない、細い糸……。
 ただ、その儚い希望は、静かに首を振るエリッヒさんに否定されてしまったけど……。
「本題が、まだでしたね。もう予想がついてると思いますが……」
「片羽、だね。君の尋ね人は」
「はい。彼は、ベルカの出身だったんです」
「バルトとの接点だけだと厳しいね」
 妖精さんの名前、出したら解るんだろうか。
 それとも……流石にそれはやったらいけないんだろうか。
「そういや、君は今幾つだい?」
「……へ?」
「あと、彼ね」
「26……だったかな。私は22です」
「えらい若いな」
「そりゃどうも」
「片羽の話が3年ぐらい前だっけ。それだけ解れば知り合いのつてで調べられるかなー?」
「え?」
 調べるって?いや、その前にそのうきうきした語尾は何!?
「ん?何か行けないこと言ったかな?」
 この平穏を壊したく無かった。それが唯一の不安だった。
 それだけが……。
「だって君、すぐ顔に出るから身バレしちゃいそうだし」
「ぶ」
 上半身を支える気力も無くしてテーブルに突っ伏す。
 当人がそんなことお構いなしって……奥さん、諦めてないで止めてくださいよぉ……。
 みんなうんうん頷いて、もういいです。拗ねてやる。ひねてやる。
「はっはっは。ま、そう拗ねない拗ねない」
「もう一人用がある人いるから、アデーレさんどーぞー」
「い、いや、ちょっと待って」
 何狼狽えてるんですか……そんなに私達に聞かれたく無いんですかねえ。
 私はテコでも動く気無いんですけど……。
「今、アデーレって言ったかい?」
 私に続いて初弾命中、あーめでたいめでたい。
「そうで〜す」
「ちょ……シエ……!」
「もしかして、オイゲンさんの?」
 さーさー積もる話をどうぞどう……何で静かになるんですか。
「……あ、そう言うことか。うん。私は何も言わない」
「はい?」
 とりあえず首だけ向けてみる。
「き……えーっと、シルヴァンス少佐?」
「シエロでいいです……」
「シエロ、空か。良い名だ。彼女、一緒に連れてあげなさい。そうすれば解るから」
 何で、アデーレさんの顔が赤いんでしょう。

 その後は、お昼の残りを食べて、色々な話をした。
 戦後のドタゴタ。収容所でのうわさ話。
 ……この人も、鬼神女性説の信者だったらしい。むしろ一番そう思ってたような。
「あんなに惹かれる飛び方をするもんだからねえ」
「あー解る解る。ほんと挑発的な飛び方するからなー」
「サイファー追いかけてPJにやられた時は俺本気で引退を」
「その後俺ボコボコにされたっす……」
 まあ、流石に大人数だったんでヴァレーにとんぼ返りする事になったんですけどね。

「また会おう、今度は空で!」
「はい」
 その約束は、果たされることはなく……。

 結局、最初の緊張って何だったんでしょうってぐらいあっさり話が進んでしまったんですが……。
 ああも笑って話してくれるなんて思ってもいなかった。あんなに……。
「サイファー、どうしたっすか?」
「パト君は、何のために飛んでます?」
「平和のため!」
 羨ましいまでの即答ぶりで。
「私は……報復の為でしたよ」
「……ベルカに、すか?」
 首を振った。その相手には、拳で片が付いてしまった。
 翼を笠に着た事は、否定しませんけど。
「ああいう飛び方もあるんですね……
 ただ好きだったから。
 純粋に、単純に、それだけで。
「所でPJ、帰ったら彼女とお楽しみか?」
「ななななな何でそうなるんすか!?」
「何でってそりゃあ、一番機に追い抜かれ……」
 仁王立ちのアデーレさんが、クロウ2をどうしたかは言うまでもなく。
「アデーレさん、後でソレ貸して」
「あいよー」